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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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『知らぬは~』現在編③

風に揺れる白い花。

初めに意識を取り戻したのはティアだった。二度目となれば慣れたものである。
辺りを見回し、花の中に埋もれる赤毛と金髪を見つける。
「二人とも無事のようね」
見たところ外傷がないことに、ティアはほうっと安堵の息を吐いた。
その穏やかな寝顔に起こすのがかわいそうになる。
一晩ぐらい今の自分なら見張りをするのに問題はないのだけれど。
起きた時に盛大に文句を言われるか、拗ねられるか。
さて、どうしたものかしら。
思案顔で視線はルークとナタリアを行ったり来たり。
そうして目覚めるのは小さな小さな悪戯心。それはいったい誰に対するものなのか。
眠れる王子には目覚めの口付け(キス)を。
「何をなさろうとしていますの?」
いつのまに目が覚めたのか、ルークに向かって屈み込むティアの背後ではナタリアが仁王立ちしていた。
「だって、ナタリア。こういう場面ではキスって相場が決まっているでしょ」
ティアの言葉にナタリアは昔憧れた絵本の一節を思い出す。
物語の中で永久(とわ)の眠りについていたのは美しい姫であったのだけれど。
「ずるいですわ。わたくしを除け者にするというのでしたらアッシュに言い付けますわよ。それよりもジェイドの方がよろしいかしら」
たぶん効果があったのは後者である。
「ナタリアは右、私は左でどうかしら」
「名案ですわ」
果たして少女たちの企みは。
「・・・・・・つ、痛ぇ~。突然なんだよ、アッシュ」
頭に響いた痛みにルークが目を覚ましたことで空振りに終わる。
―――危ないところだったな。
「危ない、って何が・・・・・・って、おい、アッシュ。答えろよ」
ルークの問い掛けにアッシュが応えることはなかった。少女たちの追求が面倒で逃げたのだろう。
「まぁ、邪魔をしたのはアッシュでしたのね」
再会が楽しみですわ。
綺麗に笑った王女の顔を見ないですんだことは、アッシュにとって幸だったのか不幸だったのか。
もちろんティアに否があるはずはなくて。
唯一の味方であるはずのルークは、アッシュの身に迫る危機に気付いていなかった。
ちなみにルークの危機―――それを危機だと認識しているのはアッシュだけだ―――を教えたのはローレライである。
今回の計画開始以降、アッシュとルークの回線は繋ぎっ放しだった。正しくはアッシュが一方的にルーク側の状況を盗み見、盗み聞きをしていたというべきだろうか。堂々と任務放棄していることにジェイドはあからさまに嫌味を言ったが、「てめぇがいる艦(ふね)で万が一など起こるはずがないからな」などと本心なのか方便なのかわからない台詞で煙に巻いたようである。
「ツンデレが開き直ると、手に負えませんねぇ~」
開き直ったツンデレにジェイドは呆れ顔で、それでも「イオン様の警護は任せてくれてかまいませんよ」などと返していたが、どうせアッシュの耳には届いていないだろう。
ルークと五感を共有しているということは、彼のすべてを知ることができるということであったが、それは同時に本人の意識がない場合には何一つ知ることができないということで、アッシュは超振動の発動と同時に閉ざされた目と耳の代わりをローレライに求めたのだ。
ローレライの実況中継のおかげで危機一髪―――繰り返すが危機だと思っているのはアッシュだけである―――間に合ったのであるが、それは同時にアッシュ自身に死亡フラグが立った瞬間でもあった。現在のルークは既にレイズデッドを習得していたし、タルタロスにはライフボトルも常備されているので、戦闘不能はそれ程深刻な問題ではないのだが、それでもナタリアとティアのコンボの前に地面に沈んだアッシュは「何故教えなかったのだ」とローレライに捲くし立てた。
確かにローレライがもう少し気を利かせていてくれれば状況は変わっていたかもしれない。しかし現実では実況中継はルークが意識を取り戻した時点で終了していたので、アッシュにその後のナタリアの台詞を知る術はなかったのだ。
恐る恐る再会する必要がないということは待つ間は平穏に過ごせたということであったのだが、それは出会い頭に秘奥義をくらう危機に備えることができなかったということでもあり、ナタリアが予めリヴァイブを唱えてくれたことに感謝すべきかどうか非常に微妙な判断が要求される場面の訪れは、そう遠くない未来の話である。



