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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑮

ルークたちがレムの塔から戻ってくると、そこは随分と賑やかになっていた。

地面に厚手の布を敷いてお茶会をしているのは、ナタリアと二人のイオン―――被験者(オリジナル)とレプリカのイオン―――だった。テーブルと椅子は持ってこられなかったのだと、ナタリアは実に残念そうに語った。給仕をしているのはアリエッタである。伊達や酔狂で導師守護役をやっていたわけではないのだろう。その手付きは慣れたものだった。
それをちょっと離れたところから眺めているシンクの手にも、同じ意匠のティーカップがあった。そんなところで立って飲んでいるのなら、皆の輪に加わればいいのと思わないでもないが、それがシンクの最後の砦なのだろう。
ジェイドはアルビオールの二人の操縦士(パイロット)相手に地図を広げて、なにやら指示をしている。
漆黒の翼の三人とアスラン、ジョゼットがそれを一歩後ろから覗き込んでいた。
将軍職にある二人が現場を放棄してもいいのだろうかと思わないでもないが、アクゼリュスに不法侵入していた盗掘者たちをマルクト本国に引き渡した後、それぞれの国に戻る前にアルビオール3号機で迎えにきたナタリアに拉致されてしまったのである。各隊の副官以下すべての隊員が笑顔で二人を送り出したのは、彼らの恋を応援したいと思っていたからだろうか。
「ナタリア。よかった。無事だったんだな」
ナタリアたちの姿を見つけたルークが駆けてくる。
「まぁ。それはわたくしの台詞ですわ」
「バチカルは・・・・・・、戦争は・・・・・・、母上や屋敷のみんな、それから・・・・・・」
「落ち着いてくださいませ、ルーク。そんなに一度に言われても答えられませんわ」
ルークの両手はナタリアの両肩を掴んでいる。唇が触れ合いそうなぐらい顔が近い。追いついたアッシュはそれを見て、ルークとナタリアを慌てて引き離す。誰に対してどんな思いがあったのかということはアッシュの名誉のために伏せておくとしよう。
「あ、うん。ごめん」
項垂れたルークの頭をぐしゃりと掻き混ぜて落ち着かせると、「それで」とナタリアに先を促すのはアッシュの役目だ。
ルークたちがバチカルを発ってからナタリアがバチカルを飛び出すまでの経緯が、ナタリアの口から語られる。それに被験者のイオンが補足を加え、バチカルの様子はだいたい把握することができた。
「後は母上に任せておけば大丈夫なはずだ。ナタリアも良くがんばったな」
知っていたこととは言え、インゴベルトに拒絶されるのは辛かったことだろう。
アッシュが労えば、今度はルークがナタリアを慰める。
「伯父上も今は突然のことで混乱しているだけだって。落ち着けば元のナタリアのことが大好きな父親に戻るに決まってるって」
よく似た、しかしまったく違う二人のステレオ放送に、ナタリアは「大丈夫ですわ」と笑ってみせる。この二人が共にいてくれるのであれば父親なんていらないと、強がりではなく本気で思うナタリアだった。真に憐れなのは、娘に見限られたかもしれない国王の方だろう。
「モースに自分で考える頭がなくて助かりましたわ」
一言発する度に自分の首を絞めるモースは見ていて滑稽でしたわ、とナタリアは笑う。
「預言である」以外の言葉を知らない彼にナタリアを排除することなど土台無理なことだったのだ。
「今年の誕生日に詠まれた預言に『王家の血を持っていないことが発覚し、その罪で裁かれる』とあるとでも言えば、預言に沿った形で姫を排除することもできたかもしれないのにね」
クスクスと楽しそうな笑い声と共にキムラスカ王族たちの会話に無遠慮に口を挟んできたのは、被験者イオンだった。
ナタリアは―――現在オールドラントに住まうすべての人間もそうだったが―――ここ数年誕生日に預言を詠むということを行っていないので、そんな預言が存在するということ自体が既に苦しい言い訳であるが、まぁこれならばモースの言い分が通る可能性もあっただろう。預言信望者であるインゴベルトならばその可能性は数倍に跳ね上がる。
「あの男は良くも悪くも預言信望者だからね。預言を捏造するなんて考えも付かないんじゃないかな。でも、もしそう言われていたらどうするつもりだったんだい? 姫は」
