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ルーク「拍手ありがとうな。二回も押ししてくれた貴方だけに、天使の格好をしていたのが本当はどっちだったのかをこっそり教えるな」
アッシュ「わざわざ教えなくても、わかるだろうけどな」
ルーク「そんなこと言うなって」
ハル「で、真相は?」
リズ「何の話かしら?」
ハル「師団長の天使、って演技だっつってもありえねぇだろうよ」
リズ「ルーク様よ」
ハル「やっぱりなぁ~」
リズ「アッシュ様にやっていただきたいって依頼だったのだけど、ルーク様に押し付けたのよ。お二人はよく似てらっしゃるから、皆さんあの天使はアッシュ様だと思ったようだけど。御自身は仮面をつけてルーク様のふりしていたわね。だから『忘れろ』と言ったのがアッシュ様の方ね」
ルーク「ということでした。まったく、アッシュってばオーボーだよな」
アッシュ「てめぇの方が似合うんだからいいんだよ。ったく、横暴ぐらい漢字で言えねぇのかよ」
ルーク「やっぱ横暴」
アッシュ「何か言ったか?」
ルーク「言ってません。それより管理人から伝言があっただろ」
アッシュ「逃げたな」
リズ「当サイトでは現在『かわいそうな特務師団員』の名前を募集しています」
ハル「ってあいつ名前ねぇのかよ。ホントにかわいそうなヤツだなぁ」
リズ「期間はこの拍手が掲載されている間となります。名前を考えるのが苦手な管理人に是非救いの手を差し伸べてください」
ハル「そうだよなぁ~。俺とかもう一人とか・・・・・・・」
リズ「ん、うん(咳払い) 名付け親になってくださった方は、人物紹介のページに明記させていただきますので、HNの記入をお忘れないようお願いします。HNと『かわいそうな特務師団員』の名前は区別が付くように書いてください。匿名希望の方は『匿名希望』と明記するか、無記名でお願いします」
ハル「俺たちにゃあ関係ねぇけど、『ユリア様が行く』設定のランバート伯爵の名前も募集中だとさ。けどさ、名前が決まらなきゃあっちは書けねぇんだから、俺たちにとっては応募がない方が好都合ってことじゃねぇのか? こっちはかわいそうなまま放っておいても問題ねぇだろうし」
アッシュ「確かに。その通りだな」
ルーク「かわいそうだろ」
アッシュ「やはり人生終わらせておくべきだったか?」
ルーク「アッシュ? 官舎内で秘奥義はまずいって・・・」
ハル「ぅわぉ!? おもしろそうじゃねぇの。見学見学v」
『かわいそうな特務師団員』にとどめをさすために駆け出したアッシュと、それを止めるためにアッシュの後を追いかけるルーク。ハルは随分のんびりとした足取りであるが騒がしい方向かえばいいだけなので赤毛二人を見失うことはないだろう。きっと巻き込まれて見物どころではなくなるだろうけれど。
リズ「え~と。管理人から収拾つかなくなってきたので終わるようにとの指示が出ましたので、終わります。現在の拍手掲載物は『かわいそうな特務師団員』とこの座談会の二つとなっております」
管理人「『かわいそうな特務師団員』ってタイトルじゃないのですけど・・・。いえ、別にいいです。それでも・・・・。拍手ありがとうございました」
あとがき?(2012/10/14追記)
ブログ用に手直ししようと思ったのですが、色々難しかったので拍手に掲載したものをそのままUPしました。当たり前ですが、名前募集企画は終了しております。
拍手掲載当時、意外と人気者な『かわいそうな特務師団員』くんでした。
名前募集企画に参加してくださった皆様に改めて感謝を。
ありがとうございました<m(__)m>
せっかくいただいたお名前を活かすことができず、申し訳ありませんでした。
異常が日常となった日。
自分はあの日のことを一生忘れることはできないだろう。
◇
「ん~。大袈裟だなぁ~」
「そんなことないです。俺の人生の転機だったんですから・・・・・・・・・・って、なに他人の日記覗き込んでいるんですか?」
「なんだ。そいつぁ日記だったのか。まぁいい、続きは?」
「よくないですけど・・・・・・」
言ったところで聞かない人であることはわかっている。どうせ書き終えるまで離れることはないだろう。よしんば今逃れることができたとしても、いずれはバレるのだ。この人に興味を持たれてしまった時点で、自分の運命は決まったようなものだった。
それでも前門の虎の恐怖で後門の狼の存在を忘れていられた間はまだマシだったのだろう。
後で思い返してみればそうだったというだけのことだ。その時は虎の恐怖だけで手一杯だった。それでも思い返してみられるという幸運にこれほど感謝した日もないだろう。
とにかく今は続きを書かなければならない。この瞬間はそれが唯一の生き残る道だと思っていた。冷静に考えればその道が終焉に続いていることは預言を詠むまでもなく明らかなことだったというのに。
見られているという状況は緊張するが、存在を忘れることにして書き進める。もちろん忘れるには存在感がありすぎてちょっと無理そうな相手なのだが。
◇
あれは自分がまだ特務師団員になる前のことだ。
その日は教会主催で身寄りのない子供たちのために劇が行われるということで、普段より多い巡礼者で教会内はごった返していた。急遽警備の任務に就くことになった自分は慌てて持ち場に向かった。本当に急な話だったので、かなりあせっていたのだろう。運命の出会いは前方不注意による衝突事故だった。
「あっ」と思った時には既に遅かった。
しかし思ったような衝撃はない。
「ごめん。大丈夫か?」とその白い物体は言った。馬乗りになるような形で押し倒されたのだが、不思議と重たいとは感じない。
「は、はい。大丈夫です」
赤い髪に翡翠の瞳の子供は「よかった」と安心したような微笑を浮かべると、すくっと立ち上がって、そうして駆けていってしまったが、見送った背中には白い翼があった。
その後姿に、あの衝突で自分は天国まで飛ばされてしまったのかと思ったが、そんな白昼夢も一瞬にして現実に引き戻されることになる。
「見たな?」
頭上から降ってきた不機嫌そうな子供の声。
「はい?」
見上げれば仮面をつけた子供が仁王立ちしていた。
「見たよな」
「は、はい」
「忘れろ!」
「はい?」
