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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編④

ルークたちを乗せた馬車がエンゲーブに到着したのは、アッシュたちが戻ってくる数刻前のことだった。

感動の再会をイオンとアニスに先越されてしまい、悔しがるアッシュ。その上再会の抱擁を交わそうと駆け出しても、それさえミュウに先越されてしまったのである。
「ご主人様ですの~」
アッシュの足元にいたミュウはミュウアタック並み勢いでルークの胸に飛び込んでいったので、人間の足ではそれに敵うはずがなかった。
ルークも久しぶりの再会に嬉しそうにミュウの頭を撫でている。ルークが嬉しそうなのでしばらくは我慢していたアッシュだったが、まぁ数分とはいえ我慢できただけ上出来というべきだろうか。ティアの一撃で地面とお友たちになる運命が待ち受けているとも知らずに、ミュウの耳を掴んで後ろに放り投げたのだった。ティアとナタリアにボコられた理由がミュウのことだけではないということをアッシュが知らないままでいられたことは、幸だったのか不幸だったのか。
アッシュが戦闘不能に陥ってオロオロするのはルークだけである。
「とりあえずレイズデッドか?(でも、治癒術が使えることは隠しておけってアッシュが言ってたし)」
ライフボトルという選択肢を思いつかないあたりがルークらしいと言えば、らしいと言うべきだろうか。
実はナタリアがこっそりリヴァイブを唱えた後のティアとナタリアの奥義だったのだが、ルークはそのことに気付いていないので、地面と仲良くしているアッシュを心配してその傍らにしゃがみ込んで動こうとしなかった。ルークの意識が自分にだけ向けられている状況が嬉しいのでアッシュは戦闘不能のふりをしているのである。
「いつまで寝たふりをしているおつもりですの? そんなに地面がお好きなのでしたら、今度はアストラル・レインをお見舞いして差し上げましてよ。アッシュ」
それ秘奥義だから。もうリヴァイブの効果切れているから。
さすがにアッシュもこれ以上戦闘不能のふりをしているのはヤバいと思ったらしい。
一方アッシュを地面に沈めて満足したティアは、馭者との交渉を再開した。もっとも主に交渉をしているのはアニスである。
ジェイドにペンダントを買い戻してもらおうとしていたのだが、チーグルの森に行っていて不在。仕方がないのでイオン―――財布の紐はアニスががっちり握っていた―――に金を借りようとしたら、アニスが勝手に値段交渉を始めてしまったのだ。言い値で買い取るなんてアニス的にはあってはならないことである。馭者が「話がちがうじゃないか」と交渉には応じず別の買い手を探そうかと考えたところで、ティアから事情を聞いたジェイドが口を挟んだ。
「なるほど、そういうことでしたか。それで、私はそのペンダントをいくらで買い取ればいいのですか?」
眼鏡の奥で赤い瞳がキラリと光る。
馭者はアニスが提示した値段でペンダントを手放すことを快く承諾した。
ジェイドの笑顔に何かを感じ取ったようである。ルークは心配していたが、彼は意外と長生きできる性質(たち)なのかもしれない。



