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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑰

走馬灯のように浮かんでは消える光景は星の記憶である。

かつては混乱するばかりだったが、今回は冷静に流れる映像と音を受け止めることができた。
ヴァンが地核のローレライを取り込み生き延びる様に安堵し、同時にもう一度剣を交えなければならないことを覚悟する。正しくは「次こそちゃんと向き合おう」という覚悟だ。いつまでも仲間たちに甘えているわけにはいかなかった。もっとも仲間たちにしてみれば、ルークのためというよりも、自身の手でヴァンを討ち取りたいという思いが強すぎて歯止めが効かないだけである。
それから場面が一転し、大好きな赤が目の前を過ぎる。アブソーブゲートに巣食う魔物を蹴散らしながら、迷うことなく最深部を目指して駆けてくるアッシュの姿に、「ラジエイトゲートで待ってりゃいいのに」と思ったことは、ルークだけの秘密にしておくべきだろう。
―――ルーク!
それは耳で捉えた音なのか、それともフォンスロットを介した呼びかけだったのか。
ガツンと頭を殴られたような衝撃に続き、目の前が真っ白に染まる。気が付けば元の場所に戻っていた。
心配そうな表情で見つめる顔が一つ増えていることに、自分を地核から引き戻したのは今回もアッシュだったのだな、と思う。
「ゲートは?」
「宝珠に反応して譜陣が効力をなくしています」
「成功した、ってことか」
ほう、とルークは安堵の息を吐く。
アッシュがルークの髪をぐちゃぐちゃと掻き混ぜているのは、褒めていると認識するべきなのだろうか? 短いのであればまだしも、この長さでそれをやられては絡まるのは必至である。文句の一つも言ってやろうと思い、身体を起こして初めて、ルークは己がアッシュの膝を枕にしていたことに気付くのだった。
「え、あ、ゴメン」
その状況が衝撃だったのか、口を吐いて出たのは文句ではなく謝罪だった。
「構わねぇよ。それよりももう起き上がって大丈夫なのか?」
心成しか名残惜しそうに見えるのは気の所為ではないだろう。ルークが気付いていな事が幸いだと思うガイだった。
「あぁ、うん。大丈夫。それよりもアッシュ。ヴァン師匠(せんせい)が・・・・・・」
アッシュが言わなくてもわかっているとばかりに大きく頷く。
「あの馬鹿が。また捕まったようだな」
ジェイド同様「また」を強調するアッシュの台詞に、この世界のローレライにとっては初めてのこと、と突っ込む者は残念ながらいなかった。ついでにジェイドと同じことを言っていると突っ込める強者もいないようである。
「うん、さっき見てきた。久しぶりに聞くユリアの譜歌にフラフラと引き寄せられて・・・・・・」
「は?」
地核のローレライの言葉でヴァンがローレライを取り込んだことはわかっていたが、その時の状況までは知りようがなかったアッシュは、ルークの台詞に眉根を寄せる。
眉間に皺を寄せたアッシュを見て、何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか、という気になったルークだったが、口から出てしまった言葉を取り消すことはできない。こうなったら地核で何を見てきたのか話さないわけにはいかないだろう。
「ローレライがユリアの譜歌に特別な思いがある、ってのは皆も知ってるだろ」
それは今から二千年以上も前の物語。少女たちが喜びそうな異種族交流のお伽噺。
ティアやナタリアは目を輝かしてローレライの言葉に聞き入り、その様子を見ていたジェイドは「なるほど、少々脚色して美しい挿絵でもつければ、ベストセラーの絵本が作れそうですね」と感心したように呟き、ベストセラーと聞いて目をガルドにしたのはアニスである。そのうちアニス・タトリン著の絵本がオールドラント全土で発売されるかもしれない。もっとも売れるか否かはアニスの文才と画才に掛かっているので、元がどんなに少女受けする話だったとしてもベストセラーになるという保証はどこにもなかった。



