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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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約束④

なす術もなく見つめていることしかできなかった。

ルークと六神将の一人―――ヴァンがアッシュと呼んだ男は服装と利き手以外のすべてが同じに見えた。
ここがどういった意味の場所であるのかとか、ルークは何故戦っているのかとか、どうしてアッシュと呼ばれた男はルークと同じ顔をしているのかとか、聞きたいことは山ほどあるのに、声を出すどころか指先をちょっと動かすことさえできない。呼吸をするのが精一杯だった。
初め二人の実力に優劣はないように見えた。
しかし経験値はルークの方が劣っているからだろう。我武者羅に突っ込んでいくルークに対して、受け止める剣には余裕があるように見えた。繰り出される技の一つ一つが同じ速さ同じ威力でぶつかり合い、相殺されていく。
永遠に続くのではないかと思われたその戦いは、ヴァンの介入で中断した。
ルークの動きが不自然に止まり、その身体が腕を中心に光り輝く。
「あれは、第七音素、ですね」
隣で息を呑むようにジェイドが呟く。
素養があるとは聞いていたが、目視できるほどの音素を集められるとは思っていなかった。それだけではない。今の戦いにしてもそうだ。いつの間にあんなに強くなったのだろう。暇さえあれば剣を振っていたことを知るガイにとっても、ルークの実力は予想を遙かに上回るものだった。
二人の戦いに水を差したヴァンに、怒気を帯びたアッシュの譜術が放たれる。
頭を抱えうずくまるルーク。
纏った光―――第七音素が弾けて、消えた。
一瞬の閃光に目が眩み、再び開けた視界の中には再びアッシュと剣を交えるルークの姿があった。
実力は、やはり互角。
口許には笑み。洩れ聞こえてくる会話は愛の囁きにも似ている。
振り下ろされた剣を受け流し、己の脇を走り抜けるルークを追いかけて振り返ったアッシュは、二歩目を踏み出すことができずに膝を付いた。
何故、と思う。
先程までの、そして今の戦いにおいても二人共殆んど無傷だ。
何がアッシュに膝を付かせることになったのか。
ルークの持つ白刃がアッシュの胸に吸い込まれていく。
ガイは「ふぅ」と大きく息を吐いた。
場を支配していた何かが霧散していく。
「ルークが、勝ったのか・・・・・・」
「そのようですね」
ルークは己の身体を赤く染めながら、静かに涙を流していた。
ヴァンの姿は何故か壁側にあり、床に寝転がった体勢のままピクリともしない。
アッシュが膝を付いた理由がわかったような気がした。
ヴァンほどの猛者を気絶させる何か。それがルークから放たれた光にあったのだとすれば、アッシュもまた気絶することはなかったにしても何らかのダメージを負っていたのだろう。
それが永遠に続くかのような思えた二人の戦いに終止符を打ったモノの正体だった。



小さな呻き声を上げてヴァンが身をよじった。それからゆっくりと立ち上がる。何が起こったのかわからぬようで、我が身を見下ろしたりあたりを見渡したりと、普段のヴァンからは想像が付かないぐらい忙しなく動く。その目が抱き合ったまま微動だにしない二人の姿を認め、驚愕の色に変わった。
悔しそうに二人を睨みつけるヴァンは一体何を思っているのだろうか?
いや、それよりも今はルークだ。
アッシュの死はガイの目から見ても明らかであったが、ほぼ無傷であったはずのルークの方にもまったく動きがないというのは、いくらなんでもおかしいだろう。
漸く動かせるようになった身体を叱咤して、ガイはルークの元へ向かう。隣でジェイドも立ち上がったようである。女性陣はまだ動けないようだった。
ガイも、ジェイドも、ヴァンも、同じ人物を目指していた。ほんの十数メートルの距離を今ほど長く感じたことはない。
目指す視線の先で、ルークが緩慢な動作で立ち上がる。
今の今まで大切そうに抱えていたアッシュの身体を無造作に床に転がして、ルークは足許に横たわるその姿を冷めた目で見下ろしていた。
先程までとは正反対の感情。いや感情と言うものがあるのかどうかさえも疑わしい。
白い上着を真紅に染めて、朱色の髪をなびかせて、視線はゆっくりと足許から上空へ。
その姿は確かにルークであるはずなのに、そこにガイのよく知る表情は欠片も見つけることができなかった。



