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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑭

ナタリアがアルビオールを求めてシェリンダに向かっている頃。

タルタロスはユリアシティではなく、キュビ半島に到着していた。
タルタロスの窓から見る魔界(クリフォト)の風景は場所を特定できるようなものではなく、色々改造しまくった今のタルタロスはジェイド一人で操縦可能であったため、自分たちが西ではなく南東に向かっているとは思っていなかったのだ。船室で思い思いに寛いでいたため、かつてよりも時間がかかっていることに気付かなかったようである。
ジェイドを除く面々はてっきりユリアシティに向かっていると思っていたため、「つきましたよ~」とのジェイドの声で外に出てみて吃驚する。
紫色の空にそびえる純白の塔。
「なんで、レムの塔なんだ?」
それに対する答えを持っているのはただ一人ジェイドだけだったが、彼の説明を惜しむ癖は健在である。
「みなさ~ん。お仕事ですよ。頂上まで行って障気を中和してきてください」
してきてください、って自分は行かないつもりなのだろうか?
「年寄りにはこれを昇るのは少々きついもので」
それで、本音は?
「私はタルタロスの最終確認をしなければなりませんので、障気の中和は皆さんだけでお願いします」
四方八方から冷たい目で見つめられて、流石のジェイドも本当のことを語らない訳にはいかなかったようである。
「最初っからそう言えっつーの。行こうぜ、みんな」
久しぶりのダンジョンにルークは燃えていた。ここなら出てくるのは魔物だけだろうし、人目を気にして要人として守られている必要もないし、これまでの経験でこのパーティーは専用の回復役を決めなくても大丈夫だということは証明されているので、回復役を押し付けられることもないだろうし、戦闘に参加できない理由はないはずだと思っていた。前線に立つ気満々でいたが、果たしてその希望は叶うのだろうか? アッシュが一緒にいる限り不可能な気がしないでもないが、ルークはその可能性にまったく気付いていないようである。
一人塔に向かって駆け出したルークは、最初の一歩を踏み出した瞬間に燕尾を掴まれてたたらを踏んだ。
「何するんだよ」
出端を挫かれて少々不満な様子であるが、パーティーの規律を乱して一人先走った自覚はあるのか、恨みがましい視線をアッシュに向けるだけでおとなしくその左隣に戻った。
「そう焦るな、って」
癇癪を起こした子供をなだめるように、ポンポンとガイがルークの頭を撫でる。そのことでガイがアッシュに睨まれるのはもうお約束だった。
「おい、眼鏡。説明しろ」
「おや? わかりませんでしたか?」
「塔の天辺で障気を超振動で中和すればいいんだろう?」
「ルークは賢いですね」
ジェイドに誉められたと思いルークはご満悦なようである。ご機嫌なところ非常に言いにくいのだが、ジェイドは馬鹿な子ほど可愛いといった心境だろうなぁ~と思うガイだった。賢明なことに口には出しはしなかったが、見渡せばイオン以外皆似たり寄ったりの感想を抱いているように見える。それを微笑ましいと思うか、不甲斐無いと思うかはそれぞれのようではあるが、確実に後者の思いを抱いているアッシュが小さな舌打ちを鳴らす。怒鳴らなくなったことを評価するべきだろうか。
「ったく、第七音素はどうするつもりだ」
「え、あ、そうか」
塔の上には一万のレプリカがいる、なんてことは絶対にない。それに第七音素を集めるためのローレライの剣もなかった。
「中和してきてください」「わかりました」と簡単にはいかないこと漸く気付いたルークだった。しかしジェイドができもしないことをやれとは言わないこともわかっている。行けばどうにかなるのではないかとルークは考えるが、アッシュの方はそういうわけにはいかなかった。
「おいっ」
「時間も惜しいので説明は省かせていただきたかったのですがねぇ」。
ただ面倒だっただけだろう、とガイは思う。しかし今回は説明役を代われるだけの知識がガイにはなかった。
「仕方がないですねぇ~。一旦艦内に戻りますか?」
「時間がねぇんだろ。ここでやれ」
「年寄りにこの障気はきついんですけどねぇ~」
タルタロスの中だからといって障気が防げるわけではないから、気分の問題でしかない。
「譜歌を詠いましょうか」
「旦那は本気で言ってるわけじゃないんだし、無駄な体力は使わない方がいいじゃないかな」
