忍者ブログ

道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

2024.05│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

約束③

それが間違いであると何故誰も気付かなかったのか。

自分たちの行く先に苦しんでいる民がいる。それが敵国の人間であったとしても、民を救うのは王族たる己の役目。ルークがいない今、彼の代わりが務まるのは己だけ。ナタリアは自らルークの代役を買ってでた。攫われたルークのことは心配であったけれど、それよりもマルクトの民を救うこと優先させた。
王の甥よりも王の娘。所詮名だけの親善大使ならば、より高位であった方がよいに決まっている。キムラスカがマルクトのために王女を遣わした、というのは何とも魅力的であるように思えた。その名代の交代劇が王命に逆らったものだったことや、キムラスカ国王より預かった本物の親善大使を見す見す攫われてしまったことが後々問題になるとはジェイドは欠片も思っていなかった。
元々命令されたから仕方なしに同行していたのだ、守るべき主を攫われたガイは本来ならルークを探しに行くべきだろうとわかっていた。あるいはキムラスカに引き返し事の顛末を報告するべきか。しかし王女は時間が惜しいと言う。ガイは王女命令を連発するナタリアを冷めた目で見つめていた。
導師はあの親善大使と一緒にいるだろう。攫ったのは六神将だ。自分ひとりで何ができるだろう。だからと言ってバチカルに戻るわけにはいかなかった。このことをモースに知られれば自分も両親も処罰されるだろう。彼らはこのままアクゼリュスへ向かうと言う。今は彼らと一緒に行動する方が得策であるような気がした。少なくとも己一人で砂漠を越えることはできそうにはなかったから。



薄紫に煙る鉱山の街。
ルークを乗せた列車は終着駅を目前に停止していた。
親善大使を欠いた一行がどういう理屈でこの地に既に到着しているのかはわからない。それでもナタリアを新たな名代としたと想像するのは容易かった。
マルクト軍人がアクゼリュスの救済を至上の命としているのであればそれでもいいだろう。
それが間違いだとは思わないけれど、攫われた親善大使やローレライ教団の導師を探すことよりもアクゼリュスの住民の方が大事であると、世間に向けて言っているようなものだと気付いているのか、いないのか。そういう扱いをされたキムラスカとダアトがどういう感想を抱くのか思い当たらないあたり、外交官としては失格だ。この男は皇帝の片腕と言われていても所詮一軍人に過ぎないということだろう。
街の入り口に立ったルークを見て、彼ら、そして彼女らは「何処に行っていたの?」と詰め寄ってきた。
何処にも何も、ルークが攫われる所を見ていたではないか。
「イオン様はどうしたの?」
これまたお門違いな質問をする導師守護役(フォンマスターガーディアン)の少女に、ルークは「さぁ」と首を傾げた。
「あんた、馬鹿? イオン様がどれだけ大事な人かわかってないの?」
その大事な人を探そうともせずにこの地を目指した自分は何だというのだろうか?
反論するのも馬鹿らしい。
ルークは守護役の少女から目を逸らして街を見渡し、お粗末過ぎる救援隊の姿を怪訝に思った。
彼らはこの状態を不思議には思わないのだろうか?
「なぁ、師匠はどこにいるんだ? 先に来ているはずだろ」
それはヴァンの行方だけを尋ねる質問ではなかったのだけれど、その妹はそうは受け取らなかったようである。
呆れた、とルークに侮蔑の視線を向ける。今は目の前で苦しんでいる人を助けることの方を優先すべきである、と。
「貴方、兄がいなければ何もできないのね」
ルークがいつヴァンを頼りにしたというのだろうか?
師と呼んでいるからか、それともガイやナタリアから何か聞いたからだろうか。
確かに屋敷に軟禁されていたころのルークはヴァンの訪れだけを心待ちにするような子供だった。しかしそれは剣術の稽古が、強くなるために師という人物が必要だったからに過ぎないのだが、そんなルークの心情を知らないガイやナタリアが誤解してもしかたがないだろう。
それを一々訂正するのも面倒だった。
もう直ぐ列車は終着駅に着く。
誤解されたままであったとしてもルークには何の支障もなかった。



坑道の入り口に立つ二つの人影に気付いたのはルークだけだった。
緑の髪の少年が一瞬だけこちらを見て、それから坑道の中に姿を消した。
大事な大事な導師イオン。
これだけ近くにいてその存在に気付かない導師守護役(フォンマスターガーディアン)。
目の前で苦しんでいる人を放っておくことができない、とそう言うのであれば、守護役なんて辞めればいいのだ。
先に着いているはずの救援隊の姿が見えないことを不思議に思わない、勝手に親善大使の名代となった王女と和平の使者であるマルクト軍人。この街の住人すべてを救うためにこの地に来たのではないのだろうか。一人二人を救って自己満足に浸りたいのであれば、国の代表などという肩書きは捨てるべきである。
ルークの護衛として親善大使一行に同行したはずの使用人は、守るべき主人が合流した後も彼の傍から離れたままだ。与えられた職務を理解していない時点で公爵家から首を言い渡されても仕方がないだろう。
彼らは救助に夢中でルークが坑道に入って行ったことに気付かない。
もっとも気付いていても救助活動に従事しないルークのことなどお構いなしだったかもしれないけれど。
「坑道の中にまだ人がいるかもしれない」と住人の一人に言われるまで、彼らは坑道があることにさえ気付いていなかった。



