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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑦

国境の砦カイツール。

ルーク・ナタリア・ティアの旅券はガイがインゴベルトから預かってきたものがあったし、それ以外は各自所持していたので、旅券がなく足止めされてしまったのはアリエッタとそのお友だちだけだった。
マルクト側の国境はジェイドが皇帝名代の地位を利用して通過する許可を取り、キムラスカ側は王族二人の我儘という伝家の宝刀を抜いて入国を認めさせた。
「わたくしたちが無事キムラスカに戻ってこられたのは、彼女と彼女の友の協力があったからですわ。旅券がないから入国を許可できないだなんて、キムラスカ王女は恩知らずな人間だと世間が噂をしたらどうするおつもりですの?」
警備兵はただ職務をまっとうしようとしただけである。それを王女の名を貶める行為だと責められたのではたまったものではない。彼は王族の逆鱗に触れぬように「どうぞお通りください」と頭を下げるしかなかった。
「悪いことをしたかしら?」
最敬礼の姿勢で固まった警備兵の姿を一瞥し、ナタリアは少しだけ申し訳なく思う。彼が咎められることのないようにフォローしておかなければならないだろう。それはジョゼットが後で彼の上官に進言しておくということになった。
「ナタリア殿下。ルーク様。無事のご帰国お喜び申し上げます。ご苦労様ですティア・グランツ殿。ガイ・セシルもご苦労でした」
王族二人がティアとの間で起きた超振動が原因でファブレ公爵家から飛ばされたことなど承知の上で、ジョゼットはティアを労ったのだ。それはキムラスカがティアの罪を問わないと公式に言っているようなものである。もっともキムラスカ国王やファブレ公爵は二人がバチカルから姿を消した原因が、ティアがヴァンを襲ったことにあるなど知らされていない可能性も充分あるのだが、その辺のことは後でジョゼットから聞こうと思うジェイドだった。
「マルクト帝国軍、第三師団団長、ジェイド・カーティス大佐です。陛下の名代としてまいりました」
「知らせは受けております。ようこそキムラスカへ、カーティス大佐。自分は白光騎士団団長、ジョゼット・セシルであります」
初対面―――世間的にはそういうことになっているので、これは対外向けの演技である―――の挨拶を済ました二人の軍人は、ここからバチカルまでの行程を話し合うためキムラスカ軍の詰所へ。ルークたちは白光騎士団の護衛の下、宿で待つことになった。
表向きはバチカルまでの行路の確認や警備体制の話し合いということになっているが、実際は台本通りに進んでいるかの確認をするためである。当初の予定と大きな差異はなかったので、ジェイドとジョゼットの話し合いは数分で終わった。
「名代がフリングス少将でなくて残念なのではありませんか」
「そんなことは・・・・・・」
ないとは言い切れないジョゼットに、さすがのジェイドもからかうのはかわいそうだと思ったのか、アスランから預かった手紙を渡す。ジェイドを伝書鳩代わりにするとは、アスラン・フリングス恐るべし。
渡された瞬間から手紙の存在に心を奪われたジョゼットはジェイドが詰所を出て行ったことに気付かなかった。