「今すぐ忘れるんだ。忘れられないというなら忘れさせてやろう」
その剣幕に反射的に「忘れました」と答えると、子供は腰の得物に伸ばしかけた手をひっこめて天使の後を追っていった。
後日、特務師団長が教団主催の劇で天使を演じたということを知った。
「特務師団長に天使役なんて務まるのか?」と首を傾げる同僚に「見ていないのか?」と尋ねると、信託の盾兵の観覧は禁止だったということを教えられた。
それが特務師団長が出演を引き受けるにあたっての条件だったらしい。
だからこその「忘れろ」という言葉だったのだろう。
特務師団自体が信託の盾(オラクル)内でも機密に近い部署であるため、その実体はあまり知られていない。自分もその時はまだ師団長が『鮮血』の二つ名を持っていることを知っていても、その姿を見たことはなかったのだ。
初めて見た特務師団長は天使の格好をした子供だった。
しかし子供が師団長という驚きよりも、あんな儚げな天使が師団長という驚きの方が大きかった。
そうしてそれからすぐ自分は特務師団への転属願いを提出したのだった。
◇
「なるほどなぁ~。さぞかし可愛かったんだろうなぁ~」
「そりゃもう。天使って本当にいるだなぁ~って(中略。熱く語る)俺、一生忘れません」
誰かに聞いてもらいたい、いやむしろ自慢したいという思いがあったのだろう。自分でも信じられないほどの熱弁だった。一通り語り終わって満足した自分は周囲の状況に警戒することを忘れていた。
それを黙って聞いていた男に目を向けると、彼はニヤニヤしていた。意地の悪い笑みだ。いや意地が悪いのはいつものことだったが、いつもに増してと見えるのが気のせいだったとしたらどんなによかっただろうか。
「それでおまえは『忘れろ』と言われたのにも関わらず、今でもしっかり覚えている。それどころか一生忘れることができない、と」
「えっ? あっ。そ、そうです・・・ね」
あぁ嫌な予感がする。
「うん、うん、うん」
背筋がぞわりとする。
「はい?」
「心配するな。後のことは任せろ」
自分はけっして気配に聡い方ではなかったはずだ。
これは気のせい。気のせいに違いない。気のせいであってください。お願いします。
「何のことでしょう、か・・・・・・?」
シャキーン! と、抜刀する音が背後で響く。
恐ろしくて振り返ることができない。
「墓は立派な物を用意してやるって」
墓? 墓ってなんですか? 誰のですか?
「墓碑銘は『忘れなかった男、ここに眠る』なんてどうよ?」
どうよ? って、どうなんでしょう?
その後の彼を知る者はなかった。
~GAME OVER~
「って、勝手に俺の人生ゲームオーバーにしないでください」
「いや~、だって勝てねぇだろうよ」
「いや、そうですけど」
庇うとか助太刀するとかそういう選択肢はないのでしょうか?
ないのですね。
いえ、そうだと思っていました。
どうする? どうしたらいいんだ?
考えられる選択肢は三つ。
立ち向かうか、逃げるか、謝るか。
前二者を選んだ場合、生存できる可能性はない。限りなく零に近いなんて言い方さえできない程にない。
最後の一つを選べば、まだ生き残れる可能性があるだろうか?
あぁしかし。選ぶ自由も許されなかったのですね。
「師団長自ら稽古をつけてくれるってよ。良かったなぁ~」
嬉しそうに言わないでください。
稽古で済みますか? 済みますよね。済んでください。
その後の特別訓練では何故か頭を重点的に狙われたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「あぁたぶん、気のせいじゃねぇと思うぞ」
だから見てないで助けてくださいって。
「っつうか、てめぇも忘れろ!」
シャキーン!
その後の彼らを知る者はなかった。
扉を開ける。机の上を見る。
そこには何故かきっちりプレゼント包装された30センチ四方の箱が一つ、鎮座していた。まぁ騒いでいたら、それはそれで驚いただろうが、後から思うとその方がよかったのではないか、などなどと・・・思わず現実逃避してしまうのは、主人公その1・特務師団師団長鮮血のアッシュ、
15歳。まだまだ素直になれないお年頃である。
さて、そのアッシュの肩越しにプレゼントらしき物を見つけて、嬉しそうに駆け寄るのは主人公その2、その1とすべて同じパーツでできているはずなのに別人にしか見えない彼の副官である。ここでは「補佐官」と呼ばれているが、その名はいわずもがななので、省略させていただこう。是非本編で確認していただきたい。
外見はともかく、精神年齢はそれよりかなり低いと予想される子供は、子供特有の好奇心でもって、果敢にもその物体の開封に挑み始めた。
シュルリと滑らかな音をさせて黒いリボンが引き抜かれる。次は紫色の包装紙だ。
黒に紫。
この悪趣味な組み合わせを見たときに気付くべきだった。
送り主のわからない物体を何故開けさせてしまったのか、と後悔するのは、相変わらずツンデレ属性ではあるが、以前よりデレの割合が大きくなった男・鮮血のアッシュ。実は意外と可愛い物好きであることが判明するまで秒読み開始。彼にとっての可愛い物の定義は彼にしかわからないのだが、今回の対象は万人が認めるところだろう。
さて、リボンは簡単にほどけたが、包装紙の方はそうはいかなかったようである。
箱をグルグル回してみたり、ひっくり返してみたりと忙しそうだ。
包装紙を破るという発想にはいたらないのだろうか?
「中身がわからねぇのに、逆さにしてんじゃねぇ」
つっこむところはそこではない。
何故ここで止めなかったのだろうか?
後から悔いるから、後悔というのだよ。それは反省である。同じ過ちを繰り返さないための教訓であって、なかったことにできるものではないのだよ、と誰か教えてやってください。話が進みませんから。
「天地無用って書いてないし、大丈夫なんじゃない?」
3人目の登場人物はおかしな仮面をつけた緑の髪の少年である。
一番年下なはずの彼が一番落ち着いているように見えるのは気のせいではない。厳然たる事実だ。
「だよな~」
ふぅ、と入り口まで届く程大きなため息をつく。
どうやら包装紙は剥けたようである。きっちり畳んで箱の横に置く。その上のリボンも絡まないように結ばれている。意外と几帳面なのか?