エンゲーブ村でローズの手作りシチューに舌鼓を打ちながらの作戦会議は、三国のトップクラスが終結しているとは思えないようなほのぼのとしたものだった。その光景を目にしたエンゲーブの人々は我が目を疑ったが、誰に言われるでもなく沈黙を誓ったようである。一応ジェイドがエンゲーブの人々に対して緘口令を発令したのだが、必要なかったのかもしれない。
導師が行方不明という情報を耳にしているものはいなかったが、アニスはモースから導師の行動について逐一報告するよう命じられていたので、ダアトを発つ前に『イオン様に誘っていただいたので、ちょーっと一緒にお出掛けしてきま~す。信頼できる軍人さんが付いていますので、心配しないでくださいね。目的地に着いたらまた連絡します。お土産楽しみにしていてくださいvv』などという、これは報告書と呼んでいいのか頭を抱えたくなるような手紙をなるべく遅く届くルートでバチカルに送ったので、そろそろイオンが外出したことをモースが知っていてもおかしくはないころだった。
アニスの名誉のために彼女はまともな報告書も書けるようになったということを明記しておこう。このふざけた報告書はモースに対する嫌がらせが半分、頭の弱い小娘だと思わせて油断させるためが半分である。アニスの演技の賜物かそれともモースが浅はかなだけか、彼女が二重スパイであるとは欠片も疑われてはいないようである。
ルークたちがバチカルを発つ直前のヴァンにイオンのダアト不在を知っている様子は見られなかった。
モースの方はどうだっただろう、とナタリアに視線で問うが、ナタリアは大きく頭を振った。
「城に来た直後からモースはお父様と執務室に篭りっきりでしたわ」
王女である自分と対面した時の挨拶もお座なりであった、とナタリアは憤慨した。
モースはナタリアが王家の血を引かないと知っているからそういう態度なのだろう。しかし預言によって王女となったナタリアに王女に対する敬意を払わないということは、預言を蔑ろにしていることと同意であるとは思わないのだろうか? 何よりも預言通りであることを求める男の矛盾した行動。それこそが預言がいかに脆いものであるかの証明であるように思えてならなかった。
モースがイオンの不在を知れば、キムラスカ国王とのユリアの預言に関わる大事な相談事の最中であったとしても、優先順位は入れ替わるだろう。そしてモースからヴァンに、ヴァンから六神将に導師探索の命が下されるはずである。あるいはヴァンを通さずモースが神託の盾(オラクル)騎士団に直接命令をするか。
もっとも現在六神将の一人である鮮血のアッシュは導師と共にあり、特務師団員はそのことを知っていたので、モースあるいはヴァンから命があったとしても、命令の真偽を確かめることに優先しモースの指示する場所を不用意に襲撃したりはしないだろう。特務師団員に師団長の言葉よりモースの命を優先させる者などいないとアッシュには確信を持って言えた。
妖獣のアリエッタ、疾風のシンク、死神ディストとその配下についても同様である。
ヴァンの命令に無条件に、あるいは多少の疑いを持っていたとしても従うのは魔弾のリグレットと黒獅子ラルゴの二人とその配下のみと考えてよい。しかしその二人こそが問題だった。
「全然違う場所を報告しちゃいましょうよ」
アニスの提案にジェイドが異を唱える。
「そろそろ彼らにも自分たちが誰を相手にしようとしているか、教えてあげてもよい頃合です」
何を企んでいるのだろうか。
どうせ碌でもないことを考えているに違いない。
賢明にも誰も声に出すことはなかったが、それはルークとイオンを除く全員の共通する認識だった。



タルタロスはかつてと変わらぬルートでカイツールを目指していた。
エンゲーブでルークと出会わなかったとしたら、六神将の襲撃に遭い艦を失うことがなかったとしたら、ジェイドはタルタロスでバチカルに乗り込んだのだろうか。そんな真似をすれば和平の成立の支障になるは思わなかったのだろうか。
知識も常識も足りなかった当時のルークは気付かなかったが、今の彼は違う。そして知らないことを聞くのが恥ずかしい、などという下手なプライドが邪魔をすることもなくなっていたので、わからないことは素直に聞く、仲間たちになら聞いてもいいのだと思えるようになっていた。
「いや~お恥ずかしい限りです」
それは導師の安全を考慮しての選択であったのだが、戦艦で敵国に乗り込むということが和平の使者としての配慮に欠けていたことはジェイドも認めざるを得ないことだった。なので、かつての残りの人生―――ジェイドは残りの生を主に研究者として過ごしてはいたが、世界を救った英雄の友であり、各国の上層部とも顔見知り以上となっていたため外交の仕事にも携わっていた―――と今回のやり直してからの七年間で磨いた外交官としての常識は、タルタロスでの移動はカイツールの砦までが無難だろうとの結論を出す。そこから先は馬車―――キムラスカ側に用意してもらえれば良いが、無理でも民間の物を使うべきだろう―――を仕立てて、とも。もっともこちらの予想通り襲撃があれば、タルタロスでカイツールの砦まで行くことはできない。早々にタルタロスを降りることになるだろうこともジェイドにとっては想定の範囲内のことだった。
そして予想通りと言うべきか、襲撃者はかつてと同じく空から現れたのである。
注意すべきはリグレットとラルゴ、そしてその配下の神託の盾(オラルクル)兵のみだった。こちらの被害を最小限に抑えることと、アッシュの真意をヴァンに悟られないようにすること、それがこの襲撃で気をつけなければならないことである。
「前方二十キロ地点上空にグリフィンの集団です。近づいてきます」
客室に響く艦長の声に焦りはなかった。
「ふむ、予定通りですね。―――タルタロスを停止させた後、総員はすみやかに退避してください」
続いて響くジェイドの声も落ち着いたものだった。
「行くぞ」
久しぶりの二人きりという時間を満喫していたアッシュとルークは、名残惜しそうに距離を取ると、素早く身支度を整え始める。
アッシュはマントのフードで髪を隠すと、素顔を隠すための仮面を付けた。
それを残念そうに見つめるのは、真剣を背中に括り付けようと悪戦苦闘中のルークである。
「護身用として以外では使うな」と言ったところで無駄なのだろう。
先に自分の支度を終えたアッシュは、この剣がルーク自身を傷付けることがないよう祈りながらそれを手伝ってやる。だから知ってしまった。ルークの身体がわずかに震えていることに。
突然手が止まったアッシュに、自分が震えていることに気付かれたことにルークも気付いたようだった。
「大丈夫だから」
久しぶりの人間を相手にする実戦に対する緊張と恐怖。それでも気丈に笑ってみせる半身が誇らしくて、アッシュは思わずその背を抱きしめていた。
その暖かく力強い腕にルークは緊張の糸を解く。
どちらも離れ難く、第一陣到着の放送が艦内に流れるまで二人はその姿勢のままであった。