それは九割強の好奇心と、わずかなそれ以外の思惑。ちなみにそれ以外にはユリアが外殻大地を作り上げた経緯や、終末預言を残しそして隠した理由などが含まれている。どう考えてもそれ以外の方が重要だと思われるのだが、瞳を輝かして聞き入る女性陣を見ていると好奇心の方が重要という分析が正しいと思っても過言ではないだろう。
「契約はどのようにしてなされたのですか」
その質問は何度目かの顔合わせの折にジェイドから発せられたものである。
人型を模したローレライは「ふむ」と考えるような素振りを見せた後、おもむろに話し始めたのだった。



単一の音素が集まる所に、自我が芽生える。
美しい歌だった。
その歌を認識した瞬間、わずかな感情を持つだけの存在だったモノが意識と呼べる程の自我を持った。
それがローレライだった。
―――美しい歌だな。
彼女も第七音素が己の周りに集まってきていることはわかっていただろう。その第七音素は目視できる程の濃さになり、球状になって空中に留まった。
「気に入っていただけたのなら光栄だわ」
彼女は第七音素が集まったことにも、そして声を発したことにも、わずかに瞠目するだけで取り乱したりはしなかった。
人間と接することが初めてだったローレライはそれがどんなに珍しいことであるかわかっていなかったが、今になって思えば彼女の反応は普通ではなかったのだ。それが彼女自身の器の大きさを示すものであり、自身が彼女に惹かれた所以でもあったと、今ならわかるというものである。
―――歌の礼がしたい。何か望むことはあるか?
女はユリア・ジュエと名乗り、名前を教えて欲しいと強請った。
それが礼になるのだろうか。
「貴方のために歌っていたわけではないもの。それで十分だわ」
―――我のことはローレライと呼べ。
その名はローレライの中に初めからあった。第七音素は記憶粒子である。膨大な星の記憶。自身の存在もまたその中にあった。それから彼女の愁いの理由もである。障気と大地の液状化による人類消滅の危機。それが彼女を悩ませている問題だった。しかしローレライには彼女が何故嘆いているのかはわからなかった。
星の誕生から消滅までの記憶。その長い時間の中で地表では人間や魔物が生まれては死んでいく。この美しい声が聞けなくなるのはもったいない気はしたが、ローレライにとってはそれもまた自然の摂理でしかなかったのだ。
「個の消滅と種の消滅は違うわ。受け継ぐ者がいれば私が消えてもこの歌は残るのよ」
ローレライは初めて人間の消滅を惜しいと思った。
―――ならば、探してみるか?
過去から未来へと続く膨大な量の星の記憶。過去一本道であったそれは今と言う時間軸を起点に膨れ上がり、星の消滅と言う終点へと向かい先細りしていく。結末は変わらないが、そこに辿り着くまでの道程(みちのり)と時間は無限に存在しているのだ。
その数多(あまた)ある可能性の中から彼女の歌を残す道を選ぼうとするのは傲慢だろうか?
しかしローレライは己の心の内に芽生えた誘惑を振り切ることはできなかった。
「星の記憶。そうね、そこに人類を存続させる術があるかもしれないのなら―――見させてもらうわ」
そうして彼女は液状化した大地から地表を切り離し、魔界(クリフォト)に障気を閉じ込める方法を見つけたのだ。
ユリアは人類を存続させる術を惑星預言(プラネットスコア)として人々に伝えた。
「預言なのだから従わなければならない」なんて少々強引な方法ではあった。しかし現状を説明し理解を得ているだけの時間が人類には残されていなかったのだ。
しかし実際にそれを実行したのはイスパニア国とフランク国の二国である。
ユリアはその能力と人望を恐れたこの二国により無実の罪で投獄され、処刑を待つ身となっていた。それでも彼女は誰を恨むでもなく、外殻大地の完成を喜んだ。
「ごめんなさいね」
―――何を謝る?
「歌を残すと約束したのに、守れないかもしれないわ」
―――見てみようとは思わないのか?
「貴方の知る数多ある未来の中には、私が生きている世界もあるのでしょうね」
彼女は惑星の預言を詠むことはしても自身の預言を詠もうとはしなかった。未来など知らない方がいいと彼女は言った。そう言いながらも彼女は惑星預言を詠み続けた。
人類の存続。彼女の願いはそれだけだった。
障気を地中に押し込め、液状化した地表から大地を切り離し、人類は一度滅亡を逃れることができた。しかしユリアは地中に閉じ込めた障気が地上に噴出してくることはないのか、浮上させた大地が落ちることはないのか、それを心配していた。惑星がいずれ消滅するというのであれば、その時まで人類が生き残る術を。一秒でも長く、一人でも多く、そのためなら犠牲がでることさえ厭わなかった。
そうしてできたのが七つの譜石の山である。
―――まだ続けるつもりか?
「私は私が思うより欲深かったみたいだわ」
ユリアは人類の滅亡に二千の猶予を与えたが、それが彼女の限界だった。
―――何も一人ですべてを背負い込むこともあるまい。
「ふふ。それもそうね」
ユリアと同等かそれ以上の預言士(スコアラー)―――惑星預言を詠む能力を持つ人間をローレライ教団の導師として保護し、人類存続の道を探ること。幽閉の身から解き放たれたユリアはローレライ教団に人類の未来を託し、自身はローレライの愛した歌を後世に残すために世界を旅し、ホド島でその生涯を終えたのである。



