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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑫

美しい光を放つ扉。ダアト式封咒の瞬(またた)き。
彼はまだこちらに気付いていない。
イオンは深く息を吸い込み、そして吐いた。
イオンは知っていた。ここにティアたち二人を除く皆がいることを。ティアたちも直ぐに駆けつけてくるだろうことを。
だから大丈夫だ、と。
震える足を叱咤して一歩、また一歩と彼に近づく。
「ヴァン。ここで何をしているのですか?」
「これはこれは。導師、それにルークも。二人一緒とは都合がいい」
イオンの声に振り向いたヴァンは満足気な笑みを浮かべた。
己で仕組んだこととはいえこうも上手くいくとは―――それはヴァンの一人よがりすぎないのだけれど―――二人以外の姿が見えないこともヴァンを喜ばせた一因だった。
彼は気付いていないのだ。
息を殺し、彼らのやり取りをじっと窺っているモノの存在に。
坑道の奥に住民がいないことなど確かめるまでもないことだった。彼らはヴァンの思惑通り坑道内の探索のためにバラバラに行動したりなどしていない。真っ直ぐにこの場所を目指してきたのだ。もちろん全員一緒に、である。
そして予想通り扉の前に佇むヴァンを発見した。ヴァンがこちらに背を向けているのをいいことにジェイドが皆に隠れるよう指示を出す。
心配そうな瞳を向けるアニスに、イオンは「大丈夫です」と笑ってみせた。それから全員が上手く隠れていることを確認した上で、ヴァンに声を掛けたのだ。
「導師イオン。この扉を開けていただけますか?」
「教団を離反した貴方を教団が封じた扉の中に入れることは導師としてできません」
「アクゼリュスを再生するために必要なのです」
あの時と同じ台詞だった。
イオンの瞳が後悔の色に翳る。
ヴァンの言葉が嘘だと気付けなかった。それが始まりだった。自分がこの扉を開けなければ、悲劇は起こらなかったのではないだろうか?
自然と身体が強張る。解呪のために伸ばした腕が途中でその動きを止める。
イオンのその様子にヴァンが新たな言葉を重ねるが、きれい事で固めた嘘だとわかっている言葉に今のイオンの心を動かすことはできない。
ヴァンの小さな舌打ちを打ち消したのは、直ぐ横から聞こえた己の名を呼ぶ声だった。
「イオン」
見上げる先には深い森の緑(フォレストグリーン)。不安も恐怖も何もかもがその緑に吸い込まれ、消えていく。
(そうでした。今回この扉を開けるのは悲劇を繰り返さないためでした)
そのための準備は調っているのだから躊躇う必要はない。
「・・・・・・わかりました」
イオンは自由に動かせるようになった手を再び扉に伸ばした。
扉から光が消え、そして後には穴が残る。
あの時もこうやってイオンを、そしてルークを唆したのだろうか?
アクゼリュス救援のためにこの地を訪れた親善大使と導師。ヴァンの言葉は彼らの目的そのものだった。
何故ヴァンの言葉を疑いもせずに従ったのだ、と責めた。せめて事前に相談してくれれば、と嘆いた。
従って当然ではないか。もし相談されていたとして、果たして反対することができただろうか。
疑いもせず従ったルークが悪いと、騙されたルークがいけなかったのだと、それは崩壊という結果を見たから言えた言葉だったことを改めて思い知る。
イオンたちのやり取りを見ていたモノたちはかつての自分を思い出し後悔の嵐にさいなまれていた。
だから、だろうか。
ヴァンがイオンたちを伴ってその穴の奥に入っていったことに気づかなかったのは。
慌てて三人を追いかける一行。
パッセージリングの前ではヴァンが愉悦の笑みを浮かべていた。
「ルーク、こちらへ。パッセージリングまで降りて障気を中和するのだ」
「なんか、ムカつくんですけど・・・・・・」
アニスがヴァンに聞こえない程度に小さな声で呟く。今すぐトクナガを巨大化させて突っ込んでいきたいとウズウズしているのが手に取るようにわかる。
それは皆が皆、同じ思いを抱いていたからだろう。
「もう直ぐですから、我慢していてくださいね」
ジェイドがそんなアニスを嗜める。
期待が大きければ大きい程、それが実現しなかった時の絶望も大きくなる。ヴァンにはギリギリまで自分が優位であると思わせておこう、と。それも計画の一部だったから。それでもヴァンの笑顔が憤怒の相に歪むまでにはもうそんなに時間は必要ないだろう。
