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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑥

セントビナーに到着した一行は、マクガヴァン親子に協力を要請した。

馬車を用意してもらったり、道中の警護を依頼したり、各地に向けて鳩を飛ばしたりと大忙しである。
ルークとナタリアもバチカル宛の手紙を伝書鳩に託した。マルクト領からキムラスカに飛ぶような鳩はいなかったので、最初の宛先はケセドニアである。セントビナーでの検閲はジェイドがいるので免れることもできるが、ケセドニアではそうはいかないだろう。キムラスカ領事館に届けられる前に中身を見られることは十分に予想できた。ジェイドが一筆添えたとしてもそれで確実に防げるという保証はなかったので、必然的に当たり障りのない内容になる。
無事を知らせると同時にマルクトの人間がいかに自分たちに親切であるかを訴え、マルクト帝国とはこれからもよい隣人でありたいと願いますと締めくくったナタリアの手紙は、はたしてキムラスカ王の心を動かすことが可能だろうか?
ルークはシュザンヌに宛てた手紙で、導師イオンと共にマルクト軍の護衛の下バチカルに帰るので、国境まで迎えに来て欲しいと伝えた。そんなこと今更手紙に書かずともシュザンヌも承知のことであったし、迎えは疾(と)うにバチカルを出立していることだろう。なのでこの手紙は、予定通り進んでいるので心配しないで欲しい、とそういう意味である。きっとルークの思いは正しくシュザンヌに伝わることだろう。
それが終わると、旅の準備はジェイドに押し付けて―――といってもジェイドもセントビナーの兵に指示を出しているだけだが―――他のメンバーは思い思いに寛いでいた。
ナタリアが薬屋開業のお手伝いをするために探索ポイントまで行くと言い出し、ガイとティアはそれに同行。一緒に行くつもりでいたルークはアッシュに誘われソイルの木の上でデート―――デートというのはアッシュの主観である。ルーク的にはどう思っているかは謎だ―――と洒落込んだ。アニスはイオンのために精の付く料理を作るのだとマクガヴァン家の台所を占拠した。何やら大作ができそうな予感である。イオンは同家の居間でマクガヴァン元帥と茶飲み話に花を咲かせていた。
「皆さ~ん。そろそろ出発しますよ」
もちろんジェイドが各地に散った仲間たちを自分で呼びに行くなんてことをするはずがなく、こういう時の実働部隊はもちろんガイ・セシル―――本名ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。極秘裏ではあるがマルクト皇帝から伯爵の地位を賜ったれっきとしたマルクト貴族の一人である。しかし同じマルクト国民であるジェイドを筆頭に誰一人としてその地位に相応しい扱いするものはいなかった――-だった。
ここからの旅は当然馬車である。身分を明かした以上イオン・ルーク・ナタリアを歩かせるわけにはいかないのだ。もちろんこの選択はイオンの体力を考慮した上でのことでもある。
馬車の内と外という極僅かな距離とはいえ、アッシュがルークから離れていられるはずがないので誰に言われるまでもなくアッシュも馬車に乗り込んだ。導師の護衛ではなかったのですか、なんて質問は言うだけ無駄だった。
「女性を歩かせるわけにはいかないからね」
ガイのフェミニスト発言によりティアとアニスも馬車だ。
そうなることは予想済みだったのだろう。あるいは最初から徒歩の旅などするつもりがなかったのか、ジェイドが用意させて馬車は二台あった。ジェイドとガイは御者台である。周りはセントビナーに駐在していたマルクト兵が固めていた。急ぐ旅なのでもちろん騎兵のみで編成された部隊である。
一台目の馬車にはイオン・アニス・ティアが乗り、御者台にはジェイドが座った。
二台目はルーク・アッシュ・ナタリア・ミュウ。ガイは御者台である。
馬車を三台用意させてルークと二人きりを望んだアッシュだったが、警備が大変になるからとジェイドに却下された。けっして嫌がらせではないだろう。大勢の方が楽しいとルークもこのままでいいと言うのだから、アッシュの思いが正しく伝わる日が来るのはまだまだ先になりそうだった。遠回しなことはせずに直球で勝負すれば話は違ったのだろうが、人生二回目でもアッシュのツンデレ体質はそう簡単に直りそうはなかった。
