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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編⑤

リグレットとラルゴと貧乏籤を引いた神託の盾兵がタルタロスに到着した時、そこは随分と静かなものだった。

先に到着したはずの神託の盾兵の姿はもちろん、魔物の姿もマルクト兵の姿もまったく見当たらないのである。ガランとした甲板に、唯一アリエッタがいつも従えている魔物だけがいた。その後ろにはピンクの髪が覗き見えているから、そこに自分たちを追い越して行ったアリエッタがいるのだろう。
軽率なのか豪胆なのか、敵艦に降り立ったリグレットが大声を上げる。
「これはどういうことだ。アリエッタ」
リグレットの叱責にアリエッタは泣きそうな顔で姿を現した。胸の前で抱きしめた人形が奇妙な形に歪んでいる。
「嘘吐き」
それはともすれば風に吹き飛ばされてしまいそうなほど小さな呟き。
幼き少女―――実年齢はともかく、アリエッタの見た目は人々が思わず同情したくなるには充分すぎるほどに幼い―――と一昔前なら『美少女』では、最初から勝敗は決まっているようなものである。
年増が新人の少女をいたぶっている、というのはリグレットを除くそこにいるすべての人間が抱いた感想だった。
「イオン様、誘拐されてなんていないです。トリトハイム様の言ってたこと本当でした。誤解しているのはモース様です」
アリエッタの発言にどよめく神託の盾兵たち。
統率の取れなくなりつつある部下たちに、リグレットは思わず舌打ちをした。これ以上余計なことを言うんじゃない、とアリエッタに向ける視線がきつくなる。
「何を言っているのだ」
「トリアハイム様言ってたです。『イオン様に直接確かめてみなさい』って。だからアリエッタ、イオン様に聞いてみたです。そしたら・・・」
ついに泣き出してしまったアリエッタ。
その場にいる神託の盾兵すべての同情票を勝ち取ったアリエッタと、部下たちから軽蔑と不信の目を向けられたリグレット。両者の明暗が決した瞬間といってもいいだろう。
タイミングを見計らったように魔物の影から、イオンとアニスとジェイドが出てくる。
「泣かないでください。アリエッタ。僕はわかっていますから」
目的の人物の思わぬ登場に、アリエッタの存在も今までのやり取りも忘れ、いきり立つリグレット。
場もわきまえず死霊使い(ネクロマンサー)ジェイドとの手合わせを望むラルゴ。
疑心暗鬼な神託の盾兵たち。
泣きじゃくるアリエッタと、それを慰めるイオンとアニス。一応アニスはトクナガを巨大化させて戦闘態勢ではあるが、見た目が見た目なだけにそれが武器だとわかっていても緊迫感はない。
イオンを背に庇ってはいるが丸腰のジェイド。
一方リグレットやラルゴを始めそれぞれの得物を手にしている自分たちは、無抵抗な人間に武器を向けているようにしか見えない。大変居た堪れない気分になっている神託の盾兵たちは多いことだろう。ジェイドたちが戦闘準備万端であることだとか、気配を殺して様子を窺っている人物がいることだとか、そういったことにまったく気付いていないのだから、最初から彼らに勝機はなかった。
物陰に隠れ登場の機会を窺うルーク・ティア・ナタリア。ついでにミュウ。
今はまだルークたちと共闘する様をラルゴとリグレットに見せるわけにはいかないと、ジェイドに不参加を言い渡されたアッシュはルークが心配でこっそり覗き見中である。
一触即発の緊張した空気の中、アリエッタの嗚咽がやけに大きく響いていた。
そう短くはない時間がただ過ぎ去っていく。
それは神託の盾兵たちが己の置かれている立場を考えるのに充分な時間だった。
「導師イオンがマルクト軍に誘拐されたから奪還して来い、って命令だったけど・・・・・・違うのか?」
「アリエッタ響手が言っていることが正しいとすると、マルクトによる導師の誘拐はモース様の誤解で、導師がここにいらっしゃることはトリトハイム様もご承知とのことだが・・・・・・」
一般兵の間にリグレットやラルゴの命令、つまりはモースの命令に素直に従っても大丈夫なのだろうか? という空気が流れ始める。
部下たちの雰囲気にリグレットは舌打ちを一つ。
