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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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【ダアトの日常~ある特務詩団員の終焉~】①

苦し紛れの蔵出し企画第2弾。
【ダアトの日常~ある特務詩団員の終焉~】拍手1
(2007/10/13まで拍手にて公開。2012/10/14再掲載)



異常が日常となった日。
自分はあの日のことを一生忘れることはできないだろう。
 



            ◇


「ん~。大袈裟だなぁ~」
「そんなことないです。俺の人生の転機だったんですから・・・・・・・・・・って、なに他人の日記覗き込んでいるんですか?」
「なんだ。そいつぁ日記だったのか。まぁいい、続きは?」
「よくないですけど・・・・・・」
言ったところで聞かない人であることはわかっている。どうせ書き終えるまで離れることはないだろう。よしんば今逃れることができたとしても、いずれはバレるのだ。この人に興味を持たれてしまった時点で、自分の運命は決まったようなものだった。
それでも前門の虎の恐怖で後門の狼の存在を忘れていられた間はまだマシだったのだろう。
後で思い返してみればそうだったというだけのことだ。その時は虎の恐怖だけで手一杯だった。それでも思い返してみられるという幸運にこれほど感謝した日もないだろう。
とにかく今は続きを書かなければならない。この瞬間はそれが唯一の生き残る道だと思っていた。冷静に考えればその道が終焉に続いていることは預言を詠むまでもなく明らかなことだったというのに。
見られているという状況は緊張するが、存在を忘れることにして書き進める。もちろん忘れるには存在感がありすぎてちょっと無理そうな相手なのだが。


            



あれは自分がまだ特務師団員になる前のことだ。
その日は教会主催で身寄りのない子供たちのために劇が行われるということで、普段より多い巡礼者で教会内はごった返していた。急遽警備の任務に就くことになった自分は慌てて持ち場に向かった。本当に急な話だったので、かなりあせっていたのだろう。運命の出会いは前方不注意による衝突事故だった。
「あっ」と思った時には既に遅かった。
しかし思ったような衝撃はない。
「ごめん。大丈夫か?」とその白い物体は言った。馬乗りになるような形で押し倒されたのだが、不思議と重たいとは感じない。
「は、はい。大丈夫です」
赤い髪に翡翠の瞳の子供は「よかった」と安心したような微笑を浮かべると、すくっと立ち上がって、そうして駆けていってしまったが、見送った背中には白い翼があった。
その後姿に、あの衝突で自分は天国まで飛ばされてしまったのかと思ったが、そんな白昼夢も一瞬にして現実に引き戻されることになる。
「見たな?」
頭上から降ってきた不機嫌そうな子供の声。
「はい?」
見上げれば仮面をつけた子供が仁王立ちしていた。
「見たよな」
「は、はい」
「忘れろ!」
「はい?」
「今すぐ忘れるんだ。忘れられないというなら忘れさせてやろう」
その剣幕に反射的に「忘れました」と答えると、子供は腰の得物に伸ばしかけた手をひっこめて天使の後を追っていった。
後日、特務師団長が教団主催の劇で天使を演じたということを知った。
「特務師団長に天使役なんて務まるのか?」と首を傾げる同僚に「見ていないのか?」と尋ねると、信託の盾兵の観覧は禁止だったということを教えられた。
それが特務師団長が出演を引き受けるにあたっての条件だったらしい。
だからこその「忘れろ」という言葉だったのだろう。
特務師団自体が信託の盾(オラクル)内でも機密に近い部署であるため、その実体はあまり知られていない。自分もその時はまだ師団長が『鮮血』の二つ名を持っていることを知っていても、その姿を見たことはなかったのだ。
初めて見た特務師団長は天使の格好をした子供だった。
しかし子供が師団長という驚きよりも、あんな儚げな天使が師団長という驚きの方が大きかった。
そうしてそれからすぐ自分は特務師団への転属願いを提出したのだった。


            



「なるほどなぁ~。さぞかし可愛かったんだろうなぁ~」
「そりゃもう。天使って本当にいるだなぁ~って(中略。熱く語る)俺、一生忘れません」
誰かに聞いてもらいたい、いやむしろ自慢したいという思いがあったのだろう。自分でも信じられないほどの熱弁だった。一通り語り終わって満足した自分は周囲の状況に警戒することを忘れていた。
それを黙って聞いていた男に目を向けると、彼はニヤニヤしていた。意地の悪い笑みだ。いや意地が悪いのはいつものことだったが、いつもに増してと見えるのが気のせいだったとしたらどんなによかっただろうか。
「それでおまえは『忘れろ』と言われたのにも関わらず、今でもしっかり覚えている。それどころか一生忘れることができない、と」
「えっ? あっ。そ、そうです・・・ね」
あぁ嫌な予感がする。
「うん、うん、うん」
背筋がぞわりとする。
「はい?」
「心配するな。後のことは任せろ」
自分はけっして気配に聡い方ではなかったはずだ。
これは気のせい。気のせいに違いない。気のせいであってください。お願いします。
「何のことでしょう、か・・・・・・?」
シャキーン! と、抜刀する音が背後で響く。
恐ろしくて振り返ることができない。
「墓は立派な物を用意してやるって」
墓? 墓ってなんですか? 誰のですか?
「墓碑銘は『忘れなかった男、ここに眠る』なんてどうよ?」
どうよ? って、どうなんでしょう?


その後の彼を知る者はなかった。

  ~GAME OVER~ 



「って、勝手に俺の人生ゲームオーバーにしないでください」
「いや~、だって勝てねぇだろうよ」
「いや、そうですけど」
庇うとか助太刀するとかそういう選択肢はないのでしょうか?
ないのですね。
いえ、そうだと思っていました。
どうする? どうしたらいいんだ?
考えられる選択肢は三つ。
立ち向かうか、逃げるか、謝るか。
前二者を選んだ場合、生存できる可能性はない。限りなく零に近いなんて言い方さえできない程にない。
最後の一つを選べば、まだ生き残れる可能性があるだろうか?
あぁしかし。選ぶ自由も許されなかったのですね。
「師団長自ら稽古をつけてくれるってよ。良かったなぁ~」
嬉しそうに言わないでください。
稽古で済みますか? 済みますよね。済んでください。
その後の特別訓練では何故か頭を重点的に狙われたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「あぁたぶん、気のせいじゃねぇと思うぞ」
だから見てないで助けてくださいって。
「っつうか、てめぇも忘れろ!」
シャキーン!

その後の彼らを知る者はなかった。

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