ちなみにアッシュは自分たちで一台、イオン・アニスで一台、ナタリア・ティア・ミュウで一台を希望していたようである。もしアッシュがこれを強行していたら、「馬車の中で何をするつもりなんだ」と心配したガイが全力で阻止しようするだろう。そして、再び鬼ごっこが始まるかもしれない。その光景を見たルークが羨ましがり、アッシュは更にむきになってガイの息の手を止めようとするという悪循環が繰り返されるだろう。これではタルタロス下船時の二の舞である。それを防ぐという意味でも、ジェイドのこの割り振りは急ぐ旅には一番相応しいものだった。



タルタロスを降りた神託の盾(オラクル)兵たちは一足先にダアトに帰還することになった。
食料等の備蓄にも限りがあり、いつ直るとも知れないタルタロスで待ち続けるわけにはいかなかったことと、リグレットとラルゴが教団を裏切り、導師によって破門されたことについて一刻も早くダアトに報告する必要があったからだ。
途中エンゲーブで物資の補給をしたり、先に出発した仲間やマルクト兵たちと合流したりしながら、彼らが先ず目指す先はマルクト帝国の首都グランコクマである。
マルクトを横断することについてはジェイドが持たせてくれた書状もあり、また途中でマルクト正規軍と合流したこともあり特に問題はなかった。
彼らは旅券を持っていなかったが、事情を認(したた)めたジェイドの手紙や、マルクト皇帝に宛てたイオンの書状は旅券の代わりを充分に果たしていた。そしてグランコクマに到着の後は事情を説明すればダアトへの船を出してくれるだろうとジェイドが請け負い、それはもちろんその通りとなったのだ。
神託の盾兵内でのジェイドの評価は鰻登りだった。死霊使い(ネクロマンサー)と恐れていたなんて嘘のようである。真相を知らないって平和でいいなぁ~とは誰の感想だろうか。
もちろん彼らの持っている書状にはリグレットとラルゴの裏切りや、彼らの部下はその二人に騙され導師奪還に加担しかけたが、真相に気付き最終的には二人の捕縛に協力したこと―――協力したことにしたらしい。実際は黙って見ていただけだが、ジェイドにしみれば余計なことをしないことこそ最大の協力だったということなのだろう―――なども書かれていた。
その他にも、ダアトに帰国後直ぐに軍事裁判を行うことができるように準備しておいて欲しいという参謀総長の依頼。
シンクとアリエッタを初めとする神託の盾兵たちの協力もあり大事に至ることがなかったことに対するマルクト側の感謝と、今回のことはダアトとは既に関係のない一個人の起こしたことであり、このことは両国の友好関係を脅かすものではないだろう、というマルクト帝国軍、第三師団団長ジェイド・カーティス大佐の私的見解も添えられていた。私的なものではあってもマルクト皇帝の懐刀の言葉は神託の盾兵たちの心を軽くするのに十分だったことだろう。
騙されていた神託の盾兵の減刑、できることなら不問にして欲しいとう嘆願書はイオン・シンク・アリエッタの連盟で出されていた。非公式であり、ダアトの内政に干渉するつもりはないと断った上でジェイドが一筆添えるという念の入れようである。
書状の内容を知った神託の盾兵たちはそろって「一生付いていきます」と心の中でこっそり誓ったらしい。
他国の軍人なんですけどわかっていますか? なんて突っ込みを入れるのは野暮というものである。彼らの中でジェイドという人物は命の恩人にも等しい存在なのだ。
タルタロス襲撃に関する報告を受けたダアトにいた詠師たち―――大詠師モースと神託の盾騎士団の主席総長ヴァンは不在だった―――は正式にリグレットとラルゴの師団長の身分剥奪を決定。軍法会議に出廷するためにダアトに出頭するよう命じたが、その命令を彼らに伝えるのは大変そうである。もっとも無事伝わったとしても彼らがその命に素直に応じるとは思えないのでいずれ指名手配ということになると予想するのは容易いことだった。
それと同時に今回の件が彼らの単独であるとは思えないことから、黒幕の調査も開始されたが、査察官がモースやヴァンにたどりつくまでにはもう少し時間が掛かりそうである。
心配していた一般兵の処遇についてだが、厳重注意程度でほぼ不問に処せられることになった。第一・第四師団の団員たちはそれぞれ第二・第五師団に振り分けられ、しばらくはその監視下に置かれることになったのだが、それも形だけの処置といって差し支えないだろう。
突然倍に増えた団員にディストとシンクが頭を悩ませるのは、また別の話である。
