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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑨

モースに残るよう命じられたティアは王城の一角に用意された彼が使っている客間に連れて行かれた。

人払いをするとヴァンたちが何をしようとしているのか単刀直入に聞いてきたので、ティアはどこまで話そうかと数秒思案した。
「詳しいことは故郷の機密に関わることですので、たとえモース様であっても申し上げることはできません」
ユリアシティは教団創設以来の機密事項。しかしそれでおとなしく引き下がるようなモースではない。理由を言わなければおまえを処分する、と。しかし処分なんて言葉で怯むティアでははかった。
「兄が、ヴァン・グランツがやろうとしていることはユリアの願いに反すること。ユリアの意志実現に必要だというのであれば、実の兄と刺し違える覚悟はありました。しかしあの場で事を起こしナタリア様とルーク様を巻き込んでしまったことは配慮がたりなかったと言わざるをえません。どのような咎めも受ける所存です」
ティアの言葉に嘘は一つもない。いや、ナタリアとルークを巻き込んだことは計画の内だったので、そこは少し真実と異なる。それでも彼女の凛とした態度はモースにそれが虚偽ではないと思わせるには十分だった。
「おまえは何者だ」
「私はユリアの意志を継ぐ者です」
ユリアの望みは預言遵守にあらず、預言を覆し世界を存続させることにある。
それがかつての旅でティアが出した結論だった。
ユリアの望みが預言遵守にあると疑わない、預言の行き着く先が世界の滅亡であると知らないモースがティアの真意に気付くことは不可能だろう。
ティアが預言遵守派であるとモースが誤解するように仕向けるための言葉選びは完璧だった。
「そうかそうか。おまえの兄のことは残念だったが、おまえとは上手くやっていけそうだな」
下品な高笑いを発しながら、モースはティアの肩をバシバシ叩く。
(このセクハラオヤジ! 汚い手で触らないでくれないかしら)
内心の殺意を笑顔で隠し、ティアは恭しく頭を下げて客間を後にした。



翌日、ルークたちは再び謁見の間に呼び出された。
インゴベルトはマルクト皇帝からの和平の申し出を受け入れること、その証しとしてアクゼリュスの救助を申し出た。
「アクゼリュスは数年前に廃鉱にしました。あの街は現在無人のはずですが・・・・・・」
そうきましたか、とジェイドは爆笑したいのを堪えて神妙な顔を作ってみせた。
「マルクト側の街道が使えない故、使者殿が知らぬのも無理なきこと」
最盛期より量は減ったとはいえアクゼリュスから出土した鉱物は未だ市場に出回っているのがその証拠である、と。
キムラスカ側からでなければアクゼリュスに行くことはできないということは、現在アクゼリュスにいる人間はキムラスカ側の街道を使って不法侵入した人間、つまりキムラスカ人である可能性が高いのではないだろうか。
そう考える者も少なくはなかっただろう。
マルクトのためと称して自国の民を救う、か。しかしその民は他国に密入国し盗掘を行う者。果たして救う価値のある人間だろうか。
ナタリアが敢えて沈黙を守っていたため、王に意見できる者はこの場にはいなかった。
「ルーク、行ってくれるな」
親善大使に任命されたのがルーク・フォン・ファブレだったことに秘預言を知らぬ者たちは王の真意に疑念を抱く。
アクゼリュスは人体に影響を及ぼす程濃い障気が観測された街。そのような場所に第三王位継承者に行っていただくわけにはいかない、とジェイドは恐縮しきった態度で辞退する。
「だからこそだ。ワシがマルクトとの和平を本気で望んでいることの証明となろう」
一体何を本気で望んでいるのやら。
インゴベルトはどうあってもルーク・フォン・ファブレをアクゼリュスに行かせたがっているのだと、その場にいる者たちに多少なりとも印象付けることができたのではないだろうか。
そろそろいいでしょう、とジェイドはそっとルークに目配せする。
「そのお役目、承りました」
「よく決心してくれたルークよ。実は、な。この役目、おまえでなければならないわけがあるのだ」
いつか聞いた台詞である。