この七年間、アスランとジョゼットが公式に会うことは一度もなかった。非公式な、いや非常識な手段を使う方法も含め、未だ会う機会には恵まれていないのだ。それでも今はお互いがかつて思いを寄せた相手と同一人物であると知っている。それで充分であるとジョゼットは思っていた。もちろん会いたい思いは日に日に大きくなる一方であったが、何も知らなかったころと比べると今のなんと幸せなことか。
「彼も同じ思いでいてくれるとよいのだが」
真っ白な封筒に綴られた己の名前。それを指でたどるだけでふわりと心が温かくなる。
「もうすぐ―――貴方に会える」
誰にも聞かれることのなかったジョゼットの呟きが、手紙の最後に書かれていた言葉と同じであることを知るのは、今はまだ読まれていないこの手紙だけだった。
アスランとジョゼットの二人は当初、過去に戻ってきたのは己のみであると思っていた。それからそれぞれの国で同類を見つけることはできたが、相手の国のことは知りようがなかったのだ。なので、アスランはジョゼットが、ジョゼットはアスランが自分と同じく未来を知る者であるとは思ってもいなかった。同じ名前を持ち同じ姿形をしていたとしてもそれ己の愛した相手とは別の人間。同じ顔をした別人というのは会えば辛いだけなのではないだろうか。できれば会わずにすませたい。でも幸せにはなって欲しい、と。相手のためにも預言を覆して世界を存続させるために尽力することが、自分が今ここにいる理由である。特にジョゼットはアスランを死なせないために、そのためなら何だってやるつもりでいた。
二人のそんな思いに気付いているのはアスラン側ではジェイド、ジョゼットの方はガイぐらいだっただろうか。
ジェイドはジョゼットが、ガイはアスランが逆行しているとは知らないため協力のしようがないまま一年ぐらいが過ぎ、その後お互い自分の知る相手であると判明するのだが、どんなに二人が会いたいと思っていても公式に認められる理由はなく、非公式な手紙のやり取りが精一杯だったのだ。
ジョゼットの思う相手がマルクト軍人だと知ったシュザンヌはマルクトに亡命してもいいと言ったが、残されるセシル家のことを考えるとそれもできず、それ以上に今なすべきことを投げ出すような女はアスランに相応しくないと考えるのがジョゼットである。
一方アスラン側も似たようなものだった。ピオニーの暴走を止めるにはジェイドとアスランがタッグを組む必要があり、アスランのキムラスカ亡命はジェイドが全力で阻止したのだ。その負い目もあってジェイドは伝書鳩の役目を快く引き受けているのだろう。
ピオニーが「アスランが亡命するなら自分も一緒に亡命しようかなぁ~」などと本気とも冗談ともつかない口調で言うので、アスランはマルクト帝国が心配でグランコクマを離れることができなかったというのも理由の一つだ。
ピオニーの場合、ネフリーに思いを告げようにもジェイドにすべてが片付くまでは禁止ですと言い渡されている状態なので「アスランばっかりずりぃよなぁ」と嫌がらせの可能性が大だ。けっして本気ではない、と思いたい。



「ヴァン師匠(せんせい)来てないのな」
この質問には、ガイが伝えていなかったことに呆れつつも、同行した白光騎士の一人、チェリア・ハミルトンが答えた。彼女はかつてジョゼットが率いていた隊にいた女性兵士の一人だった。数少ない同性同士互いに親近感を抱いていた。その記憶もありジョゼットは今生でも彼女を重用していた。今回も王族二人の出迎えと護衛という任務に同行させ、自分が席を外す間の全権を預けるほどである。そして彼女もジョゼットの信頼に十分応えていた。
バチカルでは三人がファブレ家から消えた原因を作ったのはヴァンということになっているということ。自他とも認めるシスコン兄は本当のことを言って妹を罪人にすることはできなかったらしい。ガイがバチカルを出立した時はファブレ家に軟禁されていたヴァンであったが、現在はキムラスカ城の地下牢に場所を移し取調べを受けていた。キムラスカ王やファブレ公爵、大詠師モースの取調べにも頑なに口を噤んでいるとのことだった。
「まぁ、本当のことは言えないだろうからな」
ティアがやったことを言い出さないのは、ティアを守りたいという思いも本当だったが、それ以上に実の妹に命を狙われた理由を探られることを恐れたからに他ならない。
この期に及んでもヴァンは二人がバチカルに帰還さえすれば自分は解放されるだろうと思っているようである。
ちなみにND2018の預言を知っているキムラスカ国王とファブレ公爵を初めとする国の重鎮たち、そしてモースはルークのバチカル不在を快く思ってはいなかったが、ユリアの預言(スコア)に詠まれた存在である聖なる焔の光(ルーク)が預言以外の場所で失われることなどないと思い込んでいるため、心配はしていなかった。ルークの身の安全が預言に保障されているということは、当然一緒にいるであろうナタリアも保障されているということだ。その絶大なる信頼はどこから来るものなのか? 預言の真実を知るモノにとっては馬鹿らしい限りだった。
ヴァンはこれでもしレプリカルークが失われたとしたら、預言がレプリカを聖なる焔の光(ルーク)と認めず、たとえ名を変えたとしてもオリジナルルーク(アッシュ)は預言の呪縛から解放されることはないのだ、と。せっかく作ったレプリカを有効利用できなかったことは残念であるが、やはり人類を預言から解放するためには劇薬が必要であるという自分の考えに自信を持ったことだろう。もっともルークたちは無事にバチカルに帰還するのだから、この仮説は証明されることはない仮設(もしも)の話である。