何年も前に預言を捏造することを思いつき実行した元導師―――現在は漆黒の翼の影のボスだろうか―――は意地の悪そうな笑みを浮かべて問う。
試されているのだろう、とナタリアは思う。これは受けて立たないわけにはいかなかった。
「わたくしに預言を詠んでいただいたという記憶はないのですが」という前置きは王女の預言を無断で詠むことができる者はいない。つまりそんな預言は存在しないと言っているのと同じである。
「証拠の譜石を求めましょうか。その預言を詠んだという預言士(スコアラー)を連れてくるように言うのもよいですわね。そんなものが存在するのでしたら、ですが」
二の矢をあっさり跳ね返したナタリアの姿に、王家の血を引いていないという理由で排斥するには勿体無さ過ぎると思う被験者イオンだった。キムラスカが要らないというのなら、ダアトで貰い受けようかと考え、自分がもうローレライ教団の導師ではなかったことを思い出す。今の生活を気に入ってはいたが、ダアトの情けない姿を目の当たりにするたびに自分だったらと考えてしまうあたり、被験者イオンの本質は今も導師のままなのだろう。すべてが終わった時、彼が導師としてダアトに戻るのか否か。その答えが出るのはもう時間の問題だった。
そんな事よりも、と被験者イオンを押しのけたナタリアは、ペタペタとルークの身体を撫で回す。淑女がする行動ではないと咎めるモノはいなかった。当事者二人を除くと、微笑ましく見守るモノ数人、羨ましく思うモノ多数、己以外が触れることを厭うモノ一名。その一名にとって唯一排除できない相手がナタリアだった―――いやここにいない人間も含めるのであれば、彼が制止できない人間がもう一人いることはいるのだが―――から、ナタリアの行動はエスカレートする一方である。
「どこも、何ともありませんの? 障気は無事中和できたようですけど、貴方方に何かあったら元も子もありませんのよ」
「大丈夫だって。ちょっと疲れたけど、もう何ともないし」
「乖離しかけた奴が何を言ってやがる」
ゴツンとアッシュの拳がルークの脳天に落とされる。
「痛そうな音でしたわね」とルークの頭を心配するよりも、ナタリアにとっては直前のアッシュの台詞の方が大問題だった。
「どういうことですの」と問い詰めようとしたナタリアは、涙目でアッシュを睨みつけるルークを目の当たりにし、二の句が出なかった。
「今は大丈夫なんだから、別にいいだろう。それにアッシュだって・・・・・・」
「そうね。本当に危なかったのは貴方の方だったと思うのだけど」
ルークの瞳を濡らす涙の理由が頭の痛みではないことを知る者は、その原因であるアッシュを容赦するつもりなどまったくなかった。塔を降りる間も散々聞かされた苦言が再び繰り返される。
障気の中和で超振動を使いすぎたルークは確かに乖離しかけていた。掌が透けて見える恐怖はルークを動揺させたが、かつての経験から今すぐ消えてしまうというわけではないこともわかっていたので、落ち着きを取り戻すのも早かった。
それよりも、それを見て慌てたのはアッシュの方だった。繋いだ手をそのまま引き寄せて、空いている方の腕で抱きしめる。
アッシュの突然の行動にルークは狼狽し、他の者は硬直した。
それはどれぐらいの時間だったのだろうか。
そう長くはない時間が経過し、アッシュの頭がズルズルとルークの胸をすべり落ちていく。
青白い顔、閉ざされた瞼がルークのトラウマを呼び起こす。
「あ・・・あぁ、アッシュ。アッシュ。アッシュ・・・・・・」
ルークの悲痛な叫びに、硬直の解けた仲間たちが駆け寄ってくる。しかしルークの説明はまったく要領を得なくて、もう一人の当事者であるアッシュはルークの太腿を枕にして固く目を閉じていた。自分の持っている第七音素のほとんどすべてをルークに渡し、その所為でアッシュは倒れてしまったのだ。被験者(オリジナル)であるアッシュは第七音素の大量消費が死に直結してはいなかったが、今のルークに冷静な対処などまったくもって無理な話である。
仲間たちは受け取ったばかりの音素を再びアッシュに渡そうとするルークを慌てて引き離す。
「ティア」
アッシュに抱きつこうとするルークを羽交い絞めにしたガイが叫ぶ。ちなみに意識を取り戻したアッシュがその状況を見て、ガイを追いかけることになるのはもうお約束である。
「任せて」
ティアの詠う大譜歌が第七音素を集め、優しい光がアッシュを包む。