赤い髪を地核から吹き上げる記憶粒子(セルパーティクル)になびかせて、ルークは巨大な金色の音叉を見上げていた。
いや今の彼をルークというのは間違っているのだろう。
その瞳に宿る色はルークのそれとも、アッシュのそれとも違っていた。
「貴方は、誰ですか?」
ジェイドは自分で尋ねておきながら、半信半疑のようだった。ルークではないと確信しての問いではない。確証のないことは口にしない主義の男にしては珍しいことだ。
視線がゆっくりとジェイドの姿を捉え、それと同時に表情が変わった。
「ルークだ。ルーク・フォン・ファブレ。他の誰に見えるっつぅんだよ」
それはよく知るルークのように見えた。
ヴァンがその彼に向かって手を差し伸べる。
「レプリカが被験者(オリジナル)を降すとはな。予定とは違うが、まぁいい。私と一緒に新しい秩序を作るのはおまえだったというだけのことだ。さぁ、ルーク。共に新世界の神となろうではないか」
ヴァンの言葉に彼は不快そう眉根を寄せた。それから「まだわからないのか」とヴァンを嘲笑う。
まただ。
また、変わった。
表情だけではなく口調までがルークと言うよりはアッシュに近い。アッシュをよく知るわけではないガイがそう思うのだから、ヴァンは尚更だろう。
「何がだ」
「貴様ごときの歪み、ユリアの預言(スコア)はものともしないということが、だ」
「まさか・・・」
ヴァンの顔は信じられないものを見た時の驚きの表情で固まっていた。
「何を驚くことがある? 預言とはどんなことがあっても成就するものだ。いや違うな。すべての事象は預言成就のためだけに存在している。貴様が七年前にルーク・フォン・ファブレのレプリカを創ったこともまた、今この時のための布石に過ぎなかったということだ」
二人の会話は第三者にとって到底理解できるものではなかった。「自分たちにもわかるように説明してくれ」という心とは裏腹に、思いを言葉にすることは難しかった。しかしどんなことにも例外は存在する。断片的な情報と己の持つ知識を結びつけることができた男は、導き出された答えに苦虫を噛み潰したような顔をした。もっともそれはほんの一瞬のことで、すぐにいつもの本音を悟らせない笑顔の仮面を貼り付けているから始末が悪い。
「二人の間に大爆発(ビッグバン)が起きたということですか」
理論上はとか、発生条件がとか、俯いてぶつぶつと呟いているジェイドを一瞥し、彼は感心したような表情を浮かべる。
「この状態をそう呼ぶのか? 流石は死霊使い(ネクロマンサー)殿―――いや、ジェイド・バルフォア博士。何でもよく知っているな」
「ルーク、じゃない、のか」
「ルーク・フォン・ファブレだ、って言ってんだろ。ガイにはわかると思ったんだけどな?」
コトと小石が転がるような音がした。
振り返ると、岩肌に手をついて辛うじて身体を支えたような体勢で、ナタリアが彼を一心不乱に見つめていた。
「ルーク、なのですか」
「そうだ。ナタリア。久しぶりだな」
両手で顔を覆い泣き出したナタリアに慈愛に満ちた視線を向けるその顔は、七年前に消えた憎き敵の息子をガイに思い起こさせるものだった。