神託の盾兵たちの態度や、その後にダアトの出した結論はジェイドを概ね満足させるものだった。
「ちょろ甘ですね」
世界は預言に踊らされているのではなく、ジェイドの掌の上を転がっているようである。



現在、タルタロスに乗船している人間はシンクとリグレットとラルゴの三人のみである。
動かなければ、それはでっかい金属の箱でしかない。アリエッタが整備士を連れ帰るまでシンクにはやることがなかったのだ。
暇を持て余した彼は格子越しにリグレットとラルゴの二人と対峙していた。
「シンク、閣下に拾われた恩も忘れ、裏切るつもりか」
リグレットの金切り声が耳に痛い。
「ヴァンを裏切っているのはどっちだよ。来(きた)るべき時までは世界は預言通りであると見せかけておく必要がある、んじゃなかったのさ」
リグレットとラルゴをからかって遊ぼうと思い船底に下りてきたシンクだったが、アリエッタが戻ってくるまで一人でお茶でもしていた方が良かったかなぁ~と早くも後悔していた。まぁそれでも始めてしまった遊びを途中で止めるつもりは彼にはないのだが。
「何度も同じ事を言わせないで欲しいね。預言に詠まれていないことをやろうとしている人間が、預言に詠まれていないから戦争は起こらないなんて、それこそヴァンがやろうとしていることは実現不可能だって思っている証拠なんじゃないの? 裏切っているのはどっちさ。それとも預言に詠まれていないマルクトとの戦争を引き起こそうとしていたのかな? だったら邪魔をして悪かったね。でもそれってやっぱりヴァンの計画とは違うんじゃないの。あんたがヴァンを裏切っていただなんてね。これを知ったらヴァンはどう思うかな」
シンクの弾丸トークにリグレットは口を挟むことができなかった。自分はヴァンを裏切ったりしていないし、彼の計画が実現可能であると信じている。それはリグレットにとっての真実だった。しかし彼女は自分の取った行動が矛盾しているということに今の今まで気付いていなかったのだ。シンクの執り成しがなくダアトとマルクトの間で戦争が起きたとしたら、ヴァンの計画の障害になったのだろうか? それは確かめようがないことだった。己の失態をヴァンに知られることを恐れるリグレットは仮定の話を彼にすることなどできはしないだろう。
元々無口な性質(たち)であるラルゴは何かを考えるように黙り込んでいた。ヴァンへの思慕だけで彼の計画に加担したリグレットとラルゴは違う。シンクの言葉はラルゴにヴァンの計画に対する不信感を植え付けたようである。ヴァンに問い質してみるべきか? しかしそれをしたところでどうなるというのだ? 自分たちはもう歩き始めてしまったではないか。ラルゴに他に選べる道はなかった。たとえそこに矛盾を感じたとしても今更引き返すことなどできはしないだろう。
シンクは静かになった二人―――ラルゴは元々静かだったので、リグレットが黙ったことで静寂が訪れたのである―――をつまらなそうに眺めていた。彼らにヴァンとその計画に対する疑念を与えることはできただろう。しかしだからといって彼らがヴァンを見限るだろうなんて甘い期待はしていなかった。
信念ではなく恋心で追随しているだけの女と、自身で復讐することもできず他人(ヴァン)の復讐に便乗しているだけの男。結局彼らはヴァンの狂気に巻き込まれ、抜け出すこともできない憐れな人形にすぎない。かつての自分も似たようなものであったことにシンクの複雑な思いを抱いていた。それはシンクをそこから救い上げたのが自身のオリジナルであったことも多分に影響しているのだろう。
「シンク、ここにいたですか」
気まずいというか、微妙な空気を断ち切ったのはシンクを探して船底に下りてきたアリエッタだった。
「修理できる人、連れてきたです」
三人の緊迫した空気などまったく感じていないようで、あるいは感じているからなのだろうか、こんな場面であってもアリエッタの表情や声は常と変わらなかった。
そんな彼女の登場にシンクは張り詰めていた緊張の糸を解いた。
三人ともこの状況に終止符を打つ切欠を欲していたところだったので、アリエッタの登場は渡りに船である。シンクは修理状況の確認するためと理由をつけ船底を後にし、リグレットとラルゴはそれを黙って見送った。
さてシンクたちの姿が船底から消えると、早速リグレットとラルゴは脱走することにしたようである。武装解除はされていたが、譜術の使用は可能だったのだ。
「まだまだ詰めが甘いな」
拘束が中途半端であったことを侮るリグレットの声が無人の船底に響く。それさえも誰かが計算していたことであっただなんて微塵も疑っていないようである。
