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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑬

ルークたちが魔界(クリフォト)の海を漂っているころ。
アクゼリュス消滅の知らせが届くのを今か今かと待ち侘びている王やモースの姿を、ナタリアとシュザンヌは忌々しげに観察していた。妻の視線を受けて公爵は一人複雑そうであったが、しかしそこにルークの無事を望む色を見て取ることはできない。
戦争の回避。それが無理でも開戦の日を一日でも遅らせること。
ナタリアは己がここに残った意味を噛み締める。
今それができるのは自分たちだけだ。ナタリアはそのためにここに残ったのである。
「大丈夫ですよ」
ナタリアの手にシュザンヌの手がそっと添えられる。
事情を知らない者が見れば、それはルークの身を心配する婚約者と母の姿に見えるだろう。
それはルークがバチカルを発って以来よく見られるようになった光景だった。シュザンヌはほぼ毎日登城し、その大半をナタリアと共に過ごしていた。シュザンヌが城に来られない日は逆にナタリアがファブレ家を訪れていた。その様はまるで本当の親子のようで遠目で眺めている分には大変微笑ましかったが、当事者が近付いて二人の会話を聞いていたら首を括りたくなったかもしれない。実際はインゴベルト・クリムゾン・モースを筆頭とする預言信望者たちに対する大扱き下ろし大会だった。
ファブレ家に降下したはずのシュザンヌが城にいることが当たり前と受け入れられるようになったころ、国王たちが待っていた報せが城の謁見の間にもたらされた。
「斥候より伝令。アクゼリュス方面で大規模な地盤沈下が確認されたとのことです」
地盤沈下という言葉にモースは顔をわずかに歪めた。
「街は消滅したのだな」
「いえ、ゆっくりと下降しているだけだそうです。消滅したとは・・・・・・」
消滅したとはいえない、そう言い切られるのを恐れるかのように、モースは兵の言葉を遮った。
「親善大使はどうした? 死んだのか?」
「まぁ、なんてことをおっしゃいますの? ルークが死んだ、だなんて」
ナタリアとシュザンヌから抗議の声が上がる。
国王たちはこの場に彼女たちを同席させてしまったことを激しく後悔していた。
アクゼリュス行きを諦める代わりに、親善大使一行に関するすべての報告を教えると約束させられた記憶はまだ新しい。
「教えてくださらないのでしたら、追いかけますわ」
教えるぐらい構わないだろう、と国王は娘のこの脅しに屈したのだ。
数日置きに届けられる斥候からの報告は、「親善大使一行は何処そこを通過。ルーク様はお怪我等もなくお元気なご様子です」と判で押したような文章の繰り返しで、面白くも何ともないものであったが、その報告を聞く度にナタリアは「初めての外交だというのに、素晴らしいですわ」と無邪気に喜びの声をあげた。そして報告を聞いた後は決まってファブレ邸のシュザンヌの所に報告に行くのである。それがそのうちシュザンヌが登城し一緒に聞くようになったのは効率的であるといえば確かにその通りなのだろう。
喜ぶ娘の顔が悲しみに変わる瞬間を見るのは辛い。しかしルークの死をいつまでも隠しておくことができるものではない。すべては国の繁栄のためだった。ナタリアもわかってくれるだろう。
そんな国王の考えはことごとく裏切られることになる。
ナタリアも、そしてシュザンヌも悲しんではいない。怒っているのである。ルークの死に対してではない。その怒りの矛先が向かうのはそう断じたモースだった。
しかし睨みつける彼女たちの視線など何処吹く風。モースは得々と用意していた台詞を口にした。
「これはキムラスカの王位継承権第三位の命を狙ったマルクトの企みに違いありません。今こそ・・・・・・」