「知っていたとして回避する術があったとは到底思えぬのだが」
アッシュの苦情に対してローレライの放った一言は、彼を再び戦闘不能に追い込む威力があった。
精神的なダメージに対してはレイズレッドもライフボトルも無力である。



初めての超振動に興奮気味なナタリア。
無事タタル渓谷にやって来られたことに安堵の息を吐くルーク。
渓谷の美しさに目を奪われていても周囲に対する警戒を忘れないティア―――立派な軍人になったものである。
ルークにとっては初めての外。そして彼女たちにとっては帰らぬ人を待ち続けた場所。
夜のタタル渓谷は三人にとって特別な場所だった。
月明かりに青白く光るセレニアの花。それはかつてとなんら変わらない風景であるはずなのに、抱く思いのなんと違うことか。
夜の渓谷を堪能していた三人であったが、いつまでもそうしているわけにはいかない。タルタロス組と合流するためにもあまりのんびりしているわけには行かなかった。
「夜道は危ないのではなくて」
などと言いつつも、実力的に全然不安がっていない三人は渓谷を出ることにしたのだが、その前に隊列決めで一揉めすることになった。
ルークは当然自分が前衛に立つつもりだったのだが、ティアがそれを止めたのである。
王族を前衛にするなんてとんでもない、などという軍事としての常識による配慮ではない。もちろんそういった常識は理解できているが、黙っていれば問題ないという強(したた)かさも同時に持ち合わせていたので、これは純粋に効率の問題だった。
ティアの武器はハヌマンシャフトである。あっさりとした見かけに反し物理攻撃力は高い。譜術攻撃力が低いのが難点だったが、第七音素枯渇状態にある今のオールドラントでは物功を優先させた方がいいと判断した上での選択だった。カジノで荒稼ぎしたのは誰だったのだろう。よくよく注意してみると、皆それぞれ最強に近い武器を所持しているのだから、いつの間に、とルークは思う。自分だけ木刀なのが恨めしい。それでも、木刀で前衛は心許ないと言われてしまえば返す言葉もないルークだった。
「俺もジェイドにコンタミネーションを教えてもらっときゃよかったな」
ルークがかつて宝珠をコンタミネーションできたのは偶然だった。そして第七音素のみで構成されているルークには、他の音素を含む物の体内収納不可能であるため、覚えたところで利用価値は少ないだろう。第七音素のみでできているローレライの剣や鍵であればコンタミネーション収納が可能であるかもしれないが、鍵はまだ地核を漂っている時期であるためこの地上に第七音素のみでできている武器はなかった。地上のローレライに強請れば嬉々として用意してくれるだろう。しかしルークは思いつきもしなかったようである。そういう意味ではルークはローレライの使い方が一番下手だと言えるのかもしれなかった。
「わたくしもティアも治癒術を使えますけど、使用する度にルークから第七音素を頂くのは面倒ではありませんこと」
第七音素減少を知ってから棒術を習得したティアが前衛、弓使いのナタリアが殿(しんがり)。ルークが中衛なのは彼がこのパーティーの回復役だからと言われてしまえば、ルークに反論の余地はなかった。実際はティアとナタリアが強すぎてルークの活躍の場は皆無だ。それでも背後から襲われた時が心配だと反論を試みたルークだったが、現在のティアのスピードがあればタタル渓谷の魔物程度問題ないだろうということで、彼女たちの意見は覆らなかった。どう頑張ってもルークに勝ち目はないのだ。結託した女性二人に口で勝てるモノなど某死霊使いぐらいなものだろう。いやマルクト帝国三人組ならば全員可能かもしれない。亀の甲より年の功とはよく言ったものである。
前線に立つティアは後方にも注意を払っていたが、実際にはそれは必要のない気配りだった。ティアが駆けつける前に、魔物はナタリアの拳の前に沈んだのである。
「弓術の弱点は懐に入り込まれてしまったら成す術がないということですわ」
ニッコリ笑ってパンパンと汚れてもいない手を払う。
この七年間でナタリアは体術も極めたようだった。



