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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』過去編⑨


さてここで場面は再びキムラスカ・ランバルディア王国、ファブレ邸のルークの自室に移る。
時間はローレライロードが開通し数週間が過ぎようとしていた頃だった。
すべてはシュザンヌ・フォン・ファブレのいつもとは違う行動から始まった。
それは偶然だったのだ。
なんの伺いもせずに開けてしまった扉。
たとえ自分の住む屋敷であったとしても本来なら一人で行動したり、先振れもなしにやって来たりはしない。
それは本当に偶然だった。
自室の窓から中庭を横切るガイを見かけた、それがこっそり自室を抜け出し子供部屋を訪れることになった原因である。
誘拐され戻ってきた時には赤ん坊のようになってしまったルーク。ルークは何故かガイに懐き、ルークの再教育を一任されたガイは嬉々としてその役目を請け負った。
そのガイがルークを一人にしておくなんてことはほとんどなかったから、不思議に思ったのが半分、心配になったのが半分、メイドに様子を見に行かせるのではなく、自ら出向いてきたのはどんな気紛れだったのか。
ノックをしなかったのは中にいるのがルークだけだと思っていたから。赤子はノックに応えることはできない。
おとなしく眠っているのだろう。だからガイがルークの傍を離れた。
そんな予想を胸に抱いて扉を開けた。そうであることを自分の目で見て安心したかったのだ。
しかしそんな予想は色々な意味で裏切られることになる。
シュザンヌの目に飛び込んできたのは二つの後ろ頭。その色はどちらも赤かった。
「おい」
先に振り返ったのは突っ伏すように机に齧り付いている赤の背後に立ち、覆い被さるようにその手元を覗きこんでいた赤だった。
「母上にバレたぞ」
「え?」
もう一人が慌てて立ち上がる。
振り向いた二つの赤は同じ顔をしていた。
シュザンヌが叫ばなかったのは奇跡に近い。
もし少しでもその気配があったのならば、彼女の背後で頭を抱えているガイにより口を塞がれていただろう。ガイは中庭を歩く女主人の姿に嫌な予感がしたため、慌てて後を追ったのだが扉を開ける前に追いつけなかったのだと後に語った。彼の女性恐怖症が緊急時には発症しないこと。そしてルークの幸せが脅かされることほど彼が恐れていることはないことをシュザンヌが知るのは、そう遠くない未来のことである。
「ルークが、二人?」
シュザンヌの目が二人の赤毛の子供の間を忙しなく行き来する。
それで目を回したのか、あるいは二人のルークという状況に目を回したのか、ふらりと彼女の体がよろめいた。
「「母上」」
重なる声はまったく同じ。駆け寄る姿もまた同じ。ただ浮かべる表情だけが違った。
苦しそうな顔と泣きそうな顔。
合点がいった。
「そうでしたのね」
答えはストンと心の内に落ちてきた。
左右から覗き込む二対の翡翠の双眸。
苦しそうな顔はあの事件以前のルーク。泣きそうな顔は事件以降のルーク。
「母親、失格ですわね」
唇を噛み締めて俯く赤と涙目で頭を振る赤。
こんなに違うのに何故気付かなかったのか。
「ルーク」
どちらに謝るべきなのか。きっと両方に、なのだろう。
「愚かな母を許してください」
シュザンヌの手が皺の寄った眉間に触れる―――あなたじゃないと気付けなくてごめんなさい。
シュザンヌの手が翡翠の双眸に溜まった涙を拭う―――あの子であることを押し付けてしまってごめんなさい。
戻ってきたルークの赤い髪と緑の瞳に安心してしまったのだ。ルークの他にこの色彩を持つモノはいない、なんて。そんな保証はどこにもないというのに。
ガイは気付いていたのでしょう。だからルークが懐いた。
使用人であるガイの方がルークのことがわかっているなんて。
情けなさに涙が溢れる。
「泣かないでください。母上」
こんな愚かな自分でも母と呼んでくれるのですね。
己の背に添えられた小さな手。己の手を握り締める小さな手。
その手を頼もしく感じながら、シュザンヌは一頻り涙を流した。流れる涙の意味が変わるのを感じながら。



