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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』過去編⑧


そのころ魔界(クリフォト)・ユリアシティでは、自分の現在の状況にまったく気付いていないティアが障気の復活に混乱し、怒り、ルークのことを思い、祈りを込めて大譜歌を詠った。
ローレライ召喚。
―――その歌は厄介だな。
大譜歌を詠われると引き寄せられてしまうという事実に困ったのはローレライだった。鍵がなければ契約は成立しないが、ヴァンに呼び出されるのは我慢ならないのだ。かつての記憶が甦る。地核でヴァンに取り込まれたのは、地核にユリアが沈めたローレライの鍵があったからだった。
現状が己の仕業であることを内緒にしておいて再会時のサプライズを楽しもうとしていたローレライだったが、それを諦めてでも大譜歌をどうにかすることを優先することにした。もう一人の大譜歌の詠い手であるティアに事情を説明し、ヴァンに大譜歌を詠わせないことを条件に彼女に力を貸すことを約束する。
鍵がないので正式な契約ではないが、この第七音素が枯渇し治癒術が使えなくなりつつある世界であってもティアの譜歌であれば回復が可能となった。そうはいっても、現時点での自分に詠える譜歌はないことになっている。少なくともヴァンはそう思っているだろうし、しばらくはそう思わせておく必要がある。譜術の威力が弱くなることを知っているティアだったので、「兄に棒術でも習おうかしら」と自分の戦闘スタイルを変更するのに些(いささ)かの躊躇もなかった。使えるモノは兄(ラスボス)だって使う。随分と強(したた)かな女になったものである。
さてヴァンに大譜歌を詠わせないといっても、現時点でできることはヴァンの傍にはりついていて邪魔することぐらいしかない。
手っ取り早くラスボス撃破は「遊べなくなってしまうから」ということでローレライにより却下されてしまった。
ティア自身も「(どんな形であれ)兄には生きていて欲しい」というのが本心だったためローレライに止められてあっさり引き下がったのだった。
「死ななきゃいいのよね」
その分嫌がらせはいっぱいするつもりのようである。
などとこれからのことを考えていたティアだったが、ふと大切なことに気づく。
ヴァンは現在ダアト、自分はユリアシティ。大譜歌を詠われることを阻止するどころか、これでは嫌がらせ一つできはしないではないか。
そこでティアはまずテオドーロを味方に付けることにした。
思いつめた表情で祖父の懐に飛び込む。
「兄さんの様子がおかしいの」
預言にはないことを企んでいるらしいと告げるが、それは誤解だと、テオドーロはティアを諌める。
「ヴァンは確かに預言(スコア)を憎んでいた時期があった。だが今では監視者として立派に働いている」
「監視者?」
ティアにはまだユリアシティの真の姿を教えるつもりがなかったテオドーロは、ばつの悪そうな顔をして目を逸らした。
「すまない。幼いおまえに真実を告げられなかったのだ」
この街がユリアの預言を元に外殻大地を繁栄に導く監視者であること、そしてローレライ教団がそのための道具であることを告げる。
「それじゃあホドも・・・・・・」
「その通りだ」
ティアはこの場でユリアの預言の結末がオールドラントの消滅であるとぶちまけたかった。そうして、それでもユリアの預言に従うつもりなのかと問い質したかった。
それをしなかったのはテオドーロの預言に対する考え方を改めるよりも、今はヴァンを追ってダアトに行くことを優先したからである。
故郷が滅んだこと、両親を初めとする大勢の人間が死んでしまったことは哀しいが、そう預言に詠まれていたのであるならば、その死も故郷の消滅も名誉なことである、と。思ってもいないことをすらすらと言ってのけ、テオドーロから「それでこそユリアの子孫。監視者の鑑」との評価を得ることに成功した。
「兄はまだ預言を憎んでいるのかもしれません」
今にも泣き出しそうな顔でティアが言うと、まだ確定したわけではないので様子をみようではないか、と市長は祖父の顔で慰めた。
ティアはその役目を自分にやらせて欲しいと懇願する。
テオドーロからヴァンの監視のためにダアトに行くことの許可をもらったティアは、神託の盾(オラクル)騎士団に入団することを希望する。当然ヴァンは反対した。兄の反対など何のその、テオドーロの協力を得たティアは、士官学校入りを反対し自分の懇意にしている教官をユリアシティに派遣するとの妥協案も跳ね除け、ダアトの士官学校に入学するために外殻大地へと旅立っていった。



一方グランコクマでは、目が覚めたら自分がまだ若いころに使っていた自室と言う状況をジェイドは混乱することなく分析していた。
「こんなことをしそうな存在は一人しか思い浮かびませんね。あの存在を一人と称していいのかどうかという問題もありますが、今は検討している時間が惜しいですから放っておきましょう」
意外と混乱しているのかもしれない。
ルークがすでに創られた後の時間軸に自分がいることに気付いたジェイドは、どうしてそうなったかを考えるよりも、ルークを失わずに済む方法を考えることにした。音素乖離の阻止やら大爆発の回避やら研究課題は山積みである。それから障気問題もルークに頼らずに自力でどうにかできないものだろうか、と。
始まりの時まで約七年。再会までの時を思うとそれはとても長く、しかし数多(あまた)の問題の答えを見つけるための時間としてはとても短かった。
ジェイドは現在のルークに会ってみたかったのでキムラスカに亡命しようかとも考えたが、そうするとマルクトが野放しになってしまうので現時点での亡命は諦めたようである。前皇帝―――いや、今の時間軸では現皇帝と呼ぶべきなのだろうか―――はマルクトにとって毒にしかならない。せめてピオニーが即位するまでは待った方がいいだろう。いっそのことピオニーの即位は早めてしまおうか、などとジェイドが考えてしまうのは仕方がないことだろう。
ついでにダアトにいるであろうサフィールを己の手駒しようかとも考える。
「私が自らダアトに赴くわけにも行きませんし、さてどうしたものでしょうか」
眼鏡の下の赤い譜眼は楽しそうに笑っていた。