「逃げていただかなければ、面白くありませんからねぇ」
なんてことを密かに企んでいた人物がいたとかいないとか。意外と簡単に逃げ出せるような造りになっていた可能性あったとかなかったとか。そんなことがシンクにバレたら色々面倒なことになるだろうから彼にだけは絶対に秘密だ。もっとも企てた人物が想像通りの人物であればそう簡単に気付かれるようなミスはしていないだろう。(とりあえず、管理人はここで逃がしておかないと盛り上がらないよなぁ~とかは思っています/爆)
「何で二人分の封印術(アンチフォンスロット)ぐらい用意してなかったのさ」
シンクはルークたちと合流後にジェイドに文句を言ったが、取り合ってはもらえなかった。一つ作るのに国家予算の一割弱。二つ作る金があるならその金は別のことに使う。ジェイドであればそうするだろう。実際にマルクトの国家予算の何割かはジェイドを筆頭とする逆行組が今回の企みのために流用したようである。皇帝が自ら率先して行っているのだから、ジェイドが横領の罪に問われることはなかった。それでいいのかマルクト帝国。
ちなみにラルゴの所持していた封印術は没収済みであったが、後々有効利用させてもらうつもりのジェイドの懐の中である。そこから掏り取って使用できるような強者(つわもの)はいなかった。
リグレットとラルゴは昇降口(ハッチ)が開かなかったため甲板から飛び降りることにしたようだった。
操縦桿の修理を終えて船橋から出てきたシンクたちと鉢合わせしたのはどんな運命の悪戯だろうか? あるいは預言の呪いだろうか?
甲板にてシンク・アリエッタと対峙したリグレット・ラルゴ。体格差のありすぎる二組であるが、戦闘能力は拮抗していた。それ故、整備士を庇って戦っているシンクとアリエッタの方が不利だった。
「仕方がないね。脱出するよ」
アリエッタの魔物を使用し、整備士を連れてシンクとアリエッタはタルタロスを脱出。
奇しくもタルタロスをリグレットとラルゴに奪われるという前回と同様の結果となったのだが、シンクの口許には笑みが浮かんでいた。
「危ないと思ったら、タルタロスなんて捨ててしまいなさい」
思い出すのは青い軍服を着た他国の軍人の胡散臭そうな笑顔だ。その後ろには自分と同じ顔をした緑の髪の少年と、赤い髪の少年、鮮血の名を持つ同僚、守護役の少女、ヴァン(髭)の妹、キムラスカの王女、青色の聖獣。かつての敵は今、空っぽの自分を埋めてくれる大切な仲間だった。伯爵の肩書きを持つ使用人の姿をシンクが思い出さなかったのは仲間扱いしていなからではなく、タルタロスで彼らと別れた時ガイがそこにいなかったからである。忘れられていたわけではない、だろう。自身のオリジナルを思い出さないようにしているのはシンクの最後の意地に違いない。
遠ざかるシンクたちの姿を見つめながら敵艦を手に入れたことに満足気なリグレットは、実はこうなる可能性も考慮されていたなんてことは、欠片も思っていないことだろう。
「この艦(ふね)はおかしいぞ」
タルタロス内をざっと見回ってきたラルゴは、首を傾げながら船橋(ブリッジ)に戻ってきた。
艦内に人のいる気配はしなかったが、確実とはいえない。確認できない場所が多すぎたのである。通路と自分たちが最初にいた船底以外の場所は施錠されていたのだ。一般兵用の船室などは力尽くで扉を開けられないこともなかったが、すべての扉を開けるには時間も労力も足りなかったため、ラルゴは途中で諦めて戻ってきたのである。
逃げ遅れた人間がいたとしてもリグレットは構わなかった。
船橋に残された手書きの操縦マニュアルの存在さえも渡りに船で片付けたようである。
「私たちだけでも動かすことはできそうだな。調度いい。これを使わせてもらうとしよう」
進むことと曲がることと止まることしかできなかったが、人の足で移動するよりは格段に早い。余計な所を弄ると全機能が停止するとあったが、自分たちは戦闘をするために艦を動かしているわけではないので問題はない、と。
リグレットは焦っていた。
自分はまだヴァンの命令を一つとして果たせていないのだ。導師を奪い返し―――誘拐だと騒いでいたのはモースだけだったので、奪還という表現が正しいかどうかは疑問である―――近くのセフィロトのダアト式封咒を解呪してくること。それがヴァンから受けた密命だった。一刻も早く導師に追い付く必要があるのだ。せっかく奪った敵艦を利用しない理由などないではないか。
