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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』過去編①


光、溢れる場所。
師匠(せんせい)を倒して、ローレライを解放して、ここが何処かなんてよくわからないけれど、上から落ちてきたアッシュを受け止めたら、ローレライの声が聞こえた。たぶん、ってつけた方がいいのかな? でもこんな状態で聞こえる声など他には考えられなかったから、きっと間違いないだろう。
―――世界は消えなかったのか。
その声が心なしか嬉しそうに感じられる。ローレライもまた、それを望んでいたと思っていいのだろうか。
―――我の視た未来がわずかでも覆されるとは、驚嘆に値する。
知らず口角が上がる。
そうか、預言を覆すことができたんだ。守ることができたんだ。
「アッシュ」
おまえとの約束。それだけが生きる理由。戦う力。
「俺、やったよ。約束、守ったぞ」
腕の中の存在が答えを返すことはなかった。まだ、こんなに暖かいのに。動かない。
「だから、おまえも・・・・・・約束、守れよな」
眉間に皺はなかったけれど、硬く閉ざされた瞼は開かない。以前はちょっと腕に触れただけで振り払われていたのに、今は抱きしめているのに何の抵抗もない。
嬉しくなんて、ない。こんなんなら、怒鳴られている方がずっとマシだ。
もう一度、呼んで。屑でもレプリカでもかまわない。ただ、声が聞きたい。その翡翠の中に自分の姿が見たい。
―――我を解放せしモノよ。其は何を望む。
「アッシュを生き返らせて」
即答した。言われた言葉の意味を理解する前に言葉が口を吐いて出た。
―――それが、望みか?
頷くことしかできなかった。音にはならない。声は出ない。ただ頷くだけ。
そうだよ。アッシュから奪ってしまったものを全部返したいんだ。名前も、居場所も、命も。
―――いいだろう。
ルークは微笑んでいた。
嬉しいと哀しいではちょっとだけ嬉しいが勝る。だって一番の望みは叶わない。だったら他のモノなんていらない。
アッシュから作られたルークはアッシュに還る。心も、身体も。ルークだったすべてをアッシュに還して、ルークは消える。
それでも、アッシュだけは覚えていてくれるから。アッシュに還ったルークの記憶がそれを可能にするだろう。それなら、他には何も要らない。だから笑っていよう。ルークは笑ってアッシュに還っていったのだと、アッシュに知って欲しいから。
―――それだけか?
消えることを覚悟した。それを望んだ。それはルークの本心だったのだけど。ローレライには不十分であったのだろうか?
もっと、望んでもいいというのか?
―――当然だ。それだけのことをしたのだからな。
声に出したつもりはなかった。喋らなくても伝わるというのか?
―――当たり前だ。我を誰だと思っている?
「誰って、ローレライ」
―――その通りだ。我と同位なるモノよ。其は何を望む。
許されるのか。望んでも、いいと。心の奥底に封印した思い。気付かないふりをしてきた本当の願い。上手く騙せていると思ったのに。けっして嘘が上手くはないルークが付いた一世一代の大嘘。己自身さえも騙し切ったつもりでいた。その嘘が氷解していく。氷解してしまう。
希望を、欲望を押さえきることはできなかった。
「生きたい。アッシュやみんなと、もっと生きたかった。大罪人の俺がこんな事思っちゃいけないんだろうけど。アッシュやみんなと楽しく過ごしたかった。普通に遊んだりもしてみたかった」
―――いいだろう。其の望みは我の望み。
ローレライが満足気に笑った、ように感じた。
アッシュ。もう一度おまえに会えるなら、他には何も要らない。
だから―――。



光、溢れる場所。
ルークの意識はここで一度消失する。
再び出会えると。その願いが再びルークを構築する時まで、しばし眠れ。
その光はローレライの揺り籠。いとし子たちを守るローレライの腕。
再び目覚めるその時まで、今は眠れ。
夜明けは近い。
目が覚めたら、みなで遊ぼうではないか。
「楽しそうだな」
ローレライの他にその声を聞くモノはなかった。



ローレライは戻ってきた。
愛し子が誕生した、まさにその瞬間(とき)に。
この子が望んだのだ「楽しく遊んでみたかった」と。 
そんなささやかな望みさえ叶えられなくては至高の存在の名が廃るというものである。
あの時とは違う。
地核に閉じ込められ、自らの解放を同位体に委ねるだけだった時とは違うのだ。
今の自分だったら何だってできる。
そう、ローレライは最強で最凶だった(笑)。



点滅を繰り返す譜業。
寂れた建物とは裏腹な、最新の科学の粋を集めて作られたフォミクリー装置。
その見覚えのある情景に、アッシュは己が夢を見ているのだと思った。
子供の頃の夢。
あいつを、己のレプリカを初めて見た時の夢だ。
両肩を掴む暖かな掌。耳に掛かる熱い息。頬に触れる髭。
髭?
髭だと?
ダメだ。吐き気がしてきた。
振り払おうか?
いや、殴っておこう。
どうせ、夢なのだから。
ククッと忍びきれない男の笑い声がアッシュの耳に届く。
次の瞬間、アッシュの肘が背後に立つ男の鳩尾を襲った。
「な、何の真似だ。ルーク」
きっちり急所に入ったはずなのだが、髭は思った以上に屈強だった。あるいはこちらの力不足が原因だろうか。
「すまない。くすぐったかったんだ」
気持ち悪かったんだ、と言わなかった自分を誉めてやりたい気分だ。
「そ、そうか。それはすまなかったな」
腹を摩りながら立ち上がるヴァン。
「夜が明けたら我々はここを発つ。おまえは私と一緒にダアトに来てもらおう」
一緒に来いと手を引こうとする腕を振り払った。
「ここにいる」
ヴァンは怪訝そうな顔でアッシュを見たが、理由を追及することはなかった。
「まぁ。いいだろう」
夜が明けたら迎えに来ると言い残し、出口に向かう。己の知る男に比べその動きが緩慢に見えるのは気のせいだろうか?
もしかしたらさっきの一撃はアッシュが思ったよりは効いていたのかもしれない。
「それはおまえの代わりに預言に捧げられる生贄だ。傷つけてはくれるなよ」
何を言っているのだ?
こいつを傷付けたのは貴様だったではないか。己も、反省すべき点は多々あるが、ヴァンほどではないはずだ。そう、思いたい。
これが夢だというのなら。
やり直したいと思った己の見せた願望だというのなら。
誰が大切なレプリカを傷付けたりするものか。
傷付けさせるものか。
「こいつは俺のものだ。てめぇになんざ、渡すつもりはねぇ」
ヴァンの姿がその部屋から消えた直後、アッシュは未だ目覚めぬ己のレプリカを抱きしめた。



そのころ、扉を閉めてアッシュの視線から逃れることができたヴァンは、冷たい石畳の廊下で蹲っていた。
アッシュの肘鉄はヴァンに膝を付かせるだけの威力があったのだ。
ヴァンにとって幸運なことはそれを知る人間がいなかったこと、だろうか。
そう、人間はいなかったのだ。
人間は―――では人間以外は?
ヴァンの情けない姿にローレライは非常に満足していた。
―――さっそく楽しませてくれたな。
その呟きを聞くモノはいない。


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