かつてのように第六譜石の欠片を詠んでみろと言われるのかしら、とティアは身構える。欠けていて詠めなかった文章はティアの頭の中にきっちり入っていた。今ならあの欠片があそこで終わっていた理由もわかるというものである。いっそのことオールドラント滅亡まできっちり詠み上げてみようかしら。オールドラントの滅亡を知り慌てふためく彼らの姿を想像し、ティアはこっそりと笑みを浮かべた。
ティアの表情の変化に気付いたのは彼女の正面にいたナタリアだけだった。
(何か楽しそうなことを思いついたみたいですわね)
ナタリアはティアが何をしようとしているのか想像してみる。かつての記憶を頼りに今後の展開を思い浮かべてみればティアの思いつきは容易に推察できた。
(それはとても楽しそうな企みですけど、今はまだその時期ではないのではないかしら? でもティアが譜石を詠み始めたら止める術はないような気もしますし・・・・・・)
ここは自分が止めるべきだろうと、ナタリアは声を上げた。
「お父様! やはりわたくしも使者として一緒に・・・・・・」
身体は王の方を向いていたが、ナタリアの意識はティアに向けられていた。
(あぁそんなに残念がらないでくださいませ。わたくしも残念でならないのですから)
ナタリアの横顔にティアは誰にも気付かれないようにつめていた息を吐いた。
(ナタリアに感謝しなくちゃね)
ティアもそれをしては計画に支障をきたすことは理解できていた。それでも譜石を渡されたら秘預言すべてをぶちまけてみたいという誘惑に勝てなかったことだろう。
「それはならぬと申したはずだ」
有無を言わさぬ王としての言葉と態度に怯むようなナタリアではなかった。
「どうしてですか? 理由をお聞かせください」
「王命だ。ならぬものはならぬ」
どんな素敵なこじ付けを披露してくれるのか楽しみにしていただけに、拍子抜けである。
「それで、同行者は私と、あとは誰になりましょう」
ナタリアの暴走は聞いていて楽しいものがあったが、これ以上は計画の妨げになるのではないかと思ったジェイドが軌道を修正する。
(今はまだ我々が知っていることは秘密にしておく必要があることをお忘れですか)
眼鏡の奥の赤い譜眼が冷たく光る。ナタリアはやりすぎたかしら、と内心で舌を出したが、そこに反省の二文字はなかった。
「ローレライ教団としては、ティア・グランツを同行させたいと存じます」
モースがティアを同行者に推薦したのは、預言の監視者である彼女はどんな手段を用いてもアクゼリュスとルークを消滅させるだろうと信じているからだった。
「モース。僕も同行しようと思います」
和平の成立を見届けるために同席したイオンのこの発言に、導師を失うわけにはいかないモースは猛反対した。
「もう決めたことです。和平の成立を見届けるのが仲介役を引き受けた僕の役目ですから」
それが実状と異なっていたとしても、教団で一番偉いのは導師であるイオンだった。その決定を人目の多いこの場で覆すことはたとえモースであってもできることではなかった。
こうしてアクゼリュス救援のための使者にはルークを親善大使、同行者にジェイド・イオン・アニス・ティア・ガイの五人が選ばれた。もちろん実際に救援を行うのは兵士や医師である。そちらは白光騎士団を中心に特別部隊が編成されることになった。その編成のために一日時間をとり、出立は明日ということになる。第三位とはいえ王位継承者を旗頭にした救援隊にしてはあまりに早すぎる展開だった。



モースは怒っていた。
レプリカは人形。そこに意志などあっては困る。ただ言われるままに導師を演じ、預言(スコア)を詠めばよいだけである。
それがモースの求めたレプリカイオンだった。
しかし実際のレプリカイオンは意志を持ち勝手に行動してしまう。その行動はローレライ教団の導師として非の打ちどころがないものであるから、モースは導師の行動を阻止することができなかった。
マルクトの求めに応じてダアトを勝手に離れたこともそうだったし、今回のアクゼリュス同行の件もそうである。
謁見の間で己の意志を示したイオン。モースに導師の意志を覆す権限はない。
モースは導師がアクゼリュスに行けば確実に命を落とすと思っていた。しかし彼には導師を失えない理由がある。今回はかつて導師のスペアとして手元に残しておいたフローリアンがいないのだ。二人目、三人目のレプリカイオンが存在することはモースのあずかり知らぬことだった。