いくら待っても望む変化が現れる気配がないことに、そろそろヴァンも気付くころである。
「やはり劣化していたか」
忌々しげに呟く。仕方がないとばかりにヴァンは無理やり超振動を発動させるための呪文を紡ぐ。
「―――力を解放するのだ!! 愚かなレプリカルーク」
それがヴァンの切り札だった。
やはり仕掛けていたか、とジェイドは思う。
いつの間に、と思ったのはガイだった。ルークとヴァンを二人きりにしないように細心の注意を払ってきたつもりだっただけに、そのショックは大きい。後でルークに謝らなければ、と。
「馬鹿な! 何故発動しない。それ程までに劣化しているというのか!?」
合言葉を発すると同時に、ヴァンは己の勝利を確信したのだろう。しかしヴァンの思惑に反し勝利の時が訪れることはなかった。それを己の失態であると認めることはできないヴァンは暴言を吐き続ける。それが自分の寿命を縮めることになるとも知らずに。
「やはり力技以外でアルバート式封咒を解くことは不可能だったか」
その変化は劇的だった。
左手で降りていた真紅の前髪を掻き揚げる。右手は剣の柄に伸びる。
ヴァンはまだ気付いていないようだったが、彼らのやり取りを見ていた者たちにとっては待ちに待った瞬間の訪れである。見逃すはずがなかった。
それぞれが己の得物に手を伸ばし、飛び出すタイミングを計る。
「そこまでです、ヴァン。これ以上罪を重ねるのはやめてください」
イオンはできれば彼らが戦う姿を見たくはなかった。悲しむ人がいる。ここにはいない彼らのことを思い、イオンは言葉を尽くす。しかしヴァンの心には届かなかったようである。
「人形ごときが私に意見するな」
最初に我慢の限界がきたのはアニスだった。
切欠はヴァンがイオンを人形と称したことだ。巨大化させたトクナガの背に乗りヴァンに向かって行く。
「もう少しこの茶番劇を楽しんでいたかったのですけどねぇ」
緊張感の欠片もない台詞を言いながら、譜術を発動させるのはジェイドである。
「あんたなぁ~」
抜き身の剣を携えて、ガイがその横を駆け抜ける。
ヴァンはアニスの突撃をかわし、ジェイドの譜術に耐え、ガイの剣を受け止める。
「兄さん!」
「・・・・・・メシュティアリカ。それにアッシュ。そうか、リグレットは失敗したか」
通路に現れたティアたち見て、ヴァンは厳しい表情になった。
「戦闘の最中に余所見なんて、随分と余裕ね」
長いマロンペーストの髪をなびかせて、ティアが通路を駆け下りていく。
「ルーク、貴方はイオン様を」
「わかった」
ジェイドの言葉に従ったのは、ティアの後から駆けつけた教団服の青年だった。
ヴァンの瞳が驚愕に見開かれる。
「てめぇに俺が操れなかった理由を教えてやろうか?」
頭上に剣を掲げながら叫ぶのは、さっきまでパッセージリングの前にいた青年。ヴァンが「ルーク」と呼び続けた人物だった。
「ルークじゃねぇ。俺はアッシュだ」
二人の見分けもつかないくせに利用しようとは笑わせる。
嘲笑と共に振り下ろされる剣をヴァンは力任せに弾き返した。
小さな舌打ちを一つしてアッシュが後ろに飛び退くと、そこに透かさずジェイドの譜術が放たれる。
「まぁもっとも、貴方がルークに掛けた暗示に効果があったとは思えませんけどね」
ここにいるのはヴァンの言葉はすべて正しいと信じていたルークではない。超振動を自在に扱える今のルークは、キャツベルトで超振動を初めて使った時のような恐慌状態になることはなかった。そして仲間たちもヴァンとルークが二人きりさせないよう細心の注意を払ってきた。そんな状態で充分な暗示が掛けられるとは思えない。それでも「用心するにこしたことはない」と言ったアッシュの言葉を信じているのはルークだけだろう。他のモノはヴァンがルークに近づくことを厭うアッシュの方便であるとわかっていた。それをからかいもせず放置しているのは皆もまた同じ気持ちだったからだ。
矢継ぎ早の攻撃に、防戦一方のヴァン。
計画の段階では殺しはしないと言ってはいたが本当だろうかと、ルークは不安になる。
「みなさん怒っているようですから」
止めた方がいいのだろうか? と相談されたイオンはニッコリ笑って頭(かぶり)を振る。
怒っているのはイオンも同様だった。
イオンのことを任された手前、ルークは参戦することも止めに入ることもできない。それもジェイドの計算であると気付かないルークは自分の役割に専念する。