「お待ちなさい。ルークのアクゼリュス行きを決めたのはお父様ですわ。それがどうしてマルクトが仕組んだことになってしまうのですか?」
娘の口からこのような言葉がでるとは思っていなかった国王は一瞬たじろぐ。
「ルークにはマルクトのジェイド・カーティス大佐がご一緒だったのでしょう。もしこれがマルクトの企みでしたら、かの国は死霊使い(ネクロマンサー)と恐れられるような人物を捨て駒にしますかしら?」
シュザンヌもまたナタリアの意見に賛同する。
ルークが死んだかもしれないと聞けば卒倒するだろうと思っていた妻の気丈な振る舞いに、クリムゾンはただただ唖然とするばかりだった。
安易に宣戦布告などして間違いであったらどうするのか? と詰め寄る娘と妹に国王は秘預言を教えるべきか否かこの期に及んでもまだ躊躇っていた。
一方で預言を知らない者たちから賛同の声が上がる。
せめて地盤沈下の原因と親善大使の安否を確認してからにしてはどうか、と。
「それで、ルークはどうなりましたの?」
「アクゼリュスに到着されたことは確認されていますが、その後のご様子までは・・・・・・」
「地盤沈下ごときで職務放棄なんて、許されることではありませんわ。最後まで見届けるのが斥候の仕事ではありませんの」
伝令役はあくまで伝令でしかなく、実際に目撃していた人間は別の者であると、伝令役はさぞかし訴えたかったことだろう。しかしそんな弁明が通じるような雰囲気ではない。
ルークは死んだものと決め付ける国王とモース。
地盤沈下ぐらいでルークが死ぬはずがない。もし逃げ遅れているのであれば自分が助けに行くと言い出すナタリア。
「シェリダンで浮遊機関の研究をしていると聞きますわ。実用化されていないか問い合わせましょう。―――いいえ。わたくしが直接確認しに参りますわ」
「ナタリア殿下。お願いいたします」
「叔母様。お任せください。わたくしが必ずルークを連れて帰ってきますわ」
シュザンヌに向かって大きく頷いたナタリアは王女という立場も忘れて駆け出さんばかりだった。
二人の女性にとってルークは逃げ遅れただけということは決定事項となっているようだった。いや、すでに逃げ出した後だと確信していた。
計画を知る二人はルークたちが既に降下する大地にはいないだろうと思っていたので、ここでの会話の大半はルークが死んだものと決め付けている国王たちに対して、生きている可能性もあるということ、預言を知らない者たちには生きている可能性が高いと思わせることにあった。
その勢いに呑まれかけたインゴベルトであったが、ナタリアの手が扉にかかった瞬間、我に返った。
「ならん。ならんぞ、ナタリア」
「何故ですの」
そのままの勢いで出て行くこともできたが、ナタリアはあえて留まった。
ゆっくりと振り向いたナタリアの瞳が王を射抜く。
インゴベルトは一瞬たじろいた。いつから娘はこのような目をするようになったのだろうか。それは正しく国を背負う者の目だった。自分の治世を継ぐ者が確実に育っていることを嬉しく思うと同時に、今この時であった不運を嘆く。娘の視線一つで言葉を失ったインゴベルトであったが、それでもなけなしの国王としての威厳を総動員して言葉を発することに成功した。
「アクゼリュスとルークは消滅せねばならんのだ」
「アクゼリュスは消滅してなどいませんわ。それにルークも・・・・・・」
「そうでなければならないのだ」
苦々しげに、それでもきっぱりと言い切ったインゴベルトに、ナタリアは絶対零度の目を向けた。笑い出したいのを堪えているために逆に無表情になる。
アクゼリュス消滅をマルクトの所為にしたかった国王に、彼の地に詠まれた預言の全文を知っていたということを認めさせること。たとえ開戦ということになったとしてもその口火を切ったのがマルクトではないということを明らかにしておかなければならない。それでも彼に戦争を仕掛ける勇気はあるだろうか?
