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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』過去編②


夢なのに触れる感触がある。
夢なのに暖かい。
夢なのに浅く息衝く呼吸。
夢なのに耳に響く鼓動。
「夢ならさっさと目覚めろっつうんだ。この寝惚けが!」
アッシュは短気だった。
怒鳴ってから、気付く。
「ち、違うぞ。俺じゃあない。起きるのはおまえだ」
がくがくと、両肩を掴んで揺する。
ルークを覚醒させたのは、その揺れよりも勢い余って打ち付けた後頭部の痛みが原因だった。
寝ぼけ眼で涙眼。
アッシュはまだ夢の中にいた。
そして己もまたルークと同じ十歳児の身体をしていることを失念していた。いや、ただ気付いていないだけか。
不覚にも可愛いと思ってしまったのだ。
親が子を、兄が弟を、大人が子供を可愛いと思って何が悪い。
実年齢差が八年もあるのだから可愛いと思っても問題ない。アッシュは自分を十八歳、死亡した時の年齢であると思い込んでいた。
それにこれは夢なのだから。
アッシュは開き直った。むしろ己の心に正直になったと言うべきだろうか。
「可愛いじゃねぇか」
台詞も表情も慈愛とは程遠いものであることを指摘できる人間はいなかった。そう、人間はいなかったのだ。
「アッシュ?」
コテンと首を傾げる。
「疑問形で呼ぶんじゃねぇ。俺以外の誰だと言うつもりだ? てめぇは」
疑問形だったのは、ルークの知るアッシュの表情ではなかったからだ。もちろん外見が十歳児であるということもある。
しかしアッシュは自分がどんな表情をしているか、わかっていなかった。ついでに自分が十歳児であることもわかっていなかった。
ここに鏡はない。鏡であるはずのルークに今のアッシュと同じ表情をすることは不可能だろう。
それほどまでに凶悪。それほどまでに妖艶。
それのどこをアッシュであると認めたのか? あるいはアッシュの勢いに負けたのか?
「アッシュだ~」
ルークはアッシュに抱きついてその胸に顔を埋める。
行き場をなくしたアッシュの手は暫し宙を彷徨い、結局ルークの背に落ち着いた。
たとえそれを望んでいたとしても、現実だと知っていたら甘受できなかっただろう。
だけどアッシュは夢だと思っていたから。
安心するなだとか、意外と抱き心地の良いものだなだとか、柔らかな髪だなだとか。
アッシュの心中は己の感覚に正直だった。
それがルークに伝わっているとも知らずに。
朱色の髪の間から覗くルークの耳が、その髪に負けぬほど赤く染まっていることにアッシュが気付くまで、それは一方的に流れ続けていた。
逆流を許さぬほどの奔流だった。



ルークが泣いている。
それが嬉し涙だとわかったから。
もう少しこのままでもいいだろう、なんて。
この均衡を打ち破ることのできる唯一の存在。すべての元凶にとって、時間の流れは人間とは異なる速度で流れるものだった。
待たされることは苦痛ではないのだ。
―――それにしても、そろそろ二人の間に体格差がないことに気付いてもいいと思うのだが。
アッシュはまだ気付いていなかった。
これが夢ではない、ということに。



ローレライの力によりルーク誕生時に戻ってきたのはローレライだけではなかったのだ。
アッシュもまた戻ってきたモノの一人だった。
しかし彼はローレライがやったことを知らなかった。だからこれは夢だと思った。
夢の中でアッシュは己の欲望に忠実だった。そしてコレが夢ではないと気付いたのは取り返しがつかない状態になってからだった。なので、アッシュは開き直った。開き直ったアッシュは色々恥ずかしい存在だった。