ふと、考える。
今までこちらのルークはどこにいたのかしら? そしてもう一人のルークはどこから連れてこられたのかしら?
シュザンヌの胸中で渦巻く疑問に答えを与えることのできる二人は、ほとんど初めてに近い母の手の温もりに夢見心地で、彼女の呟きに気付いていなかった。
「まさか旦那様が外に作った子供なんてことは・・・」
浮気男のレッテルを貼られ、ファブレ公爵の評価はどん底まで落ちていく。
その後シュザンヌは、戻ってきたルークはいなくなったルークのレプリカであるということを知るのだが、同時に教えられた預言(スコア)の真実に、彼女の夫に対する評価は下がる一方だった。
クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレ―――彼はファブレ家の家長である。それは疑いようのない事実であるはずだったのだが、彼がファブレ家を追い出される日は近い。



目の前にいるのは二人のルーク。
一頻り泣いて、一頻り抱きしめて、少しだけ落ち着きを取り戻した。
こちらの、険しい顔をしたルークが行方不明になってしまった自分の産んだルーク。その頭を撫でると、少々眉間に皺が寄った。照れているのですね。そういえばこの子はよくこのような顔をしていましたわ。
もう一人のルークの頭も同じように撫でると、泣きそうな顔で俯いてしまった。ごめんなさいね。そんな顔をさせたかったわけではなかったの。そういえば戻ってきてからのこの子は時々このような顔をしていたわね。自分たち夫婦に向ける視線は特に申し訳なさげで、あれは思い出せないことに対してだとばかり思っていましたのに、そうではなかったのですね。本物のルークではないことに対する後ろめたさ、それがこんな小さな子供にあんな顔をさせていた。それを強要してしまったのは自分であり、このファブレ家という屋敷すべて。ただガイだけが違った。ガイだけが本当のこの子を見ていたなんて、このモヤモヤとした感情を嫉妬というのかしら。
すまないという思いと同時に、新たな疑問が浮かぶ。
この子は誰なのかしら?
ルークとよく似た相貌。並べてみれば多少色調が異なっているとはいえ、赤い髪と緑の瞳の人間なんてそう沢山いるものではないのに。
シュザンヌが生んだ子供は確かに一人だった。
出産時の記憶がないのであれば、ルークは実は双子で預言に詠まれていない子供の存在を誰かが隠してしまったと想像することもできたが、シュザンヌの出産時の記憶ははっきりしていた。聞こえてきた産声は一つ。気を失う寸前までこの手に抱いていた赤子は一人。
この子は誰?
身代わりが用意された理由を想像することは容易かった。
ルークがいなくなったことを嘆き、病の床に伏した自分を心配して公爵か国王がよく似た子供をルークに仕立て上げたのでしょう。
でも、どこから。
他人の空似というにはこの子はルークに似すぎていた。
「まさか旦那様が外に作った子供なんてことは・・・」
公爵が自分以外の女性に子供を産ませていた。自分は裏切られていたのかしら。
それとも。
「そんな、お兄様が義姉様を裏切っていたなんて」
自分によく似たルーク。ならば公爵の子であるよりも、シュザンヌの兄である国王の子である可能性の方が高いのかしら。どちらにしても元をたどれば一つの所に行き着く家系。よく似た子供が生まれる可能性は他人の空似よりは高いはず。その二人が時をほぼ同じくしてこの世に生を受けたのはどんな運命の悪戯なのか。
それならば戻ってきたルークに記憶がなかったことも頷けるというもの。中途半端に教えるよりも、何も覚えていないことにした方が演じ易かったのでしょう。
いいえ、もしかしたら本当に何も覚えていないなんてことも。薬か、催眠術のようなものを使えば可能なのではないかしら。
シュザンヌの中で公爵と兄の評価がまた一つ下がった。
こんな小さな子供になんて無体なことを。
「かわいそうに」
公爵か国王の不貞でできた子供であるという悪感情よりも、母親から無理やり引き離され記憶を消された子供に対する同情心の方が勝った瞬間だった。
抱きしめる手に力が篭る。
「この子は私が守りますから」
どこにいるとも知れない子供の実母にシュザンヌは誓った。
本当は母親の許に帰してあげたかったが、それは公爵や国王の手前難しそうだったから。
せめてこれ以上この子が、この子達が苦しまないように。
シュザンヌは二人を抱きしめる腕に力を込める。
非力だとか病弱だとか言っている場合ではありませんわね。
子供たちを守れるのは自分だけ。
シュザンヌが母親であることを自覚した瞬間だった。