「愚かだとは思っていたが、ここまでだといっそ清々しいな」
その言葉を最後に光は消え、ローレライの声は聞こえなくなった。
「あの方に感謝しなければなりませんわね。それから、アッシュ。ルークを泣かせるなんて・・・・・・。次はわたくしも許しませんわよ」
ガイ・ティア・アニスの三人にこってり絞られたようなので、今回は見逃してあげますわ、とナタリアは慈愛の笑みを浮かべる。その笑顔が叱責されるよりも恐ろしいと感じるのはアッシュの気のせいではないだろう。
「それで、あの方は・・・・・・消えてしまいましたか?」
ジェイドにしては珍しく歯切れが悪かった。そうなる可能性も考えた上であえてローレライを利用することにした。覚悟はできていたはずだ。それでも罪悪感はあった。
―――我を勝手に消すではない。
声はアッシュとルークの頭の中のみに響いた。
人型を取ることも、声を直接伝えることもできないぐらいに衰弱していたが、意識が消滅したわけではない。しばらくは失った第七音素を取り戻すことに専念させて欲しいと、ローレライは二人を通して仲間たちに伝える。
「第七音素を十分に補充できない可能性があるから無茶はするなってさ」
主にルークに向けられた言葉だろうな、と思っているアッシュが―――ルークのことに関してのみ、との注釈は付くが―――実は一番無茶をする傾向にあることはレムの塔の上で証明されたばかりである。しかし自覚はないのだろう。自身の予想に反して全員の視線を一身に集めたアッシュは怪訝な顔をしていた。
「戦闘中の超振動の使用及び治癒術の使用は禁止します。よろしいですね、二人共」
「何で俺たちだけ?」
ジェイドに改めて念を押されたルークは、超振動のことは仕方がないとしても、治癒術はティアやナタリアも使えるのにと、首を捻る。
「彼女たちは貴方方と違って無茶はしないでしょう」
ナタリアが、当然ですわと微笑む。
「ですが、回復が必要な場合はどうしますの?」
向かう所敵無しのパーティーだったが、何があるかわからないのが戦闘である。
「心配には及びませんよ。こういうこともあろうかと準備はしてあります」
各自好きなだけ持つようにと渡された物は青い小さなボトルだった。初めて見る薬品に用途を考えるが、嫌な想像しか浮かんでこないのはどうなのだろうか。うっかり顔に出してしまったルークが代表して頭から薬品を被る破目になったのは、たまたまなのか、ジェイドに何らかの意図があってのことなのか。
ベタベタすると言いながら顔を拭うルークは自身の身体に起こった変化に気付いていないようである。
「何も・・・・・・」
「何も、ないはずがないでしょ。もっと自分の身体を注意して見てみなさい」
改めて見直してみると、治療する必要もないと放っておいた小さな傷が消えており、体力も回復していた。
「戦闘不能を含む全状態異常解除及びHP・TPを全回復させます。ちなみに飲んでも同様の効果がありますから、戦闘不能でなければ経口摂取の方が服も汚れなくていいでしょう」
問答無用で頭から浴びた自分は何だったのか。
抗議する前に着替えが先だ、とアッシュによってアルビオールに追いやられたルークは、ベルセルクの服装に着替えて戻ってきた。用意されていた着替えがベルセルクと子爵服だったのは誰の差し金なのか。腹を出して歩くな、とルークに注意する人物は一人や二人じゃなかったので、ジェイドの行動も含めて計画的なものだった可能性は十分にあった。
「万能薬だな。ジェイドが作ったのか」
それは第七音素の枯渇を見越してマルクト軍で研究開発されたものだった。かつての世界からジェイドが持ち込んだ知識が大いに役立ったようである。
ジェイドによってエリクシールと名付けられたそれは、アップルグミの50倍程の制作費が必要とのことで、店頭価格になるとどれ程の金額が付くことやら。ツインテールの少女の目がガルドになっていることは見ないふりをした方がいいだろう。
もちろんジェイドが用意していた回復アイテムはエリクシールだけではなかった。グミやボトルも大量にある。マルクト帝国の国家予算を使って買い占めたものらしいが、マルクト帝国はそれでいいのだろうか。
あれもこれもと道具袋が破けそうになるぐらい詰めているがルークで、基本価格の高い物からこちらも道具袋が破けそうなぐらい詰めているのがアニスである。
「欲張りすぎだ」
アッシュはルークの袋を取り上げると、勝手に三分の一ぐらいに減らしてしまう。