ティアの提案をガイがやんわりと否定する。ジェイドとは視線で「冗談を本気で取るやつらばかりなんだから、いい加減にしろよな」「なんのことでしょう」なんて会話を交わしていたが、そのことに気付けるような聡いモノがいなかったことはガイにとって幸いだった。こんなことでからかわれている暇はなかったし、何より精神衛生上非情によろしくない。今はそっとしておいてほしいガイだった。
まずは障気の中和が今このタイミングである理由が語られる。
先に障気を中和してしまえば、ユリア式封咒を解呪する度にティアが障気に犯されることはない、と。
ジェイドの説明はティアよりもルークを安堵させた。
ティアが「覚悟はできています」と言う度にルークが哀しそうな顔をするのがイヤだった。ティアの負担が減ることはもちろん、仲間たちは二つの、いやかつてイオンが取った行動も回避できるのだから三つの意味でほっと胸を撫で下ろす。
「それで第七音素はどうするんだ」
「でっかい塊があるではありませんか」
ニヤニヤと、それは悪巧みが成功した子供のようで。自ら年寄りを名乗るのであればその表情は止めてくれよな、とガイは思う。うっかりジェイドの没年齢プラス七年を計算したりしたものだから、ジェイドの鋭い視線がガイを射抜いた。
(待て待て待て。俺、声に出してたか? 出してないよな。きっとジェイドの読心術だ。フォンスロットが繋がっているなんてことはない、よな。たぶん・・・・・・)
ガイが自分の想像に恐怖していたころ。
「ガイ? どうしたんだ」
ルークは突然固まってしまったガイを心配そうに窺うが、ジェイドはそれを一刀両断。
「ガイは放っておきましょう」
憐れガイの存在は忘れ去られ、この一言で一行の興味は本題に戻る。
「でっかい塊―――え~と、フェレス島か? 故郷がなくなっちまうのって、アリエッタに悪くねぇか」
「確認したわけではありませんが、あれは第七音素のみで作られた物ではない可能性が高いので使えませんよ」
「え?」
レプリカはすべて第七音素のみで作られていると思っていたが、ジェイドに言わせるとそうではないらしい。精神崩壊陥ることのない生体レプリカを作るためには、音機関を利用し、第七音素のみ構成する必要があったが、その欠点を気にしないのであれば、譜術で作ることも、第七音素を使わずに作ることも可能なのだそうだ。フェレス島は生体ではないので精神崩壊は欠点にはならないだろう。そもそも島には精神はない、はずだ。なんらかしら別の欠陥はあるかもしれないが。
「マルクトでは第七音素の観測をしています。かつての技術でも貴方方がタタル渓谷に飛ばされた時の第七音素を確認することは可能でした。あれがいつ作られたのかはわかりませんが、かつても今も島一つ分の第七音素の消失を見逃すとは思えません」
それは第七音素を観測する任務に就いていた人物を信頼しているとも取れるが、見逃していたとしたら、観測の任に就いていた人に未来はないだろう。
それでは何を、と言った皆の視線を受けて、ジェイドはティアの名を呼ぶ。
「頂上に着いたら、大譜歌を詠ってください」
「ローレライ、か」
得心がいったという風情のアッシュに、ジェイドは大きく頷いてみせた。
「はい、あの方にお願いしようと思います」
誰が「お願い」するかなんてことは愚問である。ローレライはたとえ自身の存在を危うくするようなことであったとしても、ルークの願いを無下にするはずがないのだ。
今の会話もきっと聞いているだろうし、大譜歌を詠わなくても勝手に現れるだろう。それでも詠えというのはただの雰囲気作りか、あるいは場を整えるという意味もあるのだろうが、地核のローレライや大気中からも第七音素を集めることができれば、という淡い期待もあってのことだった。ローレライの剣の代わりをティアの譜歌に求めたのである。
ああ、そういう意味もあったのだ。ジェイドの頭脳に驚嘆と羨望の視線が集まる。しかし、中指でずれてもいない眼鏡を押し上げているジェイドの表情を窺い知ることはできない。
「半分以上は、あの方に対するご機嫌取りですけどね」
せっかく皆が感心しているのだからわざわざ言わなくてもいいのに、「ツンデレおじさん?」の称号は伊達ではないようだった。
「なぁジェイド。素朴なギモンってヤツなんだけど・・・・・・これってレムの塔の上じゃなきゃダメなのか?」
昇るのが面倒臭いなぁ~なんて、けっして思っているわけではない。むしろちょっと楽しみにしているのが、かつての経験から疑問に思ったことはその場で直ぐ聞くようになったルークに、今度は本気で感嘆するジェイドだった。
「おやおや、本当に貴方は賢くなりましたね」