譜石に次代の導師の存在が詠まれていた意味を知り驚いたのは、ユリアの譜石に最後の導師として名を刻まれた少年だった。
「僕以降の導師の不在は、ユリアの能力の限界と、歴代導師の力不足が原因だったって訳か」
自分を含める歴代導師の不甲斐無さを嘆くと共に、そのお蔭で自身のレプリカを得ることができたことを僥倖と思う。相反する思いに被験者イオンは苦笑するしかなかった。
「ユリアの願いは後世に伝わらず、滅亡を記した第七譜石は隠され、預言は守らなければならないものとされてしまったということですか」
いつ誰がどんな意図で教団のあり方を変えてしまったのか、今となっては知りようのないことだった。それにそれを知ったところで何かの役に立つとは思えず、ジェイドはそこで口を噤む。
一つだけユリアの預言を陵駕する預言があった。かつてレプリカイオンがその命と引き換えに残した障気の中和に関する預言がそれである。
(歴代導師に彼と同等の能力があったのならば・・・・・・)
もしもを論じたところで意味がないことはわかっていたが、それでももしもと思ってしまうのは仕方のないことだろう。
(いや、やめておきましょう)
ジェイドが想像してみた世界では自分たちは出会っていなかった。ルークやイオンたちにいたっては存在さえしていないのだ。ルークやイオンたちレプリカが生まれるために必要なことだったと思えば、ローレライ教団の変貌さえも許せてしまうから不思議である。
「大譜歌を詠えるのは私と兄だけのはずです。ユリアはもっと沢山の人に歌って欲しかったのでしょうね」
ユリアの譜歌はローレライへの供物だった。ユリアはローレライのためにただの歌として歌われることを願っていたのだろう。それを攻撃の道具としてしまった子孫を彼女やローレライはどう思うだろうか。それでも第七音素(ローレライ)は譜歌に力を与えてくれていた。それ程譜歌はローレライにとって心惹かれるものだったのだったのだ。



「もう何年も譜歌を聞いていないのですものね」
ローレライの譜歌に対する執着を知っているだけに、地核のローレライがヴァンの詠った大譜歌に引き寄せられてしまったこともわからないではなかった。
ティアは地上のローレライと新たな歌で新たな契約を結び、ユリアの譜歌を詠わなくなって久しい。もう一人の詠い手であるヴァンはティアたちにより詠うための機会と声を奪われ、この七年間大譜歌を詠うことはできなかったはずである。地核のローレライはもう何年も寂しい思いをしていたのだろう。
地核に落ちたヴァンが何を思ってそこで大譜歌を詠ったのかはわからなかったが、譜歌に飢えていたローレライがその歌に抗えなかったことは想像に難くない。地核のローレライを責めるのは酷というものだろう。
もっとも地核のローレライに同情的な考えを持つ者はここでは少数派である。
「ヴァンがこんなに早く声を取り戻すとは、もう少し強力な薬を用意するべきでしたね」
唯一自分を責めるジェイドを除いては、殆どの者が易々とヴァンに捕らわれた地核のローレライを情けなく思っていたのだった。

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