ルークを除く全員は、妹であるティアを含めヴァンを殺すことを躊躇ったりはしない。しかしルークには無理だ。ヴァンが思い直してくれることを望むルークの攻撃はどうしても甘くなるだろう。それはルーク自身の怪我に繋がりかねない。ならば最初から戦わせなければよい、と。過保護になり過ぎた仲間たちはジェイドの企みに一も二もなく賛成した。もちろんイオンもその一人であるから、ダアト式譜術の一つも見舞ってやりたいのを堪えておとなしくルークに守られているのである。
戦いは熾烈を極めた。それでも今のヴァンの実力の程を知るアッシュたちにとってこうなることは戦う前からわかっていたことだった。この計画にあわせて鍛えてきた戦闘能力は伊達ではない。それよりもうっかり殺してしまわないように手加減することの方に気を使ったとか使わなかったとか。
「腐っても主席総長と言ったところでしょうか」
片膝をついたヴァンを取り囲むアッシュたちはほぼ無傷である。
何か話しているようではあったが、その声がルークたちの元にまで届くことはなかった。今のルークには見守ることしかできない。
「殺したりしないよな」
「えぇ(たぶん)」
この場にルークがいなければどうなったかわからないが、ルークの目の前でそれはしないだろう。イオンの笑顔は彼の本心を完璧に隠蔽する。
ヴァンは観念したようにも見えた。しかしその目はまだ諦めてはいなかった。
そしてもう一人、この場を逆転しようと目論む者がいた。アッシュたちの隙を窺っていたラルゴだったが、彼らに隙などあろうはずがない。ラルゴは覚悟を決めた。ダメでもともと、何もしなければ結果は変わらないではないか。
「総長!」
その声は誰もが予期せぬものだった。
計画通りの進行に安心しきっていた者たちには特に、である。
「ラルゴか」
一瞬の隙を付いてヴァンが譜術を放つ。
どこにそんな力が残っていたのだろうか? 苦し紛れの一撃はアッシュたちの誰にも当たらなかったが、パッセージリングに直撃した。
大地が揺れる。
崩れる坑道の壁。
アッシュの意識がヴァンから逸らされる。
「俺はそんなに信用できないのかよ」と拗ねたような口調でアッシュがルークに怒られるのはまた別の話だ。
ヴァンがその隙を見逃すはずがなかった。
指笛の音が魔物を呼ぶ。グリフィンに飛び乗るだけの体力は今のヴァンにはなかった。二頭の魔物がヴァンとラルゴを掴み空中に舞い上がる。
大地の揺れは大きくなり、パッセージリングには亀裂が走る。
「ふははは、はははっ。ユリアの預言はそう簡単には覆すことはできない。やはり、この世界には劇薬が必要なのだ。劇薬が、な」
ヴァンの高笑いが坑道に響く。
それは『聖なる焔の光』の力ではなかったけれども。
約束の日、約束の場所、そして『聖なる焔の光』と彼が引き連れた人々―――符号は揃っていた。これを預言の成就と言わずしてなにを言おう。
ヴァンの言動は預言の成就を喜んでいるようにしか聞こえなかった。
誰よりも預言を憎んでいるはずの人間が、誰よりも預言の成就を望んでいる。それに気付いているのだろうか?
「ヴァン! てめぇ、待ちやがれ」
アッシュの譜術がヴァンに向かうが、グリフィンはすでに譜術の威力が届かぬ高みにまで達していた。
「無駄なことはお止めなさい。今はこちらの方が先決です」
耐久年数に限界がきていたパッセージリングにヴァンの一撃は致命傷を与えたようだった。
このままにしておけばアクゼリュスは崩壊する。
「ティア、お願いします」
ジェイドの呼びかけにティアは覚悟を決めた。いや覚悟なら最初からできていた。
かつては見ることがかなわなかったが、アクゼリュスのパッセージリングにも制御盤があった。ティアが近づくとその先端が本のように開く。ユリア式封咒がティアの中に眠るユリアの血に反応し解呪されたのだ。汚染された第七音素がティアを蝕む。それでもこれは自分にしかできないことだ。
大丈夫だと、気丈にもティアは笑ってみせた。
「ルーク、アッシュ、アルバート式封咒を解くことはできそうですか?」
ルークは首を傾げアッシュ見遣り、アッシュは首を横に振った。
「ホドの時はヴァンが、ここではルークが選ばれたことには意味があると思ったのですが・・・・・・、仕方がありませんね」
ユリアの預言がセフィロトの消滅に関わる人間にアルバート流剣術の継承者を指名していたのはただの偶然だったのだろうか? 街ごと消滅させずとも封咒を解ける可能性を僅かでも残したのではないか、と。後世に伝わったのが剣術のみだったのはユリアの誤算だったのだろう。