彼らは当てにできそうにない。元々使える人材だとは思っていなかったのかあまり気にしてはいないようだが、痺れを切らしたリグレットは自ら導師奪還に乗り出した。
リグレットの銃が丸腰のジェイドに向けられる。ちょっとずれたら導師に当たるんじゃないだろうか、と心配するのはそれを見た一般兵たちに共通する思いだった。
ジェイドが槍を体内にコンタミネーションしていていつでも取り出せることだとか、実は凄腕の譜術士であることだとか、そういう情報を持ち合わせていない一般兵にしてみれば、無抵抗な人間に銃を向けたのだから、リグレットの評価は下がる一方だった。
「ちょっと、ちょっと、何やってんのさ」
空から降ってきたのはシンクだった。
それは引き金に添えられたリグレットの指に力が込められようとするまさにその瞬間。絶妙のタイミングだった。
「マルクトと戦争だなんて、僕はイヤだからね」
リグレットとジェイドの間でシンクは大仰に肩を竦めてみせた。
緊張の糸が切れてか、どこからともなく「ほう」と安堵の息が漏れる。
「そのようなことは預言(スコア)に詠まれていない」
「だから、だよ。ダアトとマルクトの間で戦争が起こるなんて預言はない、ってことは戦争が起こらないように努力するってのが、正しい信者ってもんなんじゃないの? 何やったって預言通りになるってんだったら、最初っから教団も教義も必要ないんだからさ。教団があり教義が存在するっていうのはそういうことだろ」
正式な手続きを経て導師に同行しているマルクト軍を誘拐犯扱いし、無抵抗の人間―――たぶんそれなりの地位のある軍人―――を射殺したなんてことになれば、今すぐ戦争は起きても不思議ではない。よしんば即開戦とはならなかったとしても、二国間のしこりの一つになるだろうことは一般兵でも容易に想像できた。
リグレット師団長は預言にないことは起こらないと言っているが果たして本当だろうか? シンク参謀総長の言うように預言に沿った生き方を教団が教義に掲げるという事は、努力しなければ預言は現実にならないということではないか、と。そしてここで自分たちがするべき努力がどのような行動であるか、敬虔な信者でもある神託の盾兵たちにはわかっていた。
未だ銃を掲げたままのリグレットに背を向け、シンクはジェイドたちの方へ向かい歩き出す。リグレットはいつ発砲してもおかしくない状態なのだが、ここで発砲したら神託の盾兵すべてを敵に回すという事が理解できたので思い止まっているのか、あるいはシンクの言葉を理解するのに時間が掛かり行動できないでいるだけなのか。
銃口に背を向けるなどという無謀とも思えるシンクの行動であったが、銃弾など発射されてからでも避ける自信があるので彼の歩みに躊躇いはなかった。
そして撃ちたくとも撃てないというジレンマに奥歯を噛み締めるリグレットは、部下の信頼が既に費えていることに気付いていなかった。
「で、僕としてはこの場をどうにかして穏便に納めたいんだよね。何かいい方法はを考えてくれないかな? そういうの得意でしょ」
貴方も神託の盾(オラクル)の参謀でしょう、というジェイドの思いは置いておいて。
「イオン様」と背後に目配せすれば、導師イオンは「そうですね」と少しだけ考えるふりをする。
「導師の権限で破門にしましょう」
導師の言葉をどれだけの人間が瞬時に理解できただろうか。少なくとも破門を言い渡された二人は己のことであるとは理解できていないようである。
「ふむ」と小さく頷いたジェイドは場にそぐわない明るい声で敵である神託の盾兵たちに話しかけた。
「みなさ~ん。このお二人をご存知ですか?」
ジェイドの突然の発言に虚をつかれる神託の盾兵たち。それはリグレットもラルゴも同様だった。
しかし一般兵の中にも察しのいい者はいるものである。
「教団の裏切り者」とか「脱走兵」とかそんな声があちらこちらで囁かれる。
つまりリグレットとラルゴは教団を裏切り、導師に仇なす者。自分たちは彼らに騙されていただけで、導師やマルクトに敵対するつもりはないのだ、と。
できの悪い生徒を誉めるように、ニッコリと笑い手を叩くジェイド。ジェイドの本性を知らないのだからその笑みの意味に気付ける神託の盾兵などいはしないだろう。それよりも自分たちの活路を見出してくれた恩人扱いである。
「はいは~い。では皆さん。導師襲撃犯の逮捕に協力してくださいね~。と言いたいところですが、危ないですから離れていてください」