その日のうちにシュザンヌのこの想像は一部訂正されることになる。
戻ってきたルークはいなくなったルークのレプリカであると。
公爵と国王の浮気男疑惑は訂正されたが、同時に秘預言にルークの死が詠まれていることを聞かされたシュザンヌの脳内を新たな想像が駆け巡った。
「子供を生贄に捧げなければ得られない繁栄なんていりませんわ。貴方たちのことは私が守ります」
やはり母は強かった。



シュザンヌは正しくアッシュの母であった。
その見事な想像力というか妄想力は二人に増えた息子とそれを取り巻く世界について、様々な仮説を脳内で検討していた。その判断基準が息子優先であるとこはわざわざ指摘するまでもないことだろう。
ルーク―――今はアッシュと名乗っているこの子を攫ったのは誰?
預言を知りキムラスカの繁栄をよしとしない誰かか、それともアッシュを死なせたくなかった夫と兄だろうか。後者であるならば二人を許そう。いやむしろ褒め称えたいぐらいである。
しかしそうだったとしたら、アッシュのレプリカ―――「ルークの名はこいつにやった」とアッシュが言うので、この子はルークである―――の存在はどう解釈すればいいのだろう。
アッシュを失わないために夫と兄が創らせたのならば、レプリカだから殺してもいいだなんてそんなことを許すわけにはいかなかった。この子はモノではない。ちゃんと心があって生きているのだから。
現在アッシュはダアトにいるという。こうやってファブレ家を訪れているのはもちろん秘密にしておかなければならないことである、と。それがファブレ家とダアトを一瞬で行き来できるように道を繋いでくれた親切な人―――その人の名を今は明かすことはできないと言うので追求することはしなかった。ただ感謝の言葉を伝えて欲しいと幾重にも頭を下げた―――との約束であるというのならば、その約束を違えて道が閉ざされるなんてことがあっては困るのだ。
シュザンヌのこの心配は杞憂でしかない。力関係を論じればローレライとアッシュではアッシュの方が上だ。特にこの件に関してはルークのお強請りという最終兵器を所持しているアッシュは無敵であると言ってもいいだろう。
アッシュを攫ったのはダアトかしら? しかし預言遵守を教義に掲げる場所が繁栄を阻止しようと思うでしょうか? ダアトも一枚岩ではないということかしら。
あるいは夫と兄がダアトに保護を願い出たのか。
それは預言からアッシュを守るため、それとも預言成就の時までアッシュを守るため。
それは似ているようでいてまったく異なる。
誰を、何を信じればいいのだろう。
親しき人の顔が浮かんでは消える。
誰も、何も残らないのではないか?
それはとても恐ろしいことだった。
信じていた人に、信じていた世界の理(ことわり)に裏切られたのだ。これから何を信じればいい? 何を頼ればいい?
預言のない世界を歩むとはそういうことなのだ。
信じるモノも頼るモノも自分で決めなければならないこと。いいえ今までのように頼っていてはいけないのだ、と。
母としての使命に目覚めた彼女は、その怖さに立ち向かうだけの強さを持っていた。

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