その後自称『ルーク・フォン・ファブレ』―――十歳よりも前の記憶を有しているという彼は、ナタリアと交わした約束を初め、幼馴染二人の矢継ぎ早の質問のすべてによどみなく答えることで、それを証明してみせた。その際記憶を失った以降の思い出に対してもきっちり答えて見せたことで、周囲に新たな混乱をもたらしたことは言うまでもないことだろう。
ルークが記憶を、約束を思い出してくれたことを無邪気に喜ぶナタリアとは対照的に、ガイの心中は複雑だった。
何も覚えていないルークだったから、公爵家の息子とは思えない成長を遂げたルークだったから抑えることのできた復讐心が、ムクムクと膨れ上がるのが自分でもよくわかった。
無意識に剣の柄に伸びる手を認め、彼はニンマリと笑った。
それが引き金だった。
頭上より振り下ろした剣は軽々と受け止められ、身体ごと力任せに弾き飛ばされる。
踏鞴(たたら)を踏んで転倒を辛うじて免れたガイは、再び彼に向かって地を蹴った。
「ルーク、ガイ! 何をしていますの」
ナタリアの悲鳴が耳を劈(つんざ)く。
力で敵わなくても速さならば。
息をつく間も与えぬガイの攻撃。そのすべてを彼は眉一つ動かすことなく受け止める。ガイの己の特性を生かした攻撃は、しかし本人の意図する成果を上げることはできなかった。
勝者は地に立ち、敗者は地に伏す。
弾き飛ばされた剣は甲高い音をさせて遙か後方の地に落ちた。
「ルーク、何故ガイを・・・・・・」
「先に仕掛けてきたのはあいつだ」
「それは・・・・・・」
返す言葉を封じられたナタリアは気遣わしげな視線をガイに投げかけるも、彼の傍を離れガイに駆け寄ろうとはしなかった。
ルークが約束を思い出してくれる日をただ待ち続けた七年間。望んだ日がやっと訪れたのだ。今のこの状況を忘れて喜びに身を震わせるナタリアに、彼はこみ上げてくる笑いを隠そうとはしなかった。誰の目から見ても嘲笑でしかないそれを向けられたナタリアだけが、そうとは受け取らないというのはどういう皮肉だろう。あるいは恋する乙女の思考回路とはそういうものなのだろうか。
ルークの急変も、未だ地に横たわるルークと同じ姿をしたアッシュの存在も、ガイの奇行も、ヴァンやジェイドの驚きも、ナタリアの悲願の前では塵芥(ちりあくた)程の価値もない。
約束を叶えために努力することよりも、約束をしたという過去だけを心の支えにしてここまで来た少女。
約束を叶えるためだけに生き、そして死んだ少年たち。
その違いのなんと大きなことか。
彼の中で息衝く思い(こころ)の存在をナタリアは知らない。
無邪気に喜ぶ少女は気付くことはなかった。
少年が伸ばした手の先にある約束は、少女が大切に守ってきた夢とは違うということに。



誰が封印したはずの技術を復活させたのかなどどうでもよいことだった。
目の前の現実に研究者としての興味が再熱するのを必死に押さえ込む。
それでも、彼と彼を作り出した人物の声を一言一句聞き漏らすまいとしている自身を自覚し、ジェイドは忌々しげに舌打ちをした。
机上の空論でしかないと思っていた大爆発(ビッグバン)。いや、その前に彼の存在がその理論の外でも成り立つことの不思議。
それでも、彼はそこにいる。そのことを認めないわけにはいかない。内心でどんなに認めたくないと思っていても、である。
中指でそっと眼鏡を押し上げて表情を隠す。それが思考に耽る時のジェイドの癖だった。
結論を出すことを拒む心とは裏腹に、ジェイドの優秀すぎる頭脳は既に答えを導き出していた。
自分たちがルークと呼んでいた人物が、六神将の一人、鮮血のアッシュのレプリカであるということは間違いないと言ってもいいだろう。被験者であるアッシュが死に、同位体―――彼らがそうであるという証拠はないし、今となっては調べようもないことだったが、起きた事象からそうであったと推測することは容易い―――間でのみ起こる特殊なコンタミネーション現象により、被験者を構成していた音素をレプリカが吸収。被験者の精神はレプリカの精神を上書きし、レプリカの肉体の主導権は被験者のものとなる。
ジェイドがたどり着いた理論が正しければ今目の前で喋り、ガイを打ち負かした人物は被験者―――アッシュということになるはずだ。しかしアッシュであると言い切るには違和感が大きすぎた。被験者をよく知らない自分がそう思うのだから、彼をよく知るヴァンなどははっきりとその違いを感じとっていることだろう。
「己のレプリカとはいえ他人の七年分の記憶を受け取っても、それまでとまったく変わらずにいられると思ってたんなら、随分とめでてぇ頭だな」
それが違和感の正体だった。ジェイドの導き出した答えは現実では成立しない。レプリカの記憶を受け取ったことで、被験者の自我も変質したということなのだろう。それでも彼はそれを望ましい変化であると笑った。
「俺達は二人に分かれた瞬間から一つに戻る時を望んでいたからな」
そのための約束だった。
そして約束通り、ルークはアッシュの肉体を殺し、アッシュはルークの精神を喰らった。すべては一つに戻るためと通過儀礼に過ぎなかったのだ、と。
ドサっと何かが地に落ちる音が背後で響いた。
「馬鹿な・・・・・・」
振り向くと、そこには咆哮にも似た叫び声を上げながら、膝を付き地面に拳を打ち付けるヴァンの姿があった。