当然のことなのだが、カイツール港の襲撃もなければ、コーラル城に行く必要もないので、一行は真っ直ぐ馬車で軍港へ向かった。
その後は連絡船キャツベルトでケセドニアへ。
ヴァンがいないので甲板での出来事はないかと思いきや、地核のローレライがアッシュとルークに接触しようとしてきたようである。
―――我と同じ力、見せてみよ・・・・・・
突然の頭痛がアッシュとルークを襲うが、二人の意志を無視して超振動が発動することは、なかった。地核のローレライの気配を感じた地上のローレライが阻止したのだ。
「まだ、自我があったとはな」
成長したアッシュとルークの姿で現れたローレライは床に蹲るルークを抱き起こしベッドへと運ぶ。
「てめぇがさっさと地核のローレライを吸収しねぇからだろうが!」
頭痛で苦しむルークにアッシュの怒りが爆発した。いやルークを姫抱きにして運ぶローレライに嫉妬しているだけだろうか。
「超振動の発動を止めた我を誉めてはくれぬのか」
いじけるローレライをなだめるのはルークの役目である。
「ありがとうな」とローレライに笑いかけるから、それが面白くないアッシュの機嫌は下降の一途をたどる。
睨みつけるアッシュと、それさえも微笑ましいと思うローレライ。二人の間でただオロオロするだけのルーク。いつものトライアングルが形成された船室に入ってこられるような強者、あるいは暇人は残念ながらいなかったようである。
そうこうしている内にキャツベルト号はケセドニアに到着した。
船室でルークと二人きりという時間を満喫しようとしていたアッシュの目論みは、ローレライの登場により脆くも崩れ去ったのである。感謝の言葉の一つも述べて追い出せばよかったものを、半分はアッシュの自業自得だった。