外郭大地降下作戦を実行するためにはアルバート式封咒を解く必要がある。解呪法がわからない以上、パッセージリングごと消滅させる以外方法はなかった。
ジェイドの指示の元、アッシュとルークは超振動で新たな命令を操作盤に刻んでいく。
パッセージリング消滅の時は一週間後に定めた。かつてのように一瞬で壊すのではなく、記憶粒子(セルパーティクル)の噴出量を徐々に少なくするような消え方だ。
「それまで保(も)てばいいのですが」
自然崩壊の方が早かった場合、外郭大地降下後の世界にアクゼリュスは存在しないということになってしまうだろう。そうなっても別にかまわないのだが、アクゼリュスの存続を願うのは、あの光景を再びルークの目に触れさせたくはないと思うからに他ならなかった。
二人が新たに書いた命令通りにいけば、アクゼリュスとその周辺はパッセージリング消滅までの一週間という時間をかけてゆっくりと降下するだろう。アクゼリュスが魔界(クリフォト)の海に着水すると同時にパッセージリングは消滅。その時までに地核の振動を停止しなければならない。もちろん外郭大地降下の準備も済ませておく必要がある。
グズグズしている暇はなかった。
「で、これからどうするんだ?」
障気に汚染された第七音素を取り込んだティア。ちょっと間違えれば計画そのものが狂う可能性のある操作盤の書き換えと言う神経を使う作業を終えたばかりのルークとアッシュ。疲れていないはずがないのだ。それでもルークはジェイドに次の指示を仰ぐ。
「とりあえず、外に出ましょう」
大地の揺れに合わせ崩れる坑道はいつ帰り道が塞がるともしれない。一行は大急ぎで坑道の外へ向かった。
遠くに見えるは切断された南ルグニカ平野だろうか? 飛び移るにはいささか無理のある高さだった。
ヴァンの攻撃により早まったアクゼリュスの降下。これも想定の範囲内のことなのだろうか? 一同の視線を集めたジェイドはいつものように余裕の笑みだ。
「そうですねぇ。思い切って飛び降りますか? ティアの譜歌があるので無事魔界(クリフォト)にたどり着けるでしょう」
ジェイドの提案にギョッとなりながらも、飛び降りることは許容範囲内だったのか「他に方法はないよなぁ~」という雰囲気になる。
アクゼリュスが崩落していない今、魔界の海に陸地はないと気付いているだろうか?
「足場は、と・・・・・・あぁ、あれでいいでしょう」
街の外にタルタロスを発見。昇降口に付いた無数の傷はラルゴが抉じ開けようとして断念した跡のようである。
何か忘れていることがあるような気がする。それもタルタロス関連のことで、だ。
「誰も乗ってはいないとは思いますが、一応確認しておきましょうか?」
タルタロス内に誰かがいたとしたら、その者はかつてと同じ末路を辿ることになるだろう。
艦内を血だらけにすると掃除が大変ですから、なんて本音を聞き取ってしまった不幸な者が一歩後退る。
それを見逃すジェイドではなかった。
「ガ~イ~」
こういった仕事はパーティー内で最速を誇る人間が適任ですよね、と。
「俺かよ」
そうは言いつつも逆らえないガイは艦内に消え、その数分後、二つの土産を持って戻ってきた。
「そういやぁリグレットを捕まえといたんだった」
「そういうことは先に言ってくれ」
タルタロスの船底にある牢で熟睡中のリグレットともう一人を見つけたときの驚きたるや、交差点で女性とぶつかった時の比ではなかった、と。ガイの不幸な所は、それがどれ程の驚きであったか周囲に正しく伝わることがないということだろう。
「アッシュの場合は、海底でタコと遭遇するようなものなのかな?」
「てめぇの場合は、畑で人参か?」
「人参はアッシュもだろ」
論点のずれまくっている赤毛二人は放っておいて、ジェイドはタルタロスを落下させる準備を進める。
かつてもその衝撃に耐えることのできた艦である。特別心配はしていなかった。
大地の裂け目から一足先に魔界の海へと向かったタルタロス。直ぐに小さくなっていく船体を見下ろしながら、次は自分たちの番かと覚悟を決める。
「では皆さん。準備はよろしいですか?」
ジェイドの声はいつもと変わらない。淡々としすぎていて、それが余計にジェイドの言葉の真実味を増している。
「それでは・・・・・・」
息を呑む。ティアの譜歌を信じている。それでもそれは覚悟もなしに飛び込める高さではなかった。
「冗談です」
ジェイドの口から発せられたのは、誰もが予想だにせぬ一言だった。
「は?」