己の手で故郷を滅ぼした幼き日より、ヴァンは預言とそれに従う世界を憎んできた。
人間に預言を与えた第七音素(ローレライ)を恨んできた。
それを消滅させるために手に入れたはずの力(アッシュ)。彼は預言に詠まれた存在とは違うモノとなったはずだった。少なくともヴァンはそのつもりでいた。
ただ名を変えただけ。ただ存在を同じくするモノを新たに生み出しただけ。
ヴァンのやったことといえばその程度のこと。
その程度で列車の行き着く先を変えることができたと思い込めたヴァンは、ある意味幸せな愚者であった。このまま、自分の間違いに気付かぬまま終着駅に到着することができたのならば、という注釈は付くが。
しかし彼は言う。
ヴァンが七年前にやったこともまた預言に沿った行動であった、と。
「これもまた預言の強制力だというのか」
「何度も同じことを言わせんじゃねぇ。『聖なる焔の光(ルーク)』は『聖なる焔の光』としての役目を果たすためにここにいる。それが世界の求めた預言(定め)だ」
どんなことをしても違えることができないから預言というのである、と。
二つに分かれたモノが一つに戻ることを望み続けたことも。
ジェイドの頭脳をもってしても机上の空論と言わしめた現象が現実になったことも。
それがこの場所(アクゼリュス)であったことも。
すべては世界がそうなることを望んでいたからだ、と。
「おまえはそれでよいのか」
「おかしなことを言う」
預言とは世界の望み、すなわち人間(ひと)の望みである。
「そろそろ認めてはどうだ? 貴様が願ったこともまた世界の望みの一つ。預言はそれを言葉にしただけのモノに過ぎない」
自国の繁栄を望む者がいる。
人間の滅亡を願う者がいる。
二つに分かれた心が一つに戻ることを夢見て生きてきた子供は、夢は叶ったと晴れやかに笑う。
その笑顔にヴァンは返す言葉を失った。
赤い髪が吹くはずのない風になびき、彼を取り巻くように光が集まってくる様をただ眺めていることしかできなかった。



それはルークが先程集めた光とは比べ物にならないほどの量と質であった。
「何をなさるつもりですの?」
誰もが言葉を失う中、ナタリアだけが違った。
それが王女としての矜持だったのか、それとも状況を理解していないからできたことか。
「この力がキムラスカに繁栄をもたらす。国王が、おまえの父が望んだことだ」
まぁと目を丸くして、それからナタリアは他の者とは違う表情を見せた。
少女の望みは約束を思い出してもらうことだった。約束の中身よりもそちらに重点を置いていた。それでも、よい国を望んだ心に嘘はなかったから、幼き日に約束を交わした少年が大人になった今も同じ思いでいてくれたことが嬉しかったのだ。
その手が己に向かって伸ばされれば、その手に飛びつくことに一瞬の躊躇いもない。
それがナタリアの最期だった。
ナタリアの唇が「ナ・ゼ」と動いたように見えた。
何処に疑問を挟む余地があるのだろうか?
「繁栄のための贄となれたのだ。おまえも満足だろう」
その言葉にナタリアが答えを返すことはなかった。そこに答えを返すための肉体はすでに存在していなかったのだ。
掌から零れんばかりの光。
そこにいた者たちは眩しさに目を細め、その光景を眺めていることしかできなかった。
差し出した両手の上には光があった。
ナタリアを消した力だ。
その力が掌から溢れようとしている。
己の未来を悟り、絶叫を上げる者。逃げ出そうとする者。彼を諌めようとする者。狂ったように笑い出す者。何かを悟ったように静かに目を閉じる者。すべてを見届けようとする者。
その反応は様々であったが、一つだけ確かなことがあった。
もう直ぐこの場所はあの光に包まれて消滅するということだ。
それが世界の行き着く未来(終点)のための通過駅の一つだった。



キムラスカにもたらされた未曾有の繁栄。
それがどんなものだったのか知るモノはいない。
世界を覆った疫病。
その病がどのような苦しみを人間に与えたのか知るモノはいない。
何故なら、そこに歴史を記す人間はいなかったからだ。
ここにセピアに色褪せ、文字の掠れた一冊の日記帳がある。
しかしそこに何が書かれているのか知ることはできない。
何故なら、ここにそれを読むことのできる人間がこの世界にはいないからだ。
それでも世界はそこにあった。
終着駅を望む人間(ひと)がいなくなった世界にレールという概念はない。

Fin

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