どんな手段を用いてもアクゼリュス行きを阻止するつもりのモースは、アニスを呼び出した。
「それは~どういうことですか~?」
誰が聞いているとも知れない場所で「イオンを監禁せよ」とは言えなかったのだろう。モースの説明は要領を得ない。
「え~と、とにかく、イオン様には今夜は教会に泊まっていただくようお願いすればいいんですね」
導師の宿泊先がファブレ家では監禁のしようがない。王城もしかり、である。かといって街の宿屋に導師を泊めるわけにもいかないので、ローレライ教団の教会が選ばれたのだ。
モースの思惑を察することは今のアニスにはそう難しいことではなかった。
教会の一室にでもイオンを閉じ込めて親善大使一行に加われないようにするつもりなのだろう。
出発時間になってもイオンが姿を現さないことを尋ねられたら、体調を崩して同行は難しいとでも言っておけばいい。導師の体が弱いことを知る者は多いので真実を知らない者にしてみれば疑う理由はないだろう。しかし仲間たちは別だ。イオンが同行することは計画の内であり、それを取りやめる理由は今のところない。
しかしまだモースのスパイのふりをしていなければならないアニスは考える。
(え~と、イオン様にはとりあえずモースの命令通り監禁されてもらって、その後は前回と同じようにあの三人組に攫ってもらえばいいよね)
翌朝、モースにイオンの居所を尋ねられたアニスはキョトンとして首を傾げた。
「イオン様は昨夜モース様の指示で場所を移されたのではないのですか?」
イオンのいる部屋の前で警備についていたアニスに、イオンを移動させると言って連れ出した男たちはモースの部下だと名乗った、と。
実際にはそんな人間は存在しない。
扉を開けたのはアニスだったし、イオンは自分の足で教会を出て、迎えに来た漆黒の翼と共に夜の闇へと消えていったのである。
しかしモースはアニスの思惑通り勘違いしてくれたようだった。
誰の耳があるともわからない状況だったのであいまいな表現を選んだのは自分だ。アニスに伝わった己の意思が「導師を監禁する」というところのみで場所に教会を選んだことまでは伝わらなかったのだろう。そこを誰かにつけ込まれた。
「ヴァンの仕業か・・・・・・」
「どうしてヴァン総・・・、ヴァン・グランツが」
指名手配犯に総長はまずいかなぁ~と思い、アニスは言い直す。
脱走兵として指名手配されたヴァン・リグレット・ラルゴの三人。しかしそこに彼らの犯した罪は明記されていないのだから仕方がない、とモースは思う。
「導師守護役(フォンマスターガーディアン)であるおまえには話しておいた方がいいだろう」
タルタロス襲撃の黒幕はヴァン。モースは六神将に導師探索を命じはしたが力尽くで取り返せなどとは言ってない。導師を取り戻した後彼らが導師をどうするつもりだったのか、想像するだに恐ろしい。そんな者であるとも知らずに彼らに大儀を与えてしまった自分に非がないとは言わないが、自分も騙されていたのだ。
白々しいモースの言い訳は、アニスの耳を通り過ぎるだけである。
自分に言い訳したって意味ないのに、とアニスは思う。
あぁ違うのか? 大詠師モースと導師守護役の少女が揉めていれば、こっそり様子を窺う者が現れるのが当然だ。柱の陰やら扉の隙間で聞き耳を立てている教団関係者へ向けてのアピールのためだろう。どこまでも保身に走るモースに、ダアトの未来に暗雲が立ち込めているのが見えるような気がするアニスだった。
そこへ出発時間が迫っているのに姿を現さないイオンとアニスを心配したティアが現れた。
モースは再びそれが真実であるかのように自信たっぷりに自説を語る。
「それは確かなことなのでしょうか?」
「証拠はない。しかし他にこんなことをする者がいるとは考えられん」
「そうですか」
俯いたティアの口許に笑みが浮かんでいることに気付けるのはアニスだけだ。
モースの出した結論はこちらの予想した通りだった。ならばこの先もまたしかりであろう。
今のモースに信託の盾(オラクル)騎士団に命を下すことは難しかった。それが導師探索という命令であれば尚のことだ。一度煮え湯を飲まされた兵たちはモースの命令の真偽を他の詠師たちに確かめるだろう。今度の導師失踪は真実だったので、いずれは神託の盾兵を動かすことができるかもしれないが、今はのんびりとダアトの総意が得られるのを待っている暇はなかった。今すぐ動かせる手駒はティアとアニスの二人といったところだろうか。もちろんそれはモースがそう思っているというだけのことであったが。