伊達や酔狂で二度も父娘(親子)をやっていたわけではないのだ。二度目の人生だ。ナタリアにとって自分の意図する通りに国王を動かすことなど容易いことだった。
「お父様。それはどういう意味ですの」
「こうなった以上、お話しするしかないようですな」
ルークの死が預言に詠まれていたこと。死ぬとわかっていてルークを行かせたと知られれば、娘に嫌われるのではないか。
躊躇う国王の背を押したのはモースだった。それが己の首を絞めることになるともしらずに、モースは「預言である」と言えば誰であれ従うものと信じ込んでいた。
アクゼリュスとルークの消滅、そしてキムラスカの勝利で終わるとされているマルクトとの戦争と、その後の未曾有の繁栄。
モースの口から得意気に語られる秘預言に、それを初めて聞かされた者たちは恍惚とした表情を浮かべその内容に聞き入っていた。
「あなたも・・・・・・ご存知だったのですか」
シュザンヌの視線を受けて公爵はやや顔を背けながら頷いた。
ルークたちからクリムゾンが知っているらしいことは聞いていたが、本人の口からそれを肯定されて、シュザンヌは絶望よりも怒りの方が勝った。
「預言に詠まれているから戦争をしなければならない、とおっしゃるのですか? 馬鹿げたことですわ。それにどんな益があるというのです。たとえ勝利か約束されていたとしても、戦争は国民と国土を疲弊させるだけのものです。未曾有の繁栄がどのようなものかはしりませんが、民を犠牲にして得る繁栄にどんな意味があるというのですか?」
その場にいるほとんどの者の気持ちが開戦へと傾きかける中、それでも折れない二つの意志。ナタリアは居並ぶ人々にゆっくりと視線を巡らせる。
「それにアクゼリュスはまだ消滅していません。ルークも死んではおりません。その預言がでたらめで、キムラスカとマルクトを共倒れにし、漁夫の利を狙うダアトの企みではないという保証はどこにありますの」
モースはただ「預言である」と繰り返すのみである。
「その言葉は聞き飽きましたわ。わたくしが知りたいのは預言が真実であると言う証明です。それと、その後の保証も頂きたいですわね。ねぇモース。繁栄の先には何がありますの」
モースはナタリアの問いに対する答えを持っていなかった。
第七譜石は未だ発見されておらず、ここに惑星預言を詠める導師はいなかった。いや、導師がいたとしてもこの第七音素が枯渇しつつある世界で果たして惑星預言が詠めるものなのか。
預言を頭から信じている者たちも繁栄の先には興味があるらしく、身を乗り出してモースの次の言葉を待っている。
このままでは戦争は第七譜石が見つかってからと言い出すかもしれない。
それでは困るのだ。期限は預言に定められていることの一つである。それはモースにとって守られねばならないものだった。
何でこんなころになったのか。その原因は明らかだった。
そうしてこの状況を作り出したナタリアを忌々しげに睨み付けた。「こんな王女は要らない、ご退場願おう」と。
ナタリアの息の根を止めるために放った弾丸が、跳ね返って己の息の根を止めることになるなんて、モースは知る由がなかったのだ。
「自国の繁栄を求めぬとは、やはり王家の血を引かぬ者に王女の地位は荷が勝ちすぎたようですな」
「どういうことだ。モース」
モースの言葉は国王にとっても初耳だったのだろう。
戦争をするかしないかよりもそちらの方が気になるようで、身を乗り出すインゴベルト。
ナタリアはかつてより早い段階で自分の出生が明らかになることに小さく身震いした。一度は乗り越えることのできた試練だ。大丈夫だと自分に言い聞かせて、ナタリアはモースの次の言葉を待った。
「おまえの乳母が証言した。おまえは亡き王妃様に仕えていた使用人シルヴィアの娘メリル」
今までモースの言葉を重用してきたインゴベルトも、こればかりは簡単には信じることができなかったのだろう。
証拠を求める国王に対して、モースはナタリアの乳母を連れてくるように言った。
本物の王女は死産であったこと、ナタリアが乳母の娘が産んだ子供であること、預言に従い乳母が死んだ王女と自分の孫娘を摩り替えたことが明らかになる。
「なんてことだ・・・・・・」
額に手を当て、今にも椅子から崩れ落ちんばかりのインゴベルト。