なにがでるかな~なにがでるかな~と今にも歌いだしそうな様子に目を細める二人の前で、子供は箱の蓋を開ける。
現れたのはボタン。
調度拳大ぐらいのそれはなんとも叩きやすそうだ。むしろ叩いてくれといっている。
「待て」
切羽詰った声が上がる。
しかしそんな制止も子供の好奇心の前では無力だ。
振り上げられた左手を捕まえるのと、それが叩きつけられるのは同時だった。
煙の色はもちろん紫だ。
感心すべきはそこではないだろう。
数秒で煙はなくなり、次に見たものは先ほどまでとはまったく違う衣装に身を包んだ子供だった。怒鳴ることも忘れて見惚れていたことは子供には内緒にしておいてやろう。
「似合う」
ぼそりと呟かれた言葉は、幸いなことにその対象人物には届いていなかったが、背後で成り行きを見守っていた人物には届いていたらしい。この件で彼がからかわれるのはまた別の話なので、今回は省略。ついでにどんな格好をしていたかも省略しておこう。無意識に独占欲を発揮している人物がいるので、あきらめていただきたい。他の同席者の存在は彼のなかで綺麗さっぱり抹消されているようである。
「貴様、なんて格好をしてやがる」
「ぶうさぎ」
なんてことだ、当事者がばらしてしまった。これでは内緒にした意味がないではないか。
そう、子供は「ぶうさぎのきぐるみ」を着ていた。ピンと立った右耳とちょっと折れ曲がった左耳のアンバランスが可愛らしい。
ここで気付くべきだったのだ。鏡のないこの部屋で、自身の変化を正確に言い当てたということがどういうことか。
しかし彼がそれに思い当たるのはすべてが終わった後である。
「あの野郎」
地を這うような。年相応とは言い難い声であったが、彼にはよく似合っていた。
誰かが何かを言う前に、勢いよく扉が開き、それから静かに閉まる。
薄いピンク色に黒い斑。わずかな赤い残像を残して走り去った影。
どこに向かったかなどは確認するまでもない。危険はないだろうから放っておこう。いや、一部今まさに命の危機にさらされようとしているかもしれないが、きっとその人物は大丈夫だ。これから何故死なないのかというよりは、死んでなきゃおかしいだろうとう場面を何度も乗り越えていく、ある意味最弱で最強の人物だ。今は、敵だか身方だかよくわからない微妙な立ち位置にいるが、こんなプレゼントをしてくるのだから悪い人ではない。感性がかなりずれていて誤解されることが多いだけである。いや常に誤解されているというか・・・・・・不憫だ。
アッシュが部屋を飛び出していってから数分後、一頻り薄いピンクに茶色の斑をした残されたぶうさぎを眺めて楽しんでいた緑の子供は、封筒らしきものを発見した。
それは蓋の内側に貼られていたようである。
「・・・・・・尚、その衣装は音素の結合力が弱いので10分程で乖離するはずです」
ポンと小さな音を立てて紫色の煙が立ち込める。それは上昇しながら霧散し、後にはいつもの服装に戻った赤毛の子供がいた。
「なんだったんだ?」
「彼なりの気遣いらしいよ。どっかずれてるけど・・・・・・」
顔を見合わせて笑いあう赤と緑。
彼らはまだ本当の首謀者が誰かは知らない。それもまた別の話である。
突然キョロキョロとあたりを見回した赤い子供は、もう一人の赤の不在に気付く。
そういえばさっき扉が開いたような。
「あいつ、あの格好で行ったのか」
「みたいだね」
一方は心配そうに、もう一方はやけに楽しそうだ。
「でもさあ、あれきぐるみだったぜ」
戻らなくても脱げば済むことだったのだ。戻らないと勘違いし、首謀者の元へその格好で廊下を駆け抜けていった目撃情報が報告されるまで、あと数分。
そして報告者は、そこにいる補佐官の姿を確認し、あれが自分たちの団長だったことを知る。
「内緒にしよう」
懸命な判断である。
ついでに補佐官の名前で緘口令が敷かれたことも明記しておこう。しかし人のいい補佐官は、その命令が及ばない人物が自分のすぐ隣にいることを失念していたのである。
誰がどんな格好で廊下を走り抜けたのか知れ渡るのも時間の問題だった。
一方、同時刻別の部屋で。
伺いもなく開け放たれた扉。
「意外ですが、貴方もよく似合っているじゃありませんか。さすが私です」
その一言で、彼は自分ももう一人と同じ姿に変わっていたことに初めて気付くのである。同時に自分の行動を振り返り青ざめ、行き場をなくした思いは、怒りと共に製作者に向けられる。
断末魔の叫びが教団内に響いたのは、秋晴れの空が高い日の午後のことだった。
最初に取り扱い説明書を読んでいれば。
きっちり使用上の注意を理解させておけば。
後から悔いるから、後悔というのだよ。それは反省である。同じ過ちを繰り返さないための教訓であって、なかったことにできるものではないのだよ、と誰か教えてやってください。
あとがき(とういう名のセルフつっこみ)
テーマは「取説はよく読みましょう。間違った使用方法による被害は補償しかねます。それでも逆恨みされるのだろうなぁ~。世の中って理不尽だよ。裁判すれば勝てるかもしれないけど、それも面倒だよな」です。
一番悩んだことが「赤毛二人の変身後の姿」だったり。
うしにん・ねこにん・女装・女体化・・・・・・過酷な脳内バトルの結果採用されたのは、「ぶうさぎのきぐるみ」でした。
字書きなので、台詞を少々変換して、その後の状況描写を書き換えればいいだけなのに(涙)
アッシュの独占欲を理由に未定にしようとしていた名残が・・・それもあの一言で霧散しましたけど。なんてことをしてくれたんだ!→アッシュ!
後はディストを表す色、ですね。ピンクか紫で悩んだ結果、勝者紫。ピンクはアリエッタだろう、っていうのが紫の勝因でした。
っていうか、明記しませんでしたが製作者が誰かはわかりましたよね。アッシュ以外の名前を出さないようにしたのはわざと、です。
あの「ぶうさぎのきぐるみ」を用意したのは誰か。
あの部屋には実は4人目の影が……(と書いてあったのですが、きっぱりすっぱり思い出せません/この括弧内のみ本日追記)
かつては混乱するばかりだったが、今回は冷静に流れる映像と音を受け止めることができた。
ヴァンが地核のローレライを取り込み生き延びる様に安堵し、同時にもう一度剣を交えなければならないことを覚悟する。正しくは「次こそちゃんと向き合おう」という覚悟だ。いつまでも仲間たちに甘えているわけにはいかなかった。もっとも仲間たちにしてみれば、ルークのためというよりも、自身の手でヴァンを討ち取りたいという思いが強すぎて歯止めが効かないだけである。
それから場面が一転し、大好きな赤が目の前を過ぎる。アブソーブゲートに巣食う魔物を蹴散らしながら、迷うことなく最深部を目指して駆けてくるアッシュの姿に、「ラジエイトゲートで待ってりゃいいのに」と思ったことは、ルークだけの秘密にしておくべきだろう。
―――ルーク!