一般兵を退避させ、リグレット捕獲に乗り出すジェイド。
「教官が教団を裏切っていただなんて」
ティア参戦。ナタリアは相変わらず「微力ながらお手伝いいたしますわ」と言いつつラルゴを攻撃しているのは何故だろう。ティアの加勢であるならば攻撃相手はリグレットだろうと思いはしても突っ込める強者はいなかった。
この時点でリグレットを切り捨てればラルゴにも活路はあった―――導師は誰を破門にしたか明言していないので、自分もリグレットに騙された被害者だと言えばそれを否定することは難しい―――のだが、リグレットを同志と認識しているラルゴにはそれはできなかった。もちろんジェイドと戦ってみたいという思いもある。こんな時に自分の趣味を優先させるのだから、ただの戦闘馬鹿だと思われても仕方がないだろう。
ルークとイオンは相変わらずオロオロしていた。
この二人は台本を読んだのか、とは物陰で見物中のアッシュの抱いた感想だった。
アニスとアリエッタはイオンとルークの護衛をしつつ、やはり見学中の一般兵が巻き込まれないように周囲に対する警戒を怠らなかった。
ルークは自分も参戦するつもりだった。それができなくても、一般兵を守るぐらいのことはするつもりだった。しかし「ルークが参加するとアッシュがしゃしゃり出てきてしまいますので、しっかり見張っていてくださいね」とジェイドに言われていたアニスが、戦闘開始と同時にトクナガでルークを捕獲したため、彼は今回も見学組に回されてしまったのである。
「何、高みの見物を気取っているのですか。貴方は手伝ってくださいね。参謀総長殿」
「仕方ないなぁ~」
シンク参戦。
ルーク・アッシュ・イオン・神託の盾騎士団の一般兵たちが見守る中、ティア・シンク対リグレット、ジェイド・ナタリア対ラルゴの戦いが始まる。
アニスとアリエッタとミュウはいつでも参戦できる状態で待機していた。
数十秒後、勝敗は呆気なく決した。
死ぬまで鍛錬を怠らなかった人間が若い肉体を得たのである。はっきり言ってその戦闘能力は反則と言われても仕方がないものだろう。シンクは己が闘う必要なんてなかったのではないかと思ったが、ティアが詠唱を終えるまでのリグレットの足止め役として駆り出されたのだろうと気付いていたので文句は言わなかった。棒術でも倒せたということは言わぬが花というものだろう。
封印術(アンチフォンスロット)を使う隙をラルゴに与えず、二人を捕らえることに成功したジェイドたちは、リグレットとラルゴをタルタロスの牢に収容。
リグレットとラルゴはダアトに護送後軍事裁判に掛けるので今回のことは胸の内に収めてほしい、というシンクの申し出をジェイドは快く承諾し、罪人の護送にも協力することを申し出た。タルタロスは現在イオンとルークをバチカルに送り届ける任務の真っ最中なので、先にキムラスカとの国境へ向かわなければならなかったが、タルタロスをキムラスカ領内で走らせるわけにもいかないので、国境で下船後艦の指揮権をシンクに預けるということで話がまとまったのである。この遣り取りがすべて事前に決まっていたことで、今ここで決定したように見えるのは目撃者に選ばれた神託の盾兵たちに対するパフォーマンスでしかない。
しかし困ったことに戦闘中にリグレットが発砲した弾が操縦桿に当たりタルタロスは走行不能であることが直後に判明。修理はそれほど大変ではないのだが、修理できる人間は第一陣と共に避難してしまっていたのだ。
「困りましたねぇ~」
台本にはない出来事。困った時は困った顔をして欲しいというのがジェイド以外の共通の思いである。
「アリエッタ、迎えにいってくるです」
アリエッタが整備士を連れてきてくれると言うので、当初の予定より早かったがタルタロスをシンクに預け、ルークたちは徒歩でバチカルへ向かうことになった。もちろん全行程徒歩で移動するなんて馬鹿な真似をするつもりはなく、セントビナーで馬車を用意するまでの徒歩の旅である。
「イオン様を歩かせるんですか?」
アニスは導師守護役として立派に成長していた。
ルークとナタリアを歩かせることにはアッシュも不満そうである。
「お友たちに乗っていくといいです」
アリエッタの提案に目を輝かせるルークとイオン。ナタリアも心なしかワクワクしていないだろうか?