声を掛けるのもはばかられるという状況に、ローレライは戸惑っていた。
以前の彼(あるいは彼女/音素の意識集合体に性の区別はあるのだろうか)であれば、相手の状況などおかまいなしに言いたい放題、やりたい放題が当たり前だったが、そんな彼(あるいは彼女/面倒なのでとりあえず『彼』ってことにしておこう)もこの二年で色々と学んだ。
―――漸くおまえたちと遊べると思ったのだが、馬に蹴られて死ぬのは御免だからな。
使い方は間違っていないはずなのだが、何かが間違っている。が、その間違いに気付けるほど彼は世慣れてはいなかった。
―――ふむ、子供のころのアッシュは随分と素直だったのだな。
外見は確かに十歳児なのだが、果たして精神までそうだと言ってもいいものだろうか? この場合は子供だから素直というのとは少し違うと思うのだが。
ローレライは一人(音素の意識集合体を数える時に添える語として『人』という文字が相応しいのか否かはわからないが、他に適当な文字も思い浮かばない上に、最大で七、その程度の使用頻度しかないものに悩むのも馬鹿らしい。この際『人』でもかまわないだろうか。ローレライも気にしてはいないようだし、『人』でいいとしよう。『匹』とか使った日には超振動でぶっ飛ばされそうな気がするのはきっと気の所為ではないはずだ)放って置かれて退屈だったのだろう。互いの存在確認に夢中で周囲の見えていない同位体二人を観察していた。
―――ルークはあまり変わらないな。
最後に会った時と比べ外見的には恐ろしく違うと思うのだが、音素振動数で固体識別をしているらしいローレライにとって見た目は大した問題ではなかったらしい。評価の対象はあくまでも中身ということだろうか? そういうことであるならば「子供の頃の」という接頭語は間違っていると思うのだが、かなり饒舌になったとはいえ学習期間二年ではこれが限界であったようだ。
―――二人とも、そろそろ我の存在に気付いてはくれないだろうか。
そして身体という概念を持たない存在にとって、思うということは同位体限定であったが、伝えるということだった。
「さっきから、ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃと・・・・・・うるせぇんだよ!」
アッシュは短気だった。
その声が誰のモノであるかだとか、どこから聞こえているかだとか、確かめる前に怒鳴っていた。
ビクリ、とルークの肩が震える。
実際はどうあれ、現状は二人きりだ。少なくともそのように見える。
ルークはアッシュの不機嫌な原因は己にあると思った。
アッシュの感情の奔流に流され、ルークにはローレライのただ漏れ思考は伝わっていなかったらしい。
「アッシュ、アッシュって、俺、うるさかったよな」
ルークの翡翠に喜びとは違う涙が浮かぶ。
アッシュは短気だったがそれ以上に照れ屋だった。
ルークに名前を呼ばれて嬉しかったのだと、他の言葉を忘れてしまったのではないかと思うほど「アッシュ」と連呼する姿に幸せを感じたのだと、心は正直だったのだが、口下手だった。
引き止める言葉も見つけられず、離れていくルークを睨む。その眉間の皺がさらにルークを遠ざけているとも気付かずに。



大丈夫、眉間に皺が寄っていたって、屑やレプリカとしか呼ばれなくったって、アッシュが生きていてくれるのならそれでいい。憎まれていたっていいんだ。
幸せな夢から覚めたルークの卑屈根性は絶好調だった。
先程まで抱きしめられていたという現実を夢だと思い込むあたり、さすがは同位体だというべきか。あるいは今二人でいること自体も夢だと思っているのかもしれない。夢なのにアッシュが優しくない。それでもここにいてくれるのだから、それでいいのだと。
見事な悪循環を形成した外見十歳児二人。
第七音素の意識集合体はどうやったら二人に現実だと認識させることができるだろうかと、ない頭(知能がないではなくて、抱えるべき肉体がないという意味である。なんとなく前者でもいいような気がする、なんて言った日には超振動で/以下略)を抱えた。



ルークは混乱していた。
目の前にいるのは十歳児のアッシュ。確認してみたら自分も十歳児だった。
ってことは、今は自分が作られた時、だろうか?
それにしてはアッシュは信じられないぐらい優しい。調子に乗って抱きついていたら怒鳴られた。
やっぱりアッシュだなぁ~とルークは思う。
これは己の見せた願望だろうか?
と思っていたら光球が現れた。光はローレライと名乗った。


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