それはルークの疑問が的確なものだったからではなく、彼の態度に対するものだったけれど。見習わなければいけませんね、とジェイドは思う。すべてを自分の胸の内に秘めていたから起こった悲劇は多い。今回は逆に喋りすぎて新たな悲劇を生み出しているかもしれなかったが、防げた悲劇もあるはずだ。そう信じたかった。
魔界(クリフォト)でなければいけない理由はあったが、レムの塔でなければいけない理由は確かにない。今の魔界にはユリアシティと今ルークたちがいるキュビ半島しか陸地はなく、消去法でここを選びましたと言われても納得はできる。しかしそれはレムの塔の頂上でなければならない理由ではなかった。
「この星の隅々まで力を伝えなければなりませんからね。高い場所で行う方が効率がいいのですよ。それに―――」
それに、何なのだろうか。ジェイドは思わせぶりにアッシュとルークと見遣る。
「思い入れのある場所というのは、実力以上の力を出させてくれるものです」
初めて共同作業をした思い出の地ということで流されたのはどちらだろうか。いや初めては外郭大地降下作業の時じゃなかったか、なんて突っ込んではいけない。
アッシュとルークが納得したところで、改めて出発となる。
ルークの望みが叶ったかどうかは、想像に任せすることにしよう。



タルタロスに残ったのは、ジェイドとイオン、それからノエルの三人だった。イオンの傍を離れることに難色を示したアニスだったが、「自分は行けないので、ルークたちに付いていってください」とイオンに言われてしまったので同行しないわけにはいかなかったのだ。
アニスに「イオン様のこと、ちゃんと守っていてくださいね」と言われたはずのジェイドだったが、ノエルにイオンを連れて一旦外殻大地に戻るように指示する。
「大丈夫だとは思いますが、イオン様の第七音素が巻き込まれないとは限りませんので」
障気の中和が行われる魔界よりも、外殻大地の方が安全だろう。ついでに地上にいる仲間の回収と、地上の様子を見てきて欲しいと、ジェイドは二人に外殻大地へ一旦戻るように言う。
「ジェイドですから、心配はいりませんよ」
一人残されることになるジェイドをノエルは心配するが、イオンはニコニコ笑ってそういい切った。
タルタロスは魔物の襲撃でどうこうなるような柔な作りはしていなかったし、それ以上にジェイドの戦闘能力が尋常ではないのだ。ノエルの心配はするだけ無駄というものである。それに自分たちが残ったところで足手まといになることはあっても、戦力になるとは思えなかったので、ノエルは素直にジェイドとイオンの言葉に従いアルビオールを発進させるのだった。
タルタロスの最終確認といっても、リグレットたちに艦を預けていた間と、落下の衝撃で壊れた箇所がないかをチェックするだけである。壊れていれば直す必要があるが、奪われることも落下も想定して準備してあったタルタロスに、ジェイドの手を煩わせるようなことは何一つなかった。
やることのなくなったジェイドは、紫に煙る魔界の空と、そこに聳(そび)える白い塔を見上げる。
今頃ルークたちは頂上に着いたころだろうか?
地上で暮らす人々は足元にある脅威を知らない。
大地がわずか十本―――既に二本失われているので、残りは八本である―――の柱で支えられた脆いものであることも、地面の下には障気が詰まっていることも知らずにのうのうと暮らしているのである。
世界を一度障気で覆ってみせることも、セントビナーの崩落も、人々に共通の危機感を持たせるためのパフォーマンスだったと考えれば、必要なことだったのかもしれない。知らないところで取り除かれて脅威に対し、人々が繰り返さないようにするのは骨が折れそうだった。
「そこまで詠んでいたのだとしたら、驚きですけどね」
ユリアの預言にあった「領土を失う」と言う部分が外殻大地の崩落を意味し、「新たな毒」が障気のことであったならば、であるが。かつても今も、それはもう確かめようのないことだった。
塔の頂上辺りの障気が濃くなっていくのをジェイドの譜術を施した目が捕らえる。やがてかつてと同じように一極集中した障気は爆発し、外殻大地によって閉じ込められていた障気は完全に消滅したのだった。
太陽の光の差さない魔界は相変わらず薄暗かったが、呼吸が楽になったと感じるのはけしてジェイドの気のせいではないだろう。
「やってくれましたね」
今は素直に賞賛の言葉を贈ろう。
問題はまだ山積しているが、せめて彼らが塔を降りてくるまでの間ぐらい、その業績を称えようではないか。彼らが誰かに感謝されたくてやっているわけではないと、知っていたけれども。

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