約束の地―――アクゼリュス。
街の中を徘徊する邪魔者の姿に眺めながら、アッシュとルークは目と目を合わせるだけで役割分担を決めた。
ルークは彼らの目を坑道の入り口から逸らすために一足先にタルタロスを降り、アッシュは導師を坑道の奥まで連れてくる役目を無理やりもぎ取った。
ダアト式封咒で閉ざされた扉の前で待ち構えていたヴァンは、連れてこられた導師の姿に満足気な笑みを浮かべ、しかし次いで現れたアッシュの姿に眉を顰めた。
「どういうことだ。アッシュ! 私はおまえにこんな命令を下した覚えはない」
そんなヴァンの態度をアッシュはフッと鼻で笑った。
「導師を連れて来いと命じた覚えならあるんじゃねぇのか」
何もかも自分の思い通りになると思い込んでいる男は、自分が乗る列車もまた引かれたレールの上を走っているだけだということに、最期の瞬間まで気付くことはないだろう。
ヴァンは戻るよう命じるが、それに従うようなアッシュではない。
この場に用があるのは何もヴァンだけではないのだ。
緊迫した空気を打ち破る新たな足音が聞こえてきたのは、アッシュが退かないと悟ったヴァンが実力行使に出ようとした時だった。
「師匠! それに導師も・・・・・・。こんなところにいたのかよ」
遅れて到着したルークの姿を認めると勝者の笑みを浮かべる。忌々しげにアッシュを見ていた時とは大違いだった。
ヴァンの中でどんな葛藤があったのかはしらない。あるいはどんなレールを引きなおしたのか。
いくら引きなおしても終点が変わることはないとも知らず、机上の空論を練り直す男が滑稽でならなかった。
アッシュはルークを見、ルークはアッシュを見る。
言葉は要らない。
約束は常にお互いの心の内にある。
後は場が調うのを待つばかりだった。
「導師イオン。この扉を開けていただけますか?」
それもまたレールの上の行動であるとも知らず、ヴァンは導師に懇願する口調で命令を下す。
扉の形をした光が一つ、また一つと消えていく様子を眺めながら、アッシュとルークは歓喜に震える心と身体を平静に保つことに必死になっていた。



聳(そび)え立つ大樹のような、巨大な音叉とそれを囲む光の輪。
「すげぇ~」
思わずルークの口から漏れた感嘆の言葉に、アッシュはクッと笑って「そうだな」と呟いた。
荘厳なる場。
なるほど、約束を果たすにはこれほど相応しい場所はないだろう。
「ふう」と同じタイミングで息を吐いて、まるで合わせ鏡であるかのようにまったく同じ仕草で顔を見合わせる。
さぁ、始めよう。
言葉はもう、必要なかった。
アッシュの口許に不敵な笑みが浮かぶ。ルークの瞳が嬉しそうに細められる。
互いの利き手が剣の柄に伸び、鞘から引き抜かれた白刃が記憶粒子(セルパーティクル)の光を反射させてキラキラと輝く。
心音がまるでカウントダウンをするかのように、時を刻んでいた。
間違える理由はない。
振り下ろされた剣を己の剣で受け止めたのか、あるいは振り上げた剣が受け止められたのか、それさえもわからないほど同じ軌跡を描く剣先。
いつしか音は消え、心音と剣と剣がぶつかり合う音だけがその場を支配していた。
威力も、スピードも、繰り出されるタイミングもまったく同じ。
決着はもしかしたら永遠に付かないのではないか、と。
心配になるよりも、この時間が永久(とわ)に続けばいいという気持ちの方が強かった。
時には拳で、あるいは脚で、その攻防はけっして剣をただ振り回すだけのような単調なものではなかったが、すべての攻撃がその纏(まと)う音素の種類や量に至るまでまったく同じだった。
「く、くく」
「はは、あはははは」
先に攻撃の手を止めたのはどちらだったのか。
地面を鞘にして剣から手を離した二人は、同時に笑い声を上げた。
このまま決着が着かないというのであればそれもまた一興である。
笑いの発作が治まるまで、ルークは、そしてアッシュも、互いの顔から目を逸らすことはなかった。
息が整ったら、それが再開の合図だ。
相手の呼吸を感じているのか、それとも自分の呼吸を確認しているのか、それはどちらでも同じことだ。
相手の利き手がゆっくりと剣に伸びるのを見ながら、自分も同じ仕草で剣に触れているのだと確信する。
さぁ、第二ラウンドの始まりだ。
アッシュの手が剣を持ち上げる。しかしルークの手は剣の柄に触れた状態で止まったままだった。
「―――愚かなレプリカルーク」
突然割り込んできた第三者の声。
永遠に続くはずの均衡が打ち破られた瞬間だった。