ケセドニアの活気溢れる雰囲気に目を輝かせるルーク。
あっちへフラフラ。こっちへフラフラ。まるで縁日ではしゃぐ子供のようである。
「ったく、前を見てねぇからだ」
誰かにぶつかりよろけるルークの腕を支え、ぶつかった相手をアッシュは睨みつけた。
「悪ふざけがすぎるぞ、ノアール。こいつから盗ったものを返しやがれ」
「やだね~。そんなに怒りなさんな。ちょっとした挨拶じゃないの」
アッシュに指摘されて財布が掏り取られていたことに気付くルーク。
「またかよ。俺って情けねぇなぁ」
ルークが落ち込んだことでアッシュの怒り爆発した。元々沸点の低いアッシュだったが、ことルークに関しては日増しに低くなっていくような気がする。ケセドニアの街中で目立つ行動は控えるべきだと思うルークだったが、残念なことにアッシュを諌める方法を知らなかった。それに困るよりも嬉しいと感じているのだから、ルークも同じ穴の狢である。
騒ぎに気付いたオリジナルイオンの仲裁で渋々引き下がるアッシュとノアールに、ルークはほっと安堵の息を吐いた。
この七年間に何があったのだろうか? オリジナルイオンはアッシュの逆らえない人物ランキングの第三位にいた。ちなみに一位は無意識おねだり状態のルーク。二位は息子たちの心配するシュザンヌ。惜しくも入賞を逃したナタリアが第四位である。もっとも一位と二位の二人の場合は条件付での入賞だったので、通常状態では繰上げで一位がオリジナルイオン、二位がナタリアとなる。
ちなみにオリジナルイオンはノアールの逆らってはいけない人物第一位でもあった。次点のいない彼女にとってはただ一人の逆らえない人物と言ってもいいだろう。
ルークは尊敬の眼差しで二人を諌めるオリジナルイオンを見つめた。面白がったオリジナルイオンがルークにおねだりを意識的に利用する方法を伝授する日も近い。
オリジナルイオンとの再会を何よりも喜んだのはアリエッタである。
ここでオリジナルイオンや漆黒の翼の面々と合流することにしたアリエッタが離脱を申し出る。
「無理を言って国境を通させましたのに、残念ですわ」
アリエッタとの別れを惜しむナタリアだったが、理由が恋心であるというのであれば、乙女として協力しないわけにはいかないだろう。
オリジナルイオンたちとの情報交換が済んでも、バチカル行きの船の準備が調うまでにはまだ時間がかかりそうだった。準備に時間が掛かっているのはナタリアが王女様のお願いを発令したからである。
そこで、解析が必要な音譜盤(フォンディスク)もなくアスター家を訪問しなければならない理由はなかったのだが、今後のことを考えるとそろそろ顔見せぐらいはしておいた方がいいだろうということになり、アスターに面会を求めることになった。
ただ真面目にアスターと話をしているのはジェイドとイオンの二人だけである。残りの六人と一匹はソワソワと落ち着きがなかった。
かつて何度も足を運んでおり屋敷の様子など知っているはずなのに、お金持ちの家に興味津々なアニス。
音譜盤がないので使用する必要ないのに解析装置に興味津々のガイ。
時間が空いたと聞いて露天巡りに行きたがったルーク。
ルークといられるのであれば何でもいいのだが、ルークが街を散策したいと言うのならその望みを叶えたいと思うアッシュ。ルークに宥められたので―――さっそくオリジナルイオンに教わったことを実行してみたようである―――しばらくおとなしくしていたアッシュだったが、挨拶が済むとルークを伴ってケセドニアの街に繰り出した。人混みで逸れては大変と差し出した手を素直に握り返すルークにアッシュはニヤリと口角をあげる。ルークが言葉通りにしか受け取っていないと気付いていないアッシュはある意味幸せ者だった。
今度こそありじごくにんの正体を暴きたいナタリア。それからディンの店にも顔を出さなければ、と見てみたガールが実は一番急がしそうだった。王女に一人歩きをさせたとあっては問題になる。しかし並みの兵では王女の仮面を脱ぎ捨てた―――自治区と言うこともありたまには羽目を外したかったようである―――ナタリアに付いていくのは大変だった。なので護衛という建前でティアが同行していた。ナタリアの後を付いて歩くティアはルークから預かったミュウを胸に抱き、幸せそうである。
お蔭でアスター家に「出航の準備ができました」と知らせにきた白光騎士はケセドニア中を走り回る羽目に陥った。
ケセドニア港に停泊していたのはプリンセス・ナタリア号である。
「乗ってみたいとおっしゃっていましたでしょ」
ナタリアがプリンセス・ナタリア号で迎えに来るよう指示していたらしい。
これにはアニスが大喜びだった。
ティアも女の子が好きそうな内装に頬を赤らめている。
アッシュはルークと二人きりで快適な船旅を送ることができればいいだけなので船の名前に興味なかったが、プリンセス・ナタリア号の設備は快適な旅を望むアッシュを満足させるものだった。
ディストの襲撃などもちろんなかったので、二度目の船の旅は恙無く終了する。
バチカル港では報せを受けたシュザンヌが自らルークたちの到着を待っていた。久しぶりに再会した息子たちを抱きしめたい気持ちをグッと堪え、インゴベルトたちが城で待っていることを告げる。ファブレ家でゆっくりと寛がせてあげたいところであったが、王命であればしかたがないだろう。
バチカルの最上階に辿り着くまでの間にシュザンヌが語った不在の間の出来事は、誰もが耳を疑うようなものだった。

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