モースはティアとアニスにヴァンの手から導師を取り戻すよう命令する。しかしティアがアクゼリュス救援のための使節に加わることはモースが言い出したこと。今更取り消すわけにはいかないのではないか。
モースもまた預言によって自分の行動を決めてきた人間だった。それはすなわち思考能力の低下を意味する。欠如しているキムラスカ国王よりは多少マシかもしれなかったが、ティアたちに言わせれば五十歩百歩と言うものだろう。己の代わりに道を示してくれる言葉があれば―――それが預言に沿っていると思わせる必要はあるが―――嬉々として従うだろうと想像することは容易かった。
ティアはアニスも当初の予定通り親善大使であるルーク・フォン・ファブレに同行したらどうかと進言する。イオンが行方不明になったことで必然的にアニスの同行も自然消滅していたことであったが、公式に同行を辞退したわけではない。一行に加わることは可能だろう。
和平の成立を阻止するために行動しているヴァンは、きっとルーク・フォン・ファブレのアクゼリュス行きを邪魔するために現れるはずだ。それがヴァン自身であるか彼の部下であるかはわからないが捕らえて導師の居場所を聞き出せばよい、と。
ティアがヴァンの目的が「和平成立の阻止」であると言ったのはアニスや他の信者の耳があるからだった。モースの耳には和平が預言と聞こえていただろう。
ティアは預言の監視者であり、自分と志を同じくする者だと信じ込んでいるモースはこの提案をあっさり承諾した。
二人に親善大使に同行し、道中必ず接触してくるであろうヴァン、もしくは彼の部下を捕らえ、導師の居場所を聞き出した後、導師を無事奪還することを命じる。
この極秘任務に従事するのが少女兵二人のみというのは無理がありすぎる。しかしモースは自分の命令に無理があると気付けるほど現場を知ってはいなかった。
そして少女たちの方にはこの命令には無理があると訴える必要はなかった。
少女たちは知っているのだ。この命令が発せられることになった原因。導師を攫ったのはヴァンであるという仮定がそもそも間違いであるということを。
導師が行方不明であること。そして元信託の盾騎士団主席総長によって誘拐されたことを隠したいと思ったモースは、現在教会内にいてこのやり取りに聞き耳を立てていた者たちには緘口を命じ、ダアトには導師はアクゼリュス救援のための使節に加わったので帰国が遅れていると伝え、親善大使一行に対しては体調が悪くて同行できなくなったということにしたのだ。三者が直接接触することさえなければ、導師誘拐の真相が明るみに出ることはないはずである。
ティアとアニスの二人は揃って「承りました」と頭を下げた。磨き抜かれた大理石の床に映った少女たちの口許がしてやったりとばかりに笑みを形作っていることに、モースが気付くことはなかった。



「でも、ティア。よかったの?」
ルークたちの元へ向かいながらアニスは窺うような視線をティアに投げかける。
「何が?」
「だってイオン様の誘拐までお兄さんの仕業ってことになっちゃったんだよ」
タルタロス襲撃時のリグレットとラルゴはヴァンの意を汲んでいたのだから、ヴァンが導師誘拐を企んでいるという部分に嘘はない。しかし今回の導師失踪に関しては完全な濡れ衣である。
「いいのよ。兄さんがやろうとしてうることに比べたら軽いものだわ」
ヴァンが本当にやろうとしていることの罪でヴァンが裁かれることはない。何故ならそれは罪が発覚する前に自分たちが阻止するからである。だからと言ってヴァンがやろうとしていたことがなかったことになるわけではない。そこにかつての恨みが混在していないとは言わないけれど。犯していない罪の刑まで科せられていることを知ればヴァンは己がそれをやろうとしていたことを棚に上げ憤慨するだろうか。
「ん~まぁ、ティアがいいならいいんだけど」
ここにいたのがルークだったらティアを止めたかもしれない。しかしここにはアニスしかいなかった。それがヴァンにとっての不運だったのだろう。しかしジェイドはいなかったので最悪の一歩手前で留まっている。ヴァンの運命は現在そんな状況にあった。

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