それは耳で捉えた音なのか、それともフォンスロットを介した呼びかけだったのか。
ガツンと頭を殴られたような衝撃に続き、目の前が真っ白に染まる。気が付けば元の場所に戻っていた。
心配そうな表情で見つめる顔が一つ増えていることに、自分を地核から引き戻したのは今回もアッシュだったのだな、と思う。
「ゲートは?」
「宝珠に反応して譜陣が効力をなくしています」
「成功した、ってことか」
ほう、とルークは安堵の息を吐く。
アッシュがルークの髪をぐちゃぐちゃと掻き混ぜているのは、褒めていると認識するべきなのだろうか? 短いのであればまだしも、この長さでそれをやられては絡まるのは必至である。文句の一つも言ってやろうと思い、身体を起こして初めて、ルークは己がアッシュの膝を枕にしていたことに気付くのだった。
「え、あ、ゴメン」
その状況が衝撃だったのか、口を吐いて出たのは文句ではなく謝罪だった。
「構わねぇよ。それよりももう起き上がって大丈夫なのか?」
心成しか名残惜しそうに見えるのは気の所為ではないだろう。ルークが気付いていな事が幸いだと思うガイだった。
「あぁ、うん。大丈夫。それよりもアッシュ。ヴァン師匠(せんせい)が・・・・・・」
アッシュが言わなくてもわかっているとばかりに大きく頷く。
「あの馬鹿が。また捕まったようだな」
ジェイド同様「また」を強調するアッシュの台詞に、この世界のローレライにとっては初めてのこと、と突っ込む者は残念ながらいなかった。ついでにジェイドと同じことを言っていると突っ込める強者もいないようである。
「うん、さっき見てきた。久しぶりに聞くユリアの譜歌にフラフラと引き寄せられて・・・・・・」
「は?」
地核のローレライの言葉でヴァンがローレライを取り込んだことはわかっていたが、その時の状況までは知りようがなかったアッシュは、ルークの台詞に眉根を寄せる。
眉間に皺を寄せたアッシュを見て、何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか、という気になったルークだったが、口から出てしまった言葉を取り消すことはできない。こうなったら地核で何を見てきたのか話さないわけにはいかないだろう。
「ローレライがユリアの譜歌に特別な思いがある、ってのは皆も知ってるだろ」
それは今から二千年以上も前の物語。少女たちが喜びそうな異種族交流のお伽噺。
ティアやナタリアは目を輝かしてローレライの言葉に聞き入り、その様子を見ていたジェイドは「なるほど、少々脚色して美しい挿絵でもつければ、ベストセラーの絵本が作れそうですね」と感心したように呟き、ベストセラーと聞いて目をガルドにしたのはアニスである。そのうちアニス・タトリン著の絵本がオールドラント全土で発売されるかもしれない。もっとも売れるか否かはアニスの文才と画才に掛かっているので、元がどんなに少女受けする話だったとしてもベストセラーになるという保証はどこにもなかった。
それは九割強の好奇心と、わずかなそれ以外の思惑。ちなみにそれ以外にはユリアが外殻大地を作り上げた経緯や、終末預言を残しそして隠した理由などが含まれている。どう考えてもそれ以外の方が重要だと思われるのだが、瞳を輝かして聞き入る女性陣を見ていると好奇心の方が重要という分析が正しいと思っても過言ではないだろう。
「契約はどのようにしてなされたのですか」
その質問は何度目かの顔合わせの折にジェイドから発せられたものである。
人型を模したローレライは「ふむ」と考えるような素振りを見せた後、おもむろに話し始めたのだった。
単一の音素が集まる所に、自我が芽生える。
美しい歌だった。
その歌を認識した瞬間、わずかな感情を持つだけの存在だったモノが意識と呼べる程の自我を持った。
それがローレライだった。
―――美しい歌だな。
彼女も第七音素が己の周りに集まってきていることはわかっていただろう。その第七音素は目視できる程の濃さになり、球状になって空中に留まった。
「気に入っていただけたのなら光栄だわ」
彼女は第七音素が集まったことにも、そして声を発したことにも、わずかに瞠目するだけで取り乱したりはしなかった。
人間と接することが初めてだったローレライはそれがどんなに珍しいことであるかわかっていなかったが、今になって思えば彼女の反応は普通ではなかったのだ。それが彼女自身の器の大きさを示すものであり、自身が彼女に惹かれた所以でもあったと、今ならわかるというものである。
―――歌の礼がしたい。何か望むことはあるか?
女はユリア・ジュエと名乗り、名前を教えて欲しいと強請った。
それが礼になるのだろうか。
「貴方のために歌っていたわけではないもの。それで十分だわ」
―――我のことはローレライと呼べ。
その名はローレライの中に初めからあった。第七音素は記憶粒子である。膨大な星の記憶。自身の存在もまたその中にあった。それから彼女の愁いの理由もである。障気と大地の液状化による人類消滅の危機。それが彼女を悩ませている問題だった。しかしローレライには彼女が何故嘆いているのかはわからなかった。
星の誕生から消滅までの記憶。その長い時間の中で地表では人間や魔物が生まれては死んでいく。この美しい声が聞けなくなるのはもったいない気はしたが、ローレライにとってはそれもまた自然の摂理でしかなかったのだ。
「個の消滅と種の消滅は違うわ。受け継ぐ者がいれば私が消えてもこの歌は残るのよ」
ローレライは初めて人間の消滅を惜しいと思った。
―――ならば、探してみるか?
過去から未来へと続く膨大な量の星の記憶。過去一本道であったそれは今と言う時間軸を起点に膨れ上がり、星の消滅と言う終点へと向かい先細りしていく。結末は変わらないが、そこに辿り着くまでの道程(みちのり)と時間は無限に存在しているのだ。
その数多(あまた)ある可能性の中から彼女の歌を残す道を選ぼうとするのは傲慢だろうか?