徒歩の方がまだマシだ、とアッシュとアニスは思う。
結局、アリエッタという通訳がいない状態では不測の事態に対応できないだろうということで、魔物に騎乗することは却下となった。
「通訳なら僕がいるですの~」
ミュウの提案は華麗に黙殺された。
「まあまあ、イオン様には貴方のトクナガに乗っていただきましょう。ルークもご一緒にどうですか?」
タルタロス甲板上での苦い経験からか、謹んで辞退するルークだった。



ところで、そのころガイはどうしていたかというと。
タルタロスを無事発見することができたガイは艦が停止するまで並走していたようである。たぶん馬などを使って追いかけてきたのだろう。減速中であったとはいえ人間の足でタルタロスに並走は不可能だと思うのだが、パーティー内最速を誇るガイならありえるかもしれないとルークだけが考えていた。
タルタロスが完全に停止し、マルクト兵たちが出てきた時に昇降口(ハッチ)から乗り込むことができたのならよかったのだが、ガイがジェイドたちと知り合いであるということを知らない兵たちが、部外者がタルタロスに入ろうとするのを黙ってみているはずがない。力尽くで押し入ることもできず、ガイは死角になる場所から甲板によじ登るしかなかった。それに思っていた以上に時間がかかってしまったのだろう。ガイが甲板にたどり着いた時、そこは静かなものだった。
甲板でのゴタゴタが一段落し、艦内ではリグレットとラルゴを牢に閉じ込めたり、こちらに協力的になった神託の盾騎士団の一般兵たちに事情を説明したりしていたのだが、ガイは知る由もなかったので、甲板の片隅で自分の見せ場の訪れを今か今かと待ち侘びていた。
今ごろルークたちは牢の中だろうか?
登場のタイミングはリグレットがイオンを連れて戻ってきた時がいいだろうか、ルークたちが非常昇降口(ハッチ)をから出てきたところがいいだろうか、それともピンチに陥った時に颯爽と登場するのがいいだろうか。
かつてと同様に華麗―――と思っているのは本人のみである―――に参上し、「ガイ! よく来てくれたな!」と満面の笑顔で抱きついてくるルークを想像し、一人悦に入っていたのだ。
ガイは色々なことを失念していたようである。
彼の幸せな夢はすべての昇降口が開いた瞬間に終演を迎えた。
昇降口から出てくるのは神託の盾兵ばかりである。
彼らは一縷の隙もなく整列し何かを待っているようであった。
ここで漸くガイは物語が自分の記憶とは違う道筋を歩んでいたことを思い出すのである。
六神将の三分の二が味方だったなだとか、リグレットとラルゴに今のルークたちが捕まるはずがないよなだとか、イオンの身体の負担になるようなことをさせるはずがないよなだとか。
最後に昇降口から出てきたのはガイが待ち侘びた人物だったが、若干名余計な人間も一緒だった。
「ダアトまでの道中、お気をつけください。ローレライとユリアの加護がありますように」
「はっ」
イオンの言葉に頭を下げた兵たちは、隊列を崩すことなく北西へと向かって歩きだした。
登場のタイミングを失ったガイはどんな顔で出て行けばいいのだろうと頭を悩ませるが、いつまでもこうしていては置いて行かれかねなかったので、かつてと同じように甲板から飛び降りた。
空中で一回転。着地も完璧である。
「みんな。無事だったか」
ジェイドは額に手を当ててあらぬ方向を向く。
ティアは大きな溜息を一つ。
アニスは「何してんの? ガイ」と呆れ顔だ。
ナタリアは「お見事ですわ」と手を叩いて喜んでいる。
イオンはガイが甲板から飛び降りてきたことにはまったく触れず「お久しぶりです」と嬉しそうに挨拶した。
ルークが「ごめん」と謝ったのは、そういえばガイの見せ場だったな、と申し訳なく思ったからなのだが、ルークが謝ったことでアッシュが切れた。
「貴様、よくも」
抜刀し追いかけられる理由が思い当たらないガイ。突然始まった鬼ごっこを羨ましそうに眺めるルーク。
ジェイドは溜息を一つ吐いて無視することにしたようである。
「楽しそうですし、置いていきましょうか」
歩き出した一行を慌てて追いかけるアッシュとガイ。
せめて馬を逃がしていなければ、ガイの評価はもう少し上がっていたかもしれないが、それももう後の祭だった。もしかしたら最初から馬などなかったかもしれないが、とにかく身一つで合流した―――それもすべてが終わってからである―――ガイに周囲の反応は冷たかった。
「使えねぇなぁ」
「使えない人ですねぇ~」
アッシュとジェイドの意見が珍しく一致した瞬間である。

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