ヴァンに見限られること、それ以上に恐れることなどリグレットにはなかった。
「これは何だ」
リグレットが眺めていた紙を取り上げたラルゴがそれに目を通しながら尋ねる。
「死霊使いがシンクのために書いた物のようだ」
それは確かにその通りだったのだが、そんなものがここに残されていることを不思議には思わないのだろうか? いやリグレットは思わなかったのだ。かつては預言に、今はヴァンに自分の行動を委ねている女には物事の裏を読む能力が欠如していた。そして女のヒステリーには逆らわないことにしている―――それはとても正しい選択であるが、往々にして取り返しの付かない結果をもたらすものである―――男もそれは同様だった。



無事タルタロスを脱出したシンクとアリエッタと整備士の三人は上空から遠ざかるタルタロスを眺めていた。空を飛ぶ魔物に運ばれるのは人生で二回目という整備士は今にも卒倒しそうである。このまま魔物での移動は酷というものだろう。
アリエッタたちと別れたシンクはリグレットとラルゴに対しダアトが出した結論を確認するために一旦帰国することにした。もちろん騙された(ことになっている)二人の部下の処遇が心配だったということもある。彼らを無罪にすることができれば、神託の盾(オラクル)騎士団の一般兵を掌握できたといっても過言ではないのだ。それは今後の計画をスムーズに運ぶためにも必要なことだった。
一方地上を駆ける魔物に乗り換えた―――地上に降りたからといって整備士の恐怖心が薄れたかどうかはわからなかったが―――アリエッタは整備士を安全な場所に送り届けた後、ルークたち一行を追いかけフーブラス川の少し手前で合流した。
オドオドとタルタロスを奪われたことを報告するアリエッタに対するジェイドの態度はあっけらかんとしたものである。
「構いませんよ。艦の現在地はマルクト軍が追尾していますし、彼らに使用できるのは走行機能ぐらいですから」
「誰かに追跡させているのか?」
危ないのではないか、とルークは問う。それに対するジェイドの答えはルークには予想外のものだった。
一定時間ごとに第七音素を放出する仕掛けが施されているというのだ。この第七音素が激減した今の世界であれば少量の第七音素でも測定が可能だった。第七音素の放出はレプリカが乖離する現象を応用したものである。タルタロスには備品にカムフラージュした安定率の異なる第七音素のみで構成されたレプリカがいくつも配置してあった。それが順番に乖離して現在地を教えてくれるのである。第七音素を提供したのはティアの譜歌で召喚されたローレライだった。無機物であるとはいえレプリカの乖離現象を利用するような装置の制作をルークに頼むことはできなかったのだ。
タルタロスに組み込まれた追尾機能のことをルークがどこまで理解できたかは不明だったが、危険な任務についている人間がいないと知って安堵しているのはその表情から見て取れた。
「それよりも、よい所にきてくれました」
ジェイドはアリエッタが魔物を伴ってこの場に現れたことをとても喜んでいた。
馬車による移動にしたためここに辿り着くまでの時間を大幅に短縮することができたが、その所為でフーブラス川の水嵩はかつてルークたちが歩いて渡った時よりも随分と高かったのだ。橋も流されていたし、浅瀬を探して渡ることも難しそうだったのである。これが今回の計画で初めての誤算といえばそうなのかもしれない。もちろんそれは計画に支障を来たすようなものではなかったが。水が引くまで川岸でキャンプするしかないだろうか、そんなことを考えていたところへアリエッタが来たのである。それはまさしく渡りに船だった。
ここはアリエッタの魔物(お友だち)が活躍する場面である。
もともとセントビナーで借りた兵による護衛はカイツールの砦までで、国境を越えたあとはキムラスカ側に護衛してもらうつもりでいたのだ。少々早いが馬車と騎兵部隊にはセントビナー戻るように指示をする。
ルークは念願の魔物への騎乗が叶って嬉しそうだった。
川を渡った後は徒歩で国境の砦カイツールへ向かうだけである。
アリエッタとそのお友だちも護衛のため同行することになった。
「なんだかピクニックみたいですね」
「そうだな」
実年齢二歳と七歳、二度目であることを考慮して二倍したとしてもまだまだ子供に分類される二人の会話に、もう少し緊張感を持って欲しいなんて野暮を言うモノはいなかった。

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