しかしローレライは己の心の内に芽生えた誘惑を振り切ることはできなかった。
「星の記憶。そうね、そこに人類を存続させる術があるかもしれないのなら―――見させてもらうわ」
そうして彼女は液状化した大地から地表を切り離し、魔界(クリフォト)に障気を閉じ込める方法を見つけたのだ。
ユリアは人類を存続させる術を惑星預言(プラネットスコア)として人々に伝えた。
「預言なのだから従わなければならない」なんて少々強引な方法ではあった。しかし現状を説明し理解を得ているだけの時間が人類には残されていなかったのだ。
しかし実際にそれを実行したのはイスパニア国とフランク国の二国である。
ユリアはその能力と人望を恐れたこの二国により無実の罪で投獄され、処刑を待つ身となっていた。それでも彼女は誰を恨むでもなく、外殻大地の完成を喜んだ。
「ごめんなさいね」
―――何を謝る?
「歌を残すと約束したのに、守れないかもしれないわ」
―――見てみようとは思わないのか?
「貴方の知る数多ある未来の中には、私が生きている世界もあるのでしょうね」
彼女は惑星の預言を詠むことはしても自身の預言を詠もうとはしなかった。未来など知らない方がいいと彼女は言った。そう言いながらも彼女は惑星預言を詠み続けた。
人類の存続。彼女の願いはそれだけだった。
障気を地中に押し込め、液状化した地表から大地を切り離し、人類は一度滅亡を逃れることができた。しかしユリアは地中に閉じ込めた障気が地上に噴出してくることはないのか、浮上させた大地が落ちることはないのか、それを心配していた。惑星がいずれ消滅するというのであれば、その時まで人類が生き残る術を。一秒でも長く、一人でも多く、そのためなら犠牲がでることさえ厭わなかった。
そうしてできたのが七つの譜石の山である。
―――まだ続けるつもりか?
「私は私が思うより欲深かったみたいだわ」
ユリアは人類の滅亡に二千の猶予を与えたが、それが彼女の限界だった。
―――何も一人ですべてを背負い込むこともあるまい。
「ふふ。それもそうね」
ユリアと同等かそれ以上の預言士(スコアラー)―――惑星預言を詠む能力を持つ人間をローレライ教団の導師として保護し、人類存続の道を探ること。幽閉の身から解き放たれたユリアはローレライ教団に人類の未来を託し、自身はローレライの愛した歌を後世に残すために世界を旅し、ホド島でその生涯を終えたのである。
譜石に次代の導師の存在が詠まれていた意味を知り驚いたのは、ユリアの譜石に最後の導師として名を刻まれた少年だった。
「僕以降の導師の不在は、ユリアの能力の限界と、歴代導師の力不足が原因だったって訳か」
自分を含める歴代導師の不甲斐無さを嘆くと共に、そのお蔭で自身のレプリカを得ることができたことを僥倖と思う。相反する思いに被験者イオンは苦笑するしかなかった。
「ユリアの願いは後世に伝わらず、滅亡を記した第七譜石は隠され、預言は守らなければならないものとされてしまったということですか」
いつ誰がどんな意図で教団のあり方を変えてしまったのか、今となっては知りようのないことだった。それにそれを知ったところで何かの役に立つとは思えず、ジェイドはそこで口を噤む。
一つだけユリアの預言を陵駕する預言があった。かつてレプリカイオンがその命と引き換えに残した障気の中和に関する預言がそれである。
(歴代導師に彼と同等の能力があったのならば・・・・・・)
もしもを論じたところで意味がないことはわかっていたが、それでももしもと思ってしまうのは仕方のないことだろう。
(いや、やめておきましょう)
ジェイドが想像してみた世界では自分たちは出会っていなかった。ルークやイオンたちにいたっては存在さえしていないのだ。ルークやイオンたちレプリカが生まれるために必要なことだったと思えば、ローレライ教団の変貌さえも許せてしまうから不思議である。
「大譜歌を詠えるのは私と兄だけのはずです。ユリアはもっと沢山の人に歌って欲しかったのでしょうね」
ユリアの譜歌はローレライへの供物だった。ユリアはローレライのためにただの歌として歌われることを願っていたのだろう。それを攻撃の道具としてしまった子孫を彼女やローレライはどう思うだろうか。それでも第七音素(ローレライ)は譜歌に力を与えてくれていた。それ程譜歌はローレライにとって心惹かれるものだったのだったのだ。
「もう何年も譜歌を聞いていないのですものね」
ローレライの譜歌に対する執着を知っているだけに、地核のローレライがヴァンの詠った大譜歌に引き寄せられてしまったこともわからないではなかった。
ティアは地上のローレライと新たな歌で新たな契約を結び、ユリアの譜歌を詠わなくなって久しい。もう一人の詠い手であるヴァンはティアたちにより詠うための機会と声を奪われ、この七年間大譜歌を詠うことはできなかったはずである。地核のローレライはもう何年も寂しい思いをしていたのだろう。
地核に落ちたヴァンが何を思ってそこで大譜歌を詠ったのかはわからなかったが、譜歌に飢えていたローレライがその歌に抗えなかったことは想像に難くない。地核のローレライを責めるのは酷というものだろう。
もっとも地核のローレライに同情的な考えを持つ者はここでは少数派である。
「ヴァンがこんなに早く声を取り戻すとは、もう少し強力な薬を用意するべきでしたね」
唯一自分を責めるジェイドを除いては、殆どの者が易々とヴァンに捕らわれた地核のローレライを情けなく思っていたのだった。
イオンはセフィロトのダアト式封咒を解いてはおらず、ヴァンがパッセージリングに細工をすることは不可能なはずだ。
アルバート式封咒は消滅させたのだから、どこのセフィロトからでも操作ができるのではないだろうか。そう言ったのは誰であろうか。その言葉を受けて大きく首を振ったのはジェイドだった。
「アクゼリュスのパッセージリングはまだ完全に消えたわけではありませんので」
降下する大地の隙間から外殻大地に戻ってきたばかりだというのに、すっかり忘れていた面々にジェイドは呆れ顔である。一週間後に消滅することが決まっているとはいえ、現在まだセフィロト同士の繋がりはアルバート式封咒によって閉ざされていた。だからといって、アクゼリュスの降下が終わるのを待っていられない様子のジェイドというのは、どこか不自然のような気がしないでもない。
「外殻大地って、そんなにヤバイ状態なのか?」
前はもっと時間があったような気がする。色々変えてしまった弊害がこんな所で現れたのだろうか?