「こうなる可能性もあるのに、呼んでいないわけないじゃないですか」
ジェイドは空を見上げ、眩しそうに目を細める。
「皆さ~ん。無事ですか?」
上空を旋回するアルビオール。拡声器を通して響く懐かしい声。
「ノエル?」
「なんだってあんな冗談を」
「いや~暇だったもので」
自分の暇を潰すためなら、味方さえも玩具にするジェイド。人身御供としてディストを連れてくるべきだった、と思っても後の祭である。
「初めまして、でいいのかな?」
「はい、初めまして。そしてお久しぶりです。ルークさん」
アルビオールの操縦者であった二人もまたかつてを知るモノだった。今この時にアルビオールが間に合ったのもそれ故である。ノエルやギンジが逆行していることを知ったのはシェリダンで完成したアルビオールを見た時だった。プラネットストームを停止させた後も空を自由に飛べるようにとアルビオールの改良し、死ぬまで空を飛ぶことに拘り続けた兄妹は、飛行士(パイロット)としてだけではなく、技術者としても一流であった。ファブレ邸とダアトの一部だけという狭い範囲しか行動の自由がなかったルークとノエルが直接会うのは確かにこれが初めてだったが、皆の話や手紙でのやり取りはしていたので何だか初めてという気はしなかった。
一頻りノエルとアルビオールとの再会を喜んだ仲間たちは先に魔界(クリフォト)に向かったタルタロスに追いつくために、アルビオールに乗り込んだ。
ちなみに、リグレットとその部下はこのままアクゼリュスに放置していくことになった。
空を飛べぬ人の身では降下を続けるこの地から脱出することは不可能だろう。
今のアクゼリュスは格子も見張りも要らぬ牢獄である。
武器と食料を残したのは慈悲というよりも、ルークの手前仕方なく、といったところだろうか? ティアが選んだ食料がリグレットの苦手食材ばかりだったなんてことはルークの知る由のないことだった。
「もう直ぐ目覚めると思うけど・・・・・・」
寝ているところを魔物に襲われたらどうするんだ、とルークが心配するからホーリーボトルも大盤振る舞いだ。
ここまでやってリグレットが死んだとしたらそれは彼女に運がなかったということ。かわいそうなのは部下の男だろう。騙されているとはいえヴァンたちに協力した時点で彼に掛ける慈悲はないのだけれど。
ノエルの操縦の腕はかつて同じで丁寧で正確だった。わずかの振動もなくアルビオール二号機はタルタロスの甲板に着陸する。アッシュが羨ましそうにノエルを見るのは、ギンジが操縦するアルビオール三号機の乗り心地を思い出しているからだろうか。
アルビオールを降り、ジェイドは船橋(ブリッジ)へ、他は船室へ。
船橋へ続く扉を潜りかけたジェイドが何かを思い出したように振り返る。
「ティア」
渡された包みには見覚えがあった。
「前回の物よりも効果は高いはずです」
シュウ医師に調合してもらった発作を抑える薬だった。
現在のベルケンドに優秀な研究者や技術者はほとんど残っていなかった。預言遵守に拘り新しい技術を受け入れない者や無能と判断された者は、変わらずそこで無意味な研究をしていたが、それ以外の有能な者はクリムゾンが居をベルケンドに移すと同時期に様々な理由をつけて別の地に移動させたのだ。
シュウ医師はシュザンヌを初めとする王族の主治医はという形でバチカルに招来された。第七音素が枯渇し治癒士(ヒーラー)による外傷治療や解毒ができない今、王もシュウのような医者を必要としていたため怪しむことはなかったようである。
ベルケンドい組は現在、シェリダンめ組と共にシェリダンで音機関の研究開発に携わっていた。タルタロスにかつてはなかった機能が付いていることも、アルビオールの完成が早まったこともそのお陰だった。「い組もめ組も仲良くやっています」とノエルは言うが、どう仲良くやっているかは謎である。
シュウの薬を服用したティアの顔色は先程までとは比べものにならないぐらい良くなった。
それでも症状を抑えるだけで、障気を完全に取り除くことができるわけではない。
辛そうな顔をするのは障気に侵されたティア自身よりもルークの方で、ティアもそしてルーク以外は皆ジェイドが薬以外の打開策を用意していることを確信した。
ジェイドがルークにこんな顔をさせる計画を立てるはずがないのだ。
タルタロスが魔界の泥の海を行く。
行き先は一人船橋に篭ったジェイドだけが知っていた。

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