渓谷の出口にはかつてと同じで辻馬車がいたが、馭者が「漆黒の翼が出た」と騒ぎ立てることはなかった。何故ならば現在漆黒の翼は義賊ではなく、オリジナルイオンの手足となっていたからである。元々はアッシュが「意外と使える奴らだったな」とかつてよりも早くに接触を持ったのだが、そんな便利な人間をオリジナルイオンがアッシュだけに使わせておくはずがない。それでも導師時代はそんなに人使いは荒くはなかった。荒くなったのはレプリカ誕生後ファブレ家に避難してからのことだ。素顔で外を出歩くことができないオリジナルイオンにとってサーカスは絶好の隠れ蓑。アリエッタも猛獣使いとして時々参加し人間のお友たちも増えたようである。サーカスの地方公演のためという世界漫遊の合理的な理由もできて一石二鳥。しかしオリジナルイオンには好都合であっても―――恐ろしすぎて訴えることもできないだろうが―――漆黒の翼にとっては不都合がいっぱいだったようである。オリジナルイオンを暗闇の夢に残して漆黒の翼の三人が義賊をやるなんて、そんな怖いことができるはずもなく―――羊の群れと狼を一緒にして放置するようなものではないか―――必然的に漆黒の翼は廃業に追い込まれたのだった。
なので、若い男女三人がこんなところで何しているのだろうと訝しがられはするが、その辺は「のんびりしていたら日が暮れちまったんだ」で誤魔化されてくれたようである。
馭者の未来が心配になったルークだった。
「近くの村まで乗せていってはくださいませんか?」
身なりのいい男女なので金は持っていそうだなぁ~と馭者は深く追求することはなく、近くの村までなのにかつてと同様の金額を要求してきた。
誰が支払うか、どうやって支払うかで揉める三人。
「こうなることがわかっていながら、何故誰も現金を用意していなかったのかしら?」
そんなことを言ったって、ない袖を振ることはできない。
ティアの母の形見のペンダント。ルークのシュザンヌが見立てたカフス。ナタリアが王から貰ったネックレス。などなど。
三人とも持っている物は高価な物ばかり。馭者としてはどれでもかまわないから早くして欲しい、と言いたいところなのだろうが、口を挟める雰囲気ではなかった。
「村に連れがおりますの。着いたらお支払いするということではいけませんか?」
かつて前払いでなければダメだと断られたこと知らないナタリアの提案に、やはり馭者は首を振るばかりだった。力尽くで馬車を奪い取るのと徒歩でエンゲーブまで行くのではどちらがよろしいかしら、などとナタリアが本気で考えている間に、ティアは自分のペンダントを馭者に渡し、村に着くまで預けておくのでそこで現金と交換するというのはどうか、と持ち掛ける。
「どうせお金に変えるつもりなのでしょ。村に着いたら私たちの知人に売ってくれればいいのよ。貴方の言い値で買い取ってくれるはずよ」
この提案に馭者が頷いた―――拒否できるような雰囲気ではなかった―――ので、無事辻馬車に乗ることのできた三人だった。
漆黒の翼がいないので、タルタロスとのニアミスがなければ橋を落とされることもなく、彼らはのんびりゆったり馬車での旅を満喫していた。
「言い値で買い取るだなんて、あんなこと言ってよかったのかよ」
馭者がいくら請求してくるかわかったものじゃない。彼らの仲間は王族だとか軍の上層部だといった地位を持っている者が大半だった。所持金のレベルが違うので、大抵の要求には応えられるだろうけれど。
ルークの心配にティアは「たぶん大丈夫だと思うわ」と意味ありげに笑うだけだった。
ティアの言った村にいる知り合いとはもちろんジェイドのことだ。ジェイド相手に言い値を言える一般人などいるとはティアには思えなかったのである。