「アッシュの分なのに」と恨めしそうにアッシュを睨むルークと「おまえの分は俺が持ったから心配するな」と言い切るアッシュである。自分の道具袋に相手のためのアイテムを詰め直す二人はその行動が無意味であることをまだ知らされていなかった。そして唯一それを知っている人物は今言うと面倒なことになりそうですねと、沈黙を守っていた。
「はいはいはい。いちゃつくのもその辺にしてくださいね。あまり時間もありませんので、そういうことは暇になったらやってください」
ジェイドのこの台詞は後にアッシュによって免罪符として利用され、皆から責められることになるのだが、そのことは「見通す人」の称号を持っている人物でさえ見通すことのできなかった未来の話である。
外殻大地降下前に障気の中和ができるのだったら、アクゼリュスを降下させる前でもよかったのではないか。魔界にタルタロスやアルビオールを持ち込むためにアクゼリュスの崩壊が必須だったとしても、先に障気を中和しておけばティアが障気障害で苦しむこともなかったのではないか。
ルークの今更な疑問に、本当に賢くなりましたねぇ~とジェイドは微笑ましく思うと同時に、これはこれで面倒ですね、と思わなくもなかった。しかし今のルークは自身が納得しないことには次に進むことをよしとはしないだろう。
「そうですね。ユリアシティが我々に協力してくれるのであればそれも可能だったのですが・・・・・・」
現在のユリアシティではまず無理なことだった。ティアがいるのでこっそり忍び込むことは可能だったが、障気の中和を邪魔される可能性は大きい。だからといって、ユリアシティ以外の場所に移動しようと思ってもその手段がなかった。
「わたしなら大丈夫よ。シュウ医師の薬も効いているし、これ以上障気を取り込むこともないのだから、心配はいらないわ」
ユリアシティに残り祖父や住人たちの意識改革をするよりも、外殻大地に出て仲間たちに会うことや兄を見張ることを優先したのはティア自身だ。ジェイドに対して文句を言う筋合いではない。この話はもうおしまい、とティアに笑顔で言われてしまえばルークも黙るしかなかった。
「それでは皆さんは先にアルビオールに乗っていてください。私はタルタロスを沈めてきますので」
「一人で行くのか?」
「いいえ、行くのはタルタロスだけですからご心配には及びませんよ」
タルタロスはどこまで万能になったのだろうか? 地核の振動数の測定も、それを打ち消すための振動を発生させる装置の作動も自動で行うようにプログラミングされているのだという。タルタロスの装甲も前回より丈夫にしてあるので地核の揺れが多少変化したところで物ともしないそうだ。
前回の作戦がいかに行き当たりばったりだったかということを改めて聞かされ、震え上がった者も多いだろう。地核の揺れがずっと同じだという保証はどこにもないのだ。地殻の振動がもし途中で変化していたとしたら、あるいは何らかの理由で振動が停止したとしたら、タルタロス自身が大地を液状化させる原因となったかもしれなかったのだ。
「終わりよければすべてよし、と言うではありませんか」
地核の揺れが激しくなってタルタロスが壊れたのと、プラネットストームを停止させて地核振動が停止したのがほぼ同じタイミングだったのは僥倖だった。
「いえいえ。プレネットストームが活性化してタルタロスでは地核の振動が押さえ切れないと判断し、プラネットストームを停止させることにしたのですから、ある意味必然だったのですよ」
プラネットストームの停止はエルドラントの防御壁を消すためだったような気がするが、それこそ終わったことに関してここで議論しても意味はなかった。それよりも今回はあらゆる可能性に対処できるだけの準備が既にできているということの方が重要である。
そんな話をしている間にもタルタロスは地平へとその姿を消していた。
先にと言われていたにも拘らず、結局全員でタルタロスを見送ることになってしまったが、それでよかったのだろう。タルタロスも大事な仲間だ、という認識は音機関好きなガイだけが抱く思いではなかった。
「まずはシュレーの丘へ向かいます」
ジェイドの声を切欠にし、アルビオールは空を翔る。久しぶりに見る外殻大地の空は青く澄み渡っていた。

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