「いえ、大地に関してはまだ充分に時間があると思います。―――問題は戦争の方です。ピオニー陛下にその意志がなく、ファブレ公爵夫人がキムラスカ軍を抑えてくれているとはいえ、国境付近の両軍は一触即発の状態にあることでしょう」
戦争をしている場合ではないとキムラスカ国王に思わせるためにも外殻大地の降下を急ぐ必要があった。
「ルグニカ平野だけ先に降ろしてしまうということもできますが、それが開戦の切欠となる可能性もありますので」
世界が瀕している危機を知らず呑気に戦争をしようとしている人々に、この世界を脅かす驚異をわかりやすい形で示すためには、外殻大地を降下させるぐらいの劇薬が必要だろう。前回一度障気で世界を覆ったというのも、今思えばよい手段だったのかもしれなかった。しかしそれはもう使えない手段である。
「そういうことなら、急いだ方がよさそうだね」
シュレーの丘のダアト式封咒はオリジナルイオンが解呪することを申し出た。
「イオン様とノエル、それから漆黒の翼の皆さんはここで待っていてください。ヴァンたちが来ないとも限りませんので見張りをお願いします。フリングス少将はアルビオール三号機でグランコクマへ。フローリアンを連れてきてください。ギンジ、頼みましたよ」
どちらに付いていくべきか悩んでいる様子のジョゼットの背中を押したのはナタリアたち女性陣である。
「これだから殿方は、気が利かなくて困りますわ」とジェイドを睨むナタリアからそっと距離を取る男性陣の気持ちはわからないものではない。しかし触らぬ何とかにとは言うが、ジェイドに触らなかったことで別の祟りが待っているとは思わなかったのだろうか。どちらにしても祟られるというのであれば、どちらの方がマシなのか。それは戦争回避以上の難問だった。
自身の被験者(オリジナル)を苦手とするシンクも入り口に残ることにし、オリジナルイオンから離れることを厭うアリエッタは同行することになった。もちろんアリエッタのお友だちも一緒である。
セフィロトの最深部。パッセージリングの正面に設置されている譜石は、ティアが近付くとそれに呼応するようにその形を変化させた。ティアの身体に青白い光が吸い込まれ、パッセージリングの上部に操作盤が展開される。
「ご苦労様です。身体はなんでもありませんね」
「大丈夫です」
それはティアお得意の強がりでもなんでもなかった。確かに第七音素を取り込んだ感じはしたが、眩暈も吐き気もない。そのために魔界で障気を中和したのではあるが、上手く行くまではどこかに不安もあっただけに、当事者であるティアはもちろん、魔界での障気中和の発案者であるジェイド、そして誰よりもルークを安堵させた。
これで後はセフィロトに降下の命令を書き込むだけである。
「それでは、ティアとアッシュは次のセフィロトに向かってください」
掲げた手の行き場を失ったルークはその姿勢のまま固まり、名指しされたティアとアッシュはまじまじとジェイドを見遣る。
「どういうことだ」
ジェイドの真意が掴めないという意味では全員同じだったが、ルークと引き離されるかもしれないとういう状況に焦っているのはアッシュだけだった。
「時間が惜しいと言ったはずですよ。せっかく第七音素の使い手とダアト式封咒を解呪できる人間が複数いるのですから同時に攻略するべきでしょう」
ティアには無理をさせることになるが、確かにそうした方が効率は良さそうである。
「それなら、この子に乗っていくといいです」
ホーリーボトルを渡されて、「走っていってください」と言われている二人を見て気の毒に思ったのか、アリエッタがライガに二人を乗せて先に戻るように命じる。
「わかった。ジェイドもアッシュたちと次に行ってくれ。俺は一度やっているから一人でも大丈夫だと思うんだ。でも、アッシュは初めてだし、ジェイドが指示しながらの方がいいと思う」
「そうですね。貴方と会えないことを焦っていい加減なことをされても困りますし。お目付け役として私が付いて行った方がいいかもしれませんね」
ルークが心配しているのはそういう事ではなかったのだが、ルークとアッシュ以外はジェイドの心配の方がありえそうだと思ったことは当人たちには秘密である。
「そろそろアルビオール三号機が戻ってくるころだと思いますので、私たちは彼らと共にザオ遺跡へと向かいます。貴方方はここの書き換えが終わった後はタタル渓谷に向かってください。そうそう。入り口はしっかり閉めてから来るのですよ」
「任せとけって」
「えぇ、任せました」
残ったメンバーにセフィロト巡りの順番を支持する。全セフィロトを巡る必要のあるティアだけで、アッシュとルークはそれぞれ三つずつ、被験者イオンはルークと共に行動することになりやはり三つ、アッシュ側はイオンのレプリカである三人が担当することになった。レプリカである故の体力や能力の劣化を考慮してのジェイドの采配である。
ジェイドとティアはライガで、最後までルークと離れることを渋っていたアッシュはフレスベルクによって強制連行されていった。
アッシュたちを見送ったルークは改めてパッセージリングに両手をかざす。
かつてやったこととはいえ、ここは慎重にやらなければならない。これはルークとアッシュにしかできないことだった。アクゼリュスのパッセージリングを超振動で強制操作してしまったので、通常の方法でパッセージリングを操作することはできなくなってしまったのだ。
「これでヴァンに細工をされる心配はなくなりました」
項垂れるルークに対して、塞翁が馬だとジェイドは言ったが、あの故事は最終的にどっちで終わっていたのだろうか―――幸不幸は予想し難いという喩えであって、そういう意味ではない。それをいうなら怪我の功名ではないだろうか。
文字通り世界中を飛び回り、ラジエイトゲートとアブソーブゲートを除くすべてのセフィロトに降下の命令を書き込んだ後は、ケテルブルクに一度集まることになっていた。
集合場所にそこが選ばれたのは六つめのセフィロトに近いことと、協力者であるネフリーが住んでいるからである。
今生では知事になっていなければ結婚もしていないネフリーは、現在ピオニーが幼少期に軟禁されていた屋敷で暮らしていた。屋敷の使用人たちから未来の皇后として扱われていることにジェイドだけが苦り切った表情を浮かべる。当初は戸惑うばかりだったネフリーも七年も続けられては受け入れるしかなかったのだろう。
「これで残すはアブソーブゲートとラジエイトゲートだけとなったわけですが、どちらもダアト式封咒がありませんでしたから、ヴァンたちが何か仕掛けてくるかもしれません」
何故この二箇所だけダアト式封咒で閉ざされていなかったのかは謎である。空を飛ぶ手段を持たない人間には辿り着くことはできないと高を括っていたのだろうか。現代の人間にだって創世暦時代の遺産であるアルビオールを復活させることはできたし、魔物を手懐け空を翔ることができたのだ。軽率だったと思わないでもないが、そのお蔭で前回ラジエイト側からのアッシュの助力が得られたのだから文句を言う筋合いはなかった。あるいはそうなることも見越した上だったとしたら、ユリアはどこまで先を詠んでいたのであろうか。恐ろしいものがある。