どういう反応をすべきか戸惑っている人々。
心配そうな表情でナタリアを見つめるシュザンヌ。
勝ち誇った顔のモース。
「王女の名を騙る大罪人を捕らえなさい」
たとえそれが本当のことだったとしても、ここはキムラスカ・ランバルディア王国の謁見の間であり、居並ぶ者はモースを除けばすべて国王に仕える者である。モースの命令に従う理由はない。国王に伺いを立てようにも、インゴベルトは未だ放心状態である。
ナタリアは大きく息を吐いて、そして顔を上げた。
卒倒するか泣き喚くか、そんな反応を想像していたモースは、ナタリアの気丈な振る舞いが予想外だったのだろう。一瞬反応が遅れる。それがモースにとっての致命傷となった。
「わたくしをこのように扱うことこそが、この男が預言を信じていない証拠に他なりませんわ」
そこにいるすべての人間が注目する中ナタリアは悠々と王座を下りると、床に額を付けた格好のまま動けないでいる乳母を抱き起こした。
「ばあや、いえ、おばあ様と呼んだ方がよろしいのかしら。わたくしと亡き王女の摩り替えは預言に詠まれたからとおっしゃいましたわね。預言であるのだから従うべきであると預言士に言われたのだ、と」
乳母は一度驚いたような顔でナタリアを見た後、再び王座の方に視線を戻すと泣き濡れた顔でしっかりと頷いた。
ナタリアが自ら偽姫であることを認めたと、モースの目にはそう映っただろう。しかしナタリアが問題にしているのは自分の出自に関することではない。
「とても残念なことですが、わたくしに王家の血が流れていないことは本当のことのようですわ。そんなわたくしが王女として育つことになったのは預言にそう詠まれていたから。そうですわね、モース」
何度も同じことを確認するナタリアに、モースは辟易しながらも「その通りだ」と認めた。
その言葉に対するナタリアの反応は誰もが予想もしないものだった。嫣然と微笑んだのである。それは誰もが見惚れる王女の笑みであった。
「預言によって王女となったわたくしを王女ではないと断じるということは、ばあやが得た預言に偽りがあったということですか。それとも預言に従わなくてもよいということでしょうか」
その二択にモースには答えることができなかった。ナタリアの存在を疎ましく感じ、昔信者の一人から聞いた懺悔を利用してナタリアを廃そうとしただけである。それが己の首を絞めることになるとは思っていなかったのだろう。見る見る青褪めていくモースに、しかしナタリアが追求の手を緩めることはなかった。
「わたくしが王女になるという預言が捏造されたものであったというのでしたら、アクゼリュスの消滅や、その後の開戦の預言がこの男の偽りではないとどうして言い切れるのですか?」
「預言に偽りなどはない」
「では、わたくしが王女になるという預言も偽りではないのでしょう。大詠師モースは先程わたくしを王女の名を騙る大罪人として捕らえるようにおっしゃいました。ローレライ教団の大詠師が自ら預言に従わなくてよいと行動で示されたのです」
モースは忌々しげにナタリアを睨み付けた。目敏い者はモースの口が「偽姫が・・・」と動くのを見ただろう。これ以上の問答は自分の立場が悪くなると思って反論しなかったのだが、黙っていても預言の真偽を疑われ、敬虔なローレライ教の信者であるという人柄を疑われてしまうようである。
「陛下。約束された繁栄を諦めるのですか?」
モースはナタリアをこの場から追い出すことを諦め、インゴベルトのみに焦点を絞ったようであったが、ナタリアがそれを許すはずがなかった。
「おとう・・・、いえ、陛下。モースの言葉に惑わされてはいけません。繁栄と言うのも戦争をさせたいモースの嘘かもしれませんわ。それにもし預言が本物だったとしても、その繁栄は永遠を保証するものではありませんでしょう。束の間の繁栄のために犠牲にしてもよい民はおりません。わたくしが王女ではないというのでしたら、それでも構いません。陛下の守るべき民の一人の言葉としてお聞きください。陛下の治世において無駄に民の血を流させないでください。預言とそれを利用しようとする者の言葉に惑わされず、正しき道を選んでくださいませ。叔母様、いえシュザンヌ様。このようなことになってしまいましたが、ルーク・・・様がわたくしの幼馴染であった過去を変えることはできませんわ。わたくしはわたくしの大切な幼馴染のためにできることをしたいと思います。今となっては一市民でしかないわたくしにもきっとできることがあるはずですわ」