そのころのタルタロス、というかエンゲーブ。
ルークがタタル渓谷にしたことを知ったアッシュは「さっさと迎えにいくぞ」とタルタロスを動かすように言ったが、ミュウと思われるチーグルが密猟者に捕まったらしいという情報に、ジェイドやイオンは「放っておくわけにはいきません」と密猟者に関する調査を開始した。
「そんなに迎えに行きたいのでしたら、お一人でどうぞ。しかし貴方がミュウを見捨てて自分を迎えに来たのだと知ったら、あの子はどう思うでしょうねぇ~」
ジェイドに笑顔で言われたアッシュはルークを迎えに行くことを渋々断念した。
ミュウ―――それ以外のただのチーグルであったとしても―――を見捨てたことをルークが知ったら軽蔑されるだろうか、とか思ってしまい欲望のままに行動することはできなかったようである。
それが正しいこととわかっていてもルークとの再会が遅れるという事にアッシュはイラついていた。
八つ当たりの対象は当然密猟者たちだ。ミュウも再会を遅らせた要因の一つであったが、ミュウに八つ当たったことがルークにバレたら嫌われる―――ルークがアッシュを嫌う可能性なんて皆無である。周囲の誰もがそう理解していた。その可能性を危惧しているのはアッシュのみである―――かもしれないと思うとそれもできず、鬱憤の溜まったアッシュは密猟者狩りで鮮血の名に相応しい大活躍をしてくれることだろう。
「今回は楽できそうですね」
ジェイドはもちろん確信犯である。
イオンとアニスはエンゲーブに待機。数名のマルクト兵を連れてジェイドとアッシュは密猟が行われていると思われるチーグルの森へ向かった。
密猟者グループはかつて住処を延焼で追われたライガクイーンがいた場所をアジトにしていた。
ジェイドの予想通りアッシュの大活躍で密猟者たちを捕縛。数匹のチーグルを保護。
身振り手振りで大樹へと導こうとする青いチーグルがきっとミュウなのだろう。ソーサラーリングを所持していないので何を言っているかわからなかったが、「きっと付いてこいと言っているのでしょうねぇ~」とかつて共に旅をした経験からかジェイドには推察することができた。
大樹の中でチーグルの長老と対面。仲間を救ってくれたことへの感謝と恩返しのためにチーグルを一匹同行させて欲しい、と長老は申し出た。かつてもそうだったがチーグル一匹に何が返せるとこの老チーグルは思ったのだろうか。仲間を危険に曝した罪の償いとして密猟者を森に招き入れる原因を作ったチーグルを選ぶあたり、恩返しと言うのは厄介物を押し付けるための方便ではないかと思えてならない。「罪の償い」と言われれば選ばれたチーグルもおとなしく森を出て行くしかないだろう。魔物も齢を重ねると狡猾になるようである。
そんな長老の思惑に気付いているのかいないのか、選ばれた青いチーグルは嬉しそうにソーサラーリングを受け取っていた。
「そんな顔をしていたらバレてしまいますよ」とジェイドは独りごちる。どうやらミュウはジェイドの説教コース決定のようだった。
「今回は貴方がミュウのご主人様、ということでしょうか」
アッシュとミュウは主従揃って嫌そうな顔である。
長老たちの目の前で揉めたりはしないが、後で大いに揉めることだろう。
「誰がてめぇの『ご主人様』だ?」
「ボクのご主人様はルーク(ご主人様)だけですの」
主従の意見は一致しているのに何故揉めるのか?
結局ミュウのご主人様はルークということで落ち着いた。
「同じ顔なんだ。わかりゃしねぇだろうよ」
再びチーグルの森を訪問することがあった場合、仕える主が変わっているのはまずいのではないかとの危惧―――アリエッタとの決闘フラグは消滅していたので、チーグルの森にもう一度来なければならない理由はないので危惧する必要はなかったかもしれない―――をアッシュは一蹴した。同じ顔であることに対するアッシュの気持ちはかつてと百八十度変わってしまったようである。
「ボクは間違えたりしないですの」
「てめぇはな」
アッシュはミュウをぐりぐりと地面に押し付けた。その行動がルーク同様照れ隠しであると気付くモノはどれ程いただろうか?
「ご主人様と同じですの~」
懐かしい痛みに涙を流すのは、嬉しいからか本当に痛いからか。ここにティアがいれば止めただろう。しかし彼女は現在エンゲーブに向かう馬車の中だ。有象無象の兵士たちにアッシュを制止する度胸はなく、ジェイドはミュウの扱いとはこんなものだと思っているので放置していた。しかしここでやるべきことなどそう多くはなく、捕らえた密猟者たちの護送を兵士たちに指示もしたし後はエンゲーブに戻るのみである。
未だ同じレベルで口論中の一人と一匹を残しで自分だけ先に帰ってしまおうか、とジェイドは思う。それでも一応声は掛けることにしたようである。
「はいは~い。主従漫才はその辺にしてそろそろ戻りますよ~」
「主従じゃねぇ!「ないですの」」
ツッコミどころはそこなのだろうか。

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