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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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約束②

―――おい。
誰かが呼んでいる。
これは誰の声だ?

―――起きろ。
目覚めを望んでくれている。
何故? 自分は約束通り殺されたのではなかったのか?
―――約束はもう一つあったはずだ。
あぁ、そうだな。
ルークは重たい瞼を持ち上げて、「ほう」と息を吐いた。
この天井に見覚えがあると感じるのは気のせいだろうか?
「無事なようだな?」
「ヴァン、師匠(せんせい)・・・」
気だるい身体はここで自分の身に何かがあった証拠。
しかし、その何かがわからない。
身を起こし、あたりを見回す。
何に使われるのかわからない譜業装置だらけの部屋。その中央で硬い台に座っている自分。
己を見下ろす空色の瞳。
この色は違う、と本能が告げる。
「まさか、おまえがこの場所にいるとはな」
この声は違う、と記憶が告げる。
何かに導かれるようにルークは立ち上がり、歩み始めたが、その足は数歩も進まぬうちに、己に伸ばされたいくつもの手によって阻まれることになる。
己の無事を喜ぶ声を遠くに聞きながら、ルークは身の内に直接呼びかけてくる声にのみ耳を傾けていた。



ルーク捜索のためにマルクトの地を彷徨っていたガイは、タルタロスから脱出したジェイドとティアが、リグレットから導師イオンを取り戻そうとする場面に遭遇した。
ティアの姿に見覚えのあったガイは、彼女からルークの行方に関する情報を得るため、イオン奪還に協力。ルークが六神将の一人―――鮮血のアッシュに連れ去られたことを知る。
リグレットがアッシュの単独行動に文句を言っていたらしいから、彼女にルークの居場所を問うたところで行方を知ることはできないだろう。
ガイはタルタロス内の捜索を諦め、バチカルに向かうというジェイドたちに同行を申し入れた。
護衛は一人でも多い方がいいと、ジェイドはそれを承諾。
共にカイツールの国境まで来た時点で新たな問題が発覚する。
誰も旅券を持っていなかったのだ。
そこに現れたのが別ルートでルークを探していたヴァンである。
ガイは鮮血のアッシュがルークを連れ去ったことをヴァンに伝える。
コーラル城―――ヴァンが何故そこにルークがいると思ったのかはわからないが、ヴァンの確信は当たっていた。
ルークはそこにいた。迎えにきたガイたちを見て、嫌そうに眉を