「ナタリア殿下」
ナタリアの傍に歩み寄ったシュザンヌはそっとその手を取る。それはナタリアが偽姫であると判明する前と変わらぬ姿であった。
「おば・・・シュザンヌ様。わたくしはもう殿下ではありませんわ」
「わたしのことは今まで通り叔母と呼んでくださいな。貴方がルークの幼馴染であった過去が変わらないよう、わたくしの姪であった過去が消えることはありません。わたくしは今でも貴方を姪だと思っておりますよ」
「叔母様・・・・・・」
ナタリアが涙ぐんでいるのは演技ではなかった。かつてそうであったように、今のインゴベルトもそう思ってくれるだろうか。自信はあったが、不安でもあった。だが、今はインゴベルトの気持ちを確かめている余裕はなかった。
「もちろん。ルークもですわ。あの子を様なんてつけて呼んでごらんなさい。怒られてしまいますわよ」
「叔母様。ルークはきっと、怒るよりも拗ねると思いますわ」
女性二人の笑い声が静まり返った謁見の間に響く。
「そうですわね」
さすが幼馴染はよくわかっている、とシュザンヌはまた小さく笑った。
「ナタリア様。ルークのこと、よろしくお願いしますね」
「はい。お任せください」
ナタリアはシュザンヌの手を強く握り返すと彼女の目を見てきっぱりと宣言する。それから王座に向き直ると、インゴベルトに深々と一礼した。
「王家を謀った罪でわたくしを裁くと言う結論がでたらお知らせください。その時はおとなしく出頭いたしますわ」
そう言い残して堂々と謁見の間を出て行くナタリアを止めることができる者はいなかった。
「そんなことはさせません」と呟いたシュザンヌの声はナタリアの背中に届いただろうか。扉を出る寸前ナタリアの後姿が小さく頷いたように見えたから、きっと届いていたのだろう。
ナタリアの退場に、モースはほっと詰めていた息を吐いた。これで邪魔者はいなくなった、と口許には笑みさえ浮かんでいる。
「陛下。今こそマルクトに宣戦布告をする時ですぞ」
この場にはもうモースの言葉に唯々諾々と従う者はいなかった。
騒然とする謁見の間で、誰もがどうするのが正しいのか決め兼ねていた。今まで大事な場面での判断を預言に、それを詠む預言士に委ねてきたため、自身で判断するのは難しいのだろう。
側近の一人がアクゼリュスの消滅とルークの死亡を確認してからにすべきだと王に進言した。判断を先送りにしただけであったが、その言葉に追従する声が他からも挙がった。
宣戦布告をした後でルークの生存が確認された場合、我が国は大儀を失い、かの国に大儀を与えることになってしまう、と。
「理由なき戦争では兵の士気が下がり、我が国の勝利はなくなるでしょう」
それは戦場に立ったことがある人間だからこそ言える言葉だった。
「キムラスカの勝利は預言に詠まれているのですぞ」
「先ずは預言の真偽を問う必要があるようだな。ルークの死亡が確認されれば預言の真が証明されるだろう。それまで待たれよ」
問題を先送りにしただけではありませんか、と兄の不甲斐無さを嘆くシュザンヌだったが、賢明にも言葉や態度に出すことはしなかった。
ルークの生死を確認してから改めて戦争をするかどうか考えるという方向で纏まりかける中、ただ一人モースだけが今すぐ開戦することに固執していた。モースは己のその態度が余計に預言に対する不信感を煽ることになっているとは気付かないのだろうか。
「何をそう急く必要がある?」
インゴベルトの質問に答えたのは意外な人物だった。
「真偽を詮議されては困る理由がおありのようですわね」
その声の出所はシュザンヌだった。
「そのようなことは・・・・・・」
シュザンヌはモースに「ない」と言う余裕を与えなかった。
「では待ちましょう。きっとナタリア様がルークを連れて帰ってきてくださいますわ。預言はあなたの戯言であると証明されることでしょう」
嫣然と微笑むシュザンヌに女王の風格を見た者は多いだろう。

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