タルタロスの甲板に降り立ったアリエッタは開口一番「ごめんなさい」と頭を下げた。
リグレットとラルゴを止められなかったことに対する謝罪だった。
シンクも言葉尽くしてくれたのだが、二人は止まらなかったのだ、と。
ちなみにディストは現在行方不明らしい。
「おやおや、一人だけ楽をするつもりでしょうか? これは躾け直す必要があるようですね」
ディストの運命やいかに? 暗雲が立ち込めていることはまず間違いないだろう。



ここで各師団の動向を確認しておこう。
第一師団は師団長ラルゴの命を受け、導師イオン奪還のために出陣した。移動用の魔物はアリエッタと第三師団員たちの制止を振り切っての無断借用である。
第二師団は行方不明の師団長ディストを探索中である。それがディストの狙いだったわけではないとは思うのだが・・・・・・真相を知るのはディストだけだった。
第三師団の団員たちの通常任務は魔物を軍事用に訓練したり魔物の世話をしたりすることなので、実戦へ参加することはない。そのためその戦闘能力も他の師団に比べると著しく低いものだった。それが災いし今回は厩舎に強引に押し入った第一と第四師団の団員たちに魔物を強奪されてしまったのである。これを機に彼らが戦闘訓練に積極的に参加するようになったというのはまた別の話だった。アリエッタは手塩にかけた魔物たちを取り戻すために単独で第一・第四師団を追いかけていった。
第四師団は師団長リグレットの命を受け、第一師団と共に導師イオン奪還のために出陣。
第五師団はダアトを空にするわけにはいかないと、シンクがリグレットとラルゴを言い包めて警護のためにダアトに残した。団員たちに一通りの指示をした後、アリエッタに借りた魔物を使いシンクもまたリグレットとラルゴを追った。ダアトに残るよりもタルタロスの方が楽しそうだから、というのはどこまで彼の本音だったのだろう。
第六師団はヴァンに嫌われて以来辺境警備に従事していた。今回のことも師団長であるカンタビレの耳には届いていないと思われる。
特務師団はダアトを立つ前に導師イオンとアッシュから事情を聞かされており、モースやヴァンが何か誤解しているとラルゴやリグレットに訴えたのだが取り合ってもらえず、とりあえず現状をアッシュに報告するために導師奪還部隊に加わったのだった。



そうなることは予想済みであったとはいえ、皆の心中は複雑だった。特にアッシュ、ティア、ナタリアの三人は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「さあさあ皆さん。パーティーの始まりですよ。忠告を無視したらどういう事になるか教えてあげましょう」
「そうですよ。ちょ~と、痛い目に遭えば考え直すかもしれないじゃないですか」
ジェイドとアニスが楽しそうなのは、ディストとアリエッタが改心(?)済みだからだろうか。
第一・第四師団に追いついたアリエッタは、魔物たちにダアトに戻るように命じた。乗り手の命令とアリエッタの命令の違いに混乱する魔物たちの統率は乱れ、失速していく。特によく訓練された魔物ほどそれは顕著だった。そのためラルゴとリグレットが乗る魔物は他団員たちから見る見る引き離されていった。それでも振り落とされないのは流石と言うべきか。
タルタロスに到着した第一陣は一般兵のみだった。彼らはタルタロス到着と同時に自分を運んできたグリフィンたちにより昏倒され―――乗り手がいなくなった魔物たちはアリエッタの命令に従順だった―――ジェイドが退避を命じておいたマルクト一般兵に護送されタルタロスを下船させられた。一部の事情を知る神託の盾(オラクル)兵―――特務師団員たちは自主的に撤退している。その時たまたま隣にいた他の師団に所属する同僚を強制的に連れて降りる者もいた。
現在上空に待機しているのは、リグレットとラルゴ、それから第一陣から漏れた憐れな神託の盾兵数十名だけだった。
「彼らには目撃者になっていただきましょう」
ジェイドが何を企んでいるのか、薄ら寒いものを感じて一歩引くのはアッシュ・ティア・ナタリア・アニスの四人である。無事アリエッタと再会できたことを無邪気に喜ぶルークとイオン、それからミュウはジェイドの表情の変化に気付くことはなかった。ある意味幸せなお子さまたちである。

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