アニスの目の前には自分と家族の転落人生の始まり、その引き金を引いた男がいた。思わず手にしていた何かを投げつけた。それが何であるかなんてことはその際確かめている余裕はなかった。それでもアニスがトクナガを背負っていない状態だったのはその男にとっては幸いだった。もし既にトクナガを手に入れている時間軸での出来事であったならば、その男は秘奥義の一つも食らって昇天していたことだろう。あるいはその方が幸せだったかもしれない。
ここはグランコクマだった。
騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたマルクト兵の中にジェイドがいたのはどんな運命の悪戯か、あるいはローレライの導きだったのだろうか。
「大佐~」
「今の私は単なる一兵卒に過ぎませんよ、アニス」
男はこれから騙そうとしていたので、現時点では罪状がなかった。一方アニスは何の罪もない男に暴行を働いたわけで、子供のしたことであるし瀕死の重傷を負わせたわけでもなかったので、親子共々厳重注意ということで叱られただけで済んだ。一応一晩留置所のようなところにお泊りという形でジェイドが保護したのである。一方被害者であるはずの男は事情聴取という名のジェイドの尋問を受け、タトリン夫妻に対し詐欺行為を企んでいたことやそれ以前の悪行を洗い浚い吐かされ投獄されることになった。自業自得なので同情の必要はない。誰も指摘することはなかったが、彼はかつてとは百八十度違う人生を歩むことが確定した第一号だった。
アニスも自分と同じであると知ったジェイドは、他にも自分たちと同じような人間がいるのではないかと推測した。
「確かめる必要がありますね。可能性が高いのはかつて共に旅をした仲間、それからルークのオリジナルである彼でしょうか」
子供へのお説教だなんてジェイドを知る人間からしてみれば絶対にやらなさそうなことの一つである。しかし実際に行っているらしく、アスラン・フリングスは己の耳を疑った。
ただでさえ死んだはずの自分が生きている、それも過去に戻ったという状況に混乱しているというのに、いや過去であるということで未来であるということよりも混乱は少なくてすんだはずだ。過去に戻ったから生きているという図式が成立するからだ。まぁ成立したからといって何の解決にもなりはしないのだが。
そこにこのジェイドの奇行である。この当時のジェイドでは絶対にやらないはずの行動、当時の彼でないのであれば彼も己と同様に戻ってきているのではないだろうか? アスランはその可能性に思い当たった。さらに同僚に聞いたお説教を受けているだろう子供の特徴にも覚えがあった。そこでアスランは確信した。ジェイドもそしてその子供―――おそらくアニス・タトリンだろう―――も自分と同様未来を知る者である、と。
「子供にはジュースとお菓子がいいでしょうか」
お説教中に茶菓子を持って訪ねる方もどうかと思うが、受け入れる方もどうかと思う。
「あなたもでしたか」
アスランの奇行にジェイドも彼もまた同類であると気付くのだった。それと同時にジェイドは直前まで立てていた仮説を訂正せざるをえなくなった。
「かつて共に旅をした仲間以外にも逆行しているということは、仲間であっても逆行していない可能性があるということです」
「逆行ってなんですかぁ~」
「進むべき方向とは反対の方向に進むことですよ。我々は時間の流れを逆行した仲間ということですね。誰の仕業かと言うことはまだ推測の域を出ませんが、十中八九第七音素(ローレライ)が関係していると思います」
それを確かめる必要があった。他にも逆行している人間―――人間に限定していいものかどうかも現時点では不明である―――がいるかもしれない。未来を知るモノがすべて味方でるという保証がジェイドは欲しかったのである。
マルクトはアスランに任せて亡命しようとするジェイドをアスランは慌てて引き止めた。
「せめて陛下が、いえ今は殿下ですが。即位してからにしてください」
「わかりました。ではさっさと即位していただきましょう」
現皇帝の寿命が縮んだ瞬間だった。
「それまではアニス、あなたに頑張っていただきましょうか」
「え~アニスちゃん、大佐のスパイですか~」
「ですから、今はまだ大佐ではありませんよ」
今回もアニスからスパイの肩書きが取れることはなかった。アニスはジェイドに預けることになった両親の今後がちょっと心配になったが、ダアトに行くことを了承。
(フリングス少将がいるから大丈夫だよね)
この時点ではアスランもまだ一兵卒である。
「お給料はモースから貰ってくださいね」
二重スパイになれ、ということらしい。もちろんサフィールの引きずり込みもアニスの仕事になった。
「イオン様が生まれるまではやることないからいいですけど」
トクナガ作ってもらって、ついでに改良してもらって、ちょっといやだけどお友達になろう。ジェイドから扱い方はレクチャー済みだし優しくされるとコロリといっちゃうような人だったから、たぶんこっちの任務は簡単、簡単。
アニスの物事を深く考えない性格は健在だった。
そうして彼女は意気揚々とダアトへと旅立っていった。
アスランもそうだと知って、ジェイドは自分の負担が減ったことを純粋に喜んでいた。サフィールを手駒にする計画はアニスに任せたので、自分はフォミクリーの研究に専念することができる。アスランと共謀しピオニー即位のために暗躍するのにしばらくは時間を取られることになったが、これも将来の自由を思えばこそである。
しかしジェイドは知らなかった。
遠く離れた別の地に志を同じくする者がいるということを。その人物がジェイドに望む自由を与えるはずがないということを。

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