本人の意志を無視して動く手足。驚愕に見開かれた翡翠。
ルークの異変を感じて、アッシュは自分たちの戦いに水を差した人物を探すために周囲を見渡した。
傍観者は七人。
呆然とした表情で言葉もなく立ち尽くす六人はこの際無視してもかまわないだろう。
放っておくわけにいかないのはたった一人―――ヴァン・グランツ。この期に及んでも、レールは自分が引き直したと思い込んでいる男である。
「ここでおまえを失うわけにはいかぬ。おとなしくしているのだ、アッシュ!」
この男がルークに対して何かやったことは明らかだった。
不自然に集まる第七音素。
それは大気中からだけではなく、アッシュの身の内からもルークに向かって流れているかのようだった。
ヴァンを斬ることよりも、今起ころうとしている―――ルークが起こそうとしていることを止める方が先決であると、アッシュは判断した。
己の意識を探るように、ルークの意識を探る。
最初の時はあれほど簡単に繋がった心が遠い。
幾重にも張り巡らされた言葉の檻がアッシュの侵入を阻む。
「ヴァンの野郎」
これを仕掛けたのが誰であるかなんてことは明らかで、アッシュは怒りに任せて譜術を放った。
直撃はしなかったが、譜術を避けた拍子にヴァンの手がルークの肩から外れる。
―――捕らえた。
同時にアッシュの心とルークの心が繋がる。
「ルーク!」
確かな手応えを感じ、アッシュは思いの丈を込めてその名を呼んだ。
眉をしかめ、うずくまる。
集められた第七音素が、制御していたルークの意識が途切れるのを待っていたかのように、弾けた。
その光は直ぐ傍にいたヴァンはもちろん、ルークに駆け寄ろうとしていたアッシュをも坑道の壁に叩きつける。
凄まじい威力だった。
痛む背中に手を添えて、アッシュが身体を起こす。
ヴァンは意識を失ったようだった。
これで邪魔者はいなくなった。
さあ、仕切り直しだ。
利き手ではない方の手で押さえているのは背中ではなくて額であったけれど、自分と同じタイミングで身を起こしたルークを見ながら、アッシュは今度こそ約束が果たされることを確信していた。



永遠に続くはずだった均衡は、ヴァンの不要な干渉によってあっけなく崩れた。
初めそこに差異はなかった。
振り下ろされる剣のスピードも、受け止める剣の強さもまったく同じだ。
時折、蹲るヴァンや呆然と二人の様子を見つめることしかできない導師たちの姿が視界に入ることもあったが、戦いの邪魔をしないのであれば態々排斥する手間をかけることもないだろうと放っておいた。
「俺と戦っている最中に余所見とは、随分と余裕じゃねぇか」
襲い来るアッシュの剣を受け止めながら、ルークは心外だと眉を顰める。
「おまえしか見えてねぇって」
その答えにアッシュが満足そうに笑った。
足元の地面を抉った譜術を、ルークは大きく後ろに飛び退いて避ける。
土煙が上がり、二人の間を隔つ。
煙越しに見える紅。
土煙ごときで目標を見失うはずがない。
渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
もちろんアッシュの方にもルークがどこから仕掛けてくるかを見誤る理由はなかった。
受け流して、返す刀でルークの剥き出しの腹を狙う、はずだった。
左へと弾かれたルークは、振り向くと同時に片膝を付くアッシュの姿を確認して、驚愕に目を見開いた。しかし躊躇っている余裕はない。今度はアッシュの胸を突くため剣を逆手に持ち替える。
避けられなかったのか、それとも避けなかったのか。
すーっと、白刃がアッシュの胸に吸い込まれていく。
一方、アッシュの剣がルークの腹に届くことはなかった。
「よくやった。それでこそ俺のレプリカだ」
うっとりと呟く。
剣がより深く胸を貫くことになることも厭わずに、アッシュはルークの身体を抱きしめる。
隙間なくぴったりと重なる身体。これが同じであるということなのだろうか。
溢れる赤がルークの身体を染め上げていく。
「アッシュ」
ルークの声にアッシュの閉ざされていた瞼がわずかに震えた。
頬をなぞった手が力なく身体の横に垂れ下がり、そうして、その瞼は二度と持ち上がることはなかった。
ルークは根本まで突き刺さった剣の柄から手を離し、アッシュの背中を強く掻き抱く。その度に傷口からは真っ赤な血が溢れた。
「俺は約束、守ったんだからな。おまえも、守れよな」
―――あぁ。
その声は、耳ではなく、心に響いた。
ルークは満足そうに笑って、そして目を閉じた。

拍手

PR
■カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
■web clap
拍手は砕のエネルギー源ですvv
*お礼文*                『知らぬは~』過去編④の後半で分岐した続かない物語。(全2話)
■メールフォーム
なにかありましたらお気軽にどうぞ。   お名前の記入は任意です。
■別館
テイルズ以外のハマりモノはコチラで語ることにしました。(別窓表示)
■アクセス解析