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国に繁栄をもたらす子供の守人と言えば聞こえはいいが、真実は国から「死んで来い」と命じられたに過ぎない。
死出の旅路の共人。それを誉れであると言うのは選ばれなかった者の詭弁だ。
城は生贄の子供を閉じ込めるための檻。預言の日まで出ることはかなわず、と。それは子供にのみ課せられた呪ではなかった。
要らない人間と、居ては困る人間が集められたのだ。自分たちは国に、親に、友に捨てられたのだ。
最期までそのことを認めようとしなかった者もいた。
その者がどうなったのかは知らない。それでも想像することは可能だ。生きて出ることはかなわぬ城を出る方法は一つ―――死ぬことである、と。
残るも地獄、出るも地獄。
どちらも同じ地獄であると言うのであれば、どこへ行こうとも同じことだ。
途方にくれて、しかし死ぬことも選べず。ただ生きているだけの自分は何であるというのか。
地獄の底には蜘蛛の糸。絶望の淵には渡し舟。漆黒の闇に差し込む一条の光。三途の川の手前で聞こえる声はどこから聞こえる声なのかわからないのに従いたくなる魔力がある。
「そこが楽園であると信じている馬鹿共に真実を教えてやるというのはどうだ?」
悪魔がニンマリと笑って耳元で囁く。
「楽園、だよ。楽しい園―――俺たちの遊び場だ」
反対の耳に無邪気な天使の声が告げる。
それは抗い難い誘惑。逆らうことのできない恐怖。
「是」と。
答えは最初から決まっていた。
時折この城を訪れる外の人間は、ここに子供が二人いることを知らない。二人の見分けがつかないからだ。
長年ここで暮らしている者にだけわかる違い。
天使は時に悪魔以上に残酷で、悪魔は天使以上に慈悲深い。
「ルーク様。アッシュ様」
食事の時間であると女が告げる。あの時の女だ。賢明にも女は沈黙を守っていた。
生きてこの城を出ることはできない。もうすぐこの城の外で人が生きていくことはできなくなる。
「壊れた世界で生きることよりも、死ぬことの方が怖いということか」
「彼女? いい娘(こ)だよ。そんなふうに言うなって」
本当に恐ろしいモノは天使か悪魔か。神か人間(ひと)か。生か死か。
「俺はおまえが一番恐ろしい」
「俺も、アッシュが一番怖い。アッシュに嫌われるのが怖い。アッシュがいなきゃ生きていけない。俺の世界はアッシュだけ」
両手で世界を抱きしめると、クツクツと世界が震える。
見上げると、楽しそうに弧を描いた唇が降りてきた。それをルークは同じ形をした唇で受け止める。
「飯、食いにいくぞ」
もうすぐコーラル城に、アクゼリュス行きを命じる使者がやってくる。