「ヴァンがいるとしたらこちら側である可能性が高いですが、そちらではないという保証もありませんので、十分注意してください」
アブソーブゲートに向かうのはかつてと同様ルーク・ガイ・ジェイド・ティア・ナタリア・アニスの六人だった。ラジエイトゲートにはアッシュと漆黒の翼の三人、それから被験者イオンとアリエッタが向かうことになった。残りはケテルブルクで待機である。
被験者イオンが行く必要はまったくなかったが、ルークと離れることに難色を示すアッシュを動かすのにこれほど相応しい人物はいないということで、ジェイドにより指名されたのである。アリエッタが付いていくことに説明はいらないだろう。
「これが終われば一緒にいられるんだから、頑張ろうな」
ルークも自分と一緒にいたいと思ってくれていることに安堵しつつも、あっさりアルビオール二号機に乗り込む後姿に一抹の不安を覚えるアッシュだった。
アブソーブゲートの最深部。
かつてと同じようにオルガンを弾くヴァンの後姿がそこにはあった。
何故オルガン? と突っ込むべきなのだろうかと、ルークは暫し思案する。しかしヴァンの姿を見て足を止めたのはルークだけだった。
今更ここで問答をするのは時間の無駄だと思ったのか、その後姿を認めた瞬間にティアは太腿に忍ばせていたナイフを投げ付ける。ナタリアは立ち止まって弓を引き絞り、アニスは既にトクナガを巨大化させている。
「女性陣は気が短いですね」
そう言うジェイドはすでに詠唱を終了させており、後は機を見て術を発動させるばかりの状態だ。
「背後を突くなんて、卑怯じゃないのかい」
剣を抜いて脇を駆け抜けるガイの顔は実に楽しそうな笑顔だった。台詞と行動が伴っていないと思うのはルークの気のせいではないだろう。
演奏中を襲われたというのにあっさりナイフを避けたヴァンに、ティアは舌打ちを一つして今度はハヌマンシャフトを振り下ろす。
「ヴァン師匠(せんせい)を説得するんじゃなかったのか?」
「そういうことは、捕まえてからゆっくりやればいいのよ」
一応殺さずに捕らえるつもりはあるようである。その割にはまったく手加減しているように見えないのは何故なのだろうか。
「心配しなくてもこの程度で死ぬような方ではありませんわ」
矢尻に毒でも塗っておけばよかったですわと呟くナタリアは、己の放つ矢がヴァンの腕を薄く傷つける程度でしかないことが歯痒いのだろう。接近戦であればもう少しダメージを与えることもできるのだが、ティア・ガイ・アニスの三人がヴァンの周囲を固めている状態ではナタリアに入り込める余地はない。仕方がないので補助系譜術を前衛の三人に掛けつつも、秘奥義発動の機会を窺っているようである。
「貴方はアイテム係りに徹していてください」
道具袋を押し付けられたルークだったが、通常攻撃だけでヴァンを押さえ込んでいる前衛三人に何のアイテムが必要なのだろうか?
ジェイドは詠唱の合間に己でパイングミを口の中に放り込んでいる―――ジェイドの道具袋の中にはパイングミしか入っていなかったというのは後に判明する事実である。
戦闘に加わることもできず、ジェイドに押し付けられた仕事もどうやら必要なさそうで、ルークはそっとバリアー・シャープネス・レジストと補助系譜術を詠唱中のナタリアの横に移動する。
「グミいるか?」
「頂きますわ」
ついでにお茶も、と言い出しかねないナタリアの雰囲気に、己の無力さを噛み締めるルークだった。無力ではなくてヴァンに対して非情にはなりきれないために参戦できない―――させてもらえない―――のだとはわかっていないようである。
「失敗作に、倒されるとはな・・・・・・」
ルークが何もしない内にヴァンは膝を付くことになったのだから、ヴァンを倒したのはルークではない。ルークが集めた―――ルークのために集まった―――パーティーに倒されたという意味ならその台詞もあながち間違ってはいないのかもしれないが。
笑いながら後退るヴァンに後ろは見えているのだろうか? ヴァンの背後は断崖になっていた。
「ヴァン師匠(せんせい)」
それに逸早く気付いたルークがヴァンに駆け寄るのと、ヴァンの足が空に踏み出されるのはほぼ同時だった。
「そんな」
それは誰もが抱いた思いであった。
差し伸べた手は拒絶され、ヴァンの身体は地核へと飲み込まれていく。
床に突き刺さった剣がそこに男がいた証のように音素の光に鈍く輝いていた。
「行きましょう」
最初に動いたのはティアだった。その声に動揺はまったく見られなかった。むしろ動揺しているのはルークの方だった。
「何を惚けているのですか? 時間がありません。行きますよ」
そんなルークには慰めるよりも、叱りつけた方が効果があった。事実ジェイドの声に反応するようにパーティーの後を付いてきている。しかしその歩みにいつものキレはまったくなかった。ほとんどガイに引きずられるようにしてパッセージリングの前に移動しても、ルークはまだ心ここにあらずといった感じである。
ヴァンを無事―――死んでいなければよい、という認識は果たして無事と言ってもいいものなのだろうか―――連れて帰ることを望んだのはルークだけではない。その理由はそれぞれ違ってはいたが、ヴァンが地核に落ちてしまった時は、誰もが計画通りにいかなかったことに少なからずショックを受けたのである。ルークの気持ちがわからないわけではなかったが、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。
「ルーク、しっかりしなさい。これはあなたとアッシュにしかできないことなのですよ」
「アッシュ」と名前を聞くだけで精神安定剤にでもなるのだろうか、見る見るうちに生気を取り戻していく。
「わかっている。行こう、みんな。アッシュが待ってる」
「妬けますねぇ~」と言ったジェイドの言葉はただガイをからかうためだけの言葉だったはずだが、「まったくだ」とガイはかなり本気で同意する。まあそれでもルークが元気になったのであれば、ガイとしてはそれでいいわけなのだが。後でアッシュに嫌がらせの一つでもしてやろう、という思いがきっちり両立しているあたり、ガイとアッシュはある意味似たもの同士なのかもしれない。
大きく一つ息を吐くとルークはティアが起動させた操作盤の前に立つ。そういえば、ラジエイトゲートにユリア式封咒はないのだろうか? かつても協力してくれたのだから、今回も大丈夫だと思ってはいたが、少しだけ心配になる。そして最初からアッシュを当てにしていた自分が情けなくなった。当てにしなかったとしたらしなかったで、それはそれでアッシュが拗ねて面倒なことになるとは思わないのだろうか。
もしもの時は一人でもやってみせるから、とルークは決意も新たにパッセージリングに向けて両手を掲げた。
―――アッシュ。
降下準備が整ったことを知らせるために、久しぶりにフォンスロットを繋ぐ。
―――どうした? 何かあったのか?
ただでさえ自分の感情を隠すのが下手なルークに、フォンスロットが繋がっている状態でそれをやれというのはほぼ不可能に近い。
―――大丈夫。
―――大丈夫って雰囲気じゃねぇな。
―――うん。あとで話すから。今は・・・・・・時間ないんだろ。
―――ったく、まぁ話す気があるだけ進歩してるようだな。
フォンスロットが繋がっている状態であれば、アッシュにルークの記憶を探ることは可能だ。しかしそれをしている時間がないというのはアッシュにも言えることだった。しかし何に対して「時間がない」と感じているのか、そこに違いがあることに二人は気付いているだろうか。開戦まであまり「時間がない」ので早く外殻大地を降下させなければと思っているルークと、ローレライの力が弱まっている今あまり長い時間回線を繋いでいると混ざるかもしれないので、回線を繋いでいる「時間がない」と思っているアッシュでは、同じ言葉でも意味はまったく違う。しかし意味は違っていても外殻大地の降下を急ごうという結論には達するところは一緒だった。
―――始めるぞ。
―――おう。
第七音素の光が掌からパッセージリングへと伸びる。
前より楽だと感じるのはルークの超振動を操る能力が上がっているからか、それともアッシュの助力が最初からあるからなのか。たぶんその両方なのだろう。
「全大陸が降下を始めました」
ジェイドの声に、ルークは「ふう」と詰めていた息を吐き、両手を下ろす。
―――うまくいったようだな。
―――うん。アッシュのお蔭だ。ありがとう。
最初から共にやるときめていたことだ。礼を言われることではないと、アッシュが返事をしようとしていた時だった。別の声がアッシュの言葉を打ち消すように割り込んでくる。
―――アッシュ・・・・・・ルーク! 鍵を送る! その鍵で私を解放して欲しい! 栄光を掴む者・・・・・・私を捕らえようと・・・・・・私を・・・・・・
それは馴染んだ声と同じだったが、決定的に違っている所が一点だけあった。
激しい頭痛を伴っているのである。
アッシュとの回線や地上のローレライからの呼びかけでは痛みはほとんどなかったから忘れていた感覚。懐かしいなぁ、なんて余裕を言っていられるのは最初だけだった。
声から解放されると同時に、片膝を付いて荒く息をする。
「ルーク? どうしました?」
「ローレライが・・・・・・」
「ローレライ? あの方が何か言ってきたのですか?」
ルークたちにとってローレライと言えば地上のローレライのことだ。だが同位体馬鹿な彼(か)の集合体がルークを苦しめるようなことをするだろうか。それでも他に方法がなかったとしたら、余程切羽詰った状態にあるということだ。
ジェイドの勘違いに気付いたのだろう。慌てて頭を振ったルークが頭痛をぶり返させて蹲る。
「ちが・・・・・・そっちじゃなくて、地核の方、だと思う」
「おや、まだ声を届けるだけの力が残っていましたか」
ルークを苦しめるだけでしかない存在に対して、同情する余地などまったくないジェイドは、さっさと地上のローレライに吸収されてしまえばいいのにと、かなり辛辣だ。
「これ」と差し出したルークの掌の上には透明な球があった。
「それは・・・・・・宝珠ですね」
「ああ、地核のローレライが送ってきたんだ。解放して欲しい、って」
「なるほど。また捕まったんですね」
この世界のローレライにとっては初めてのことなのだから、「また」という言い方をしてはかわいそうだろう。
「そしてヴァンはしぶとくもまた生き残った、ということですね」
いやだから、この世界のヴァンにとっては・・・・・・以下略。わかっていて言っているジェイドに対しては言うだけ無駄というものだ。
「しかし、宝珠が手に入ったことは好都合です。ここがアブソーブゲートなのも何かの導きでしょう。ついでにプラネットストームを停止してしまいましょう」
「勝手にそんなことしていいのかよ」
かつてはエルドラントを覆っていた障壁を消すために必要だと各国の代表者に認めさせて行ったことだった。
「ここまで勝手にやってしまったのですから今更ではないですか。それに調度よいかもしれません」
プラネットストームを停止させ音素の量が減れば、譜業や譜術もの威力は激減するだろう。それは戦争の被害を減らすことに繋がることだった。もっとも音素はそんなに急激に減るわけではないので過剰の期待を寄せるべきではない。それよりも開戦を防ぐことを第一に考えて行動するべきだろう。
大地の降下に続き、プラネットストームが停止すれば、混乱は必至である。説明を求める人々の対応に追われ、戦争どころではなくなるのではないか。それは混乱の原因が相手国にあるとして開戦の理由にされる危険と紙一重の賭けでもあったが、世界中に散った協力者たちが人々を扇動することになっている。混乱した一般人に詰め寄られ戦争どころではなくなっている為政者や軍人たちの姿が目に浮かぶようだった。ちなみに協力者とはもちろん被験者(オリジナル)イオンの指導を受けたサーカス一座『暗闇の夢』のことである。
彼らが上手くやってくれるだろうと信じ、ルークは譜陣の中心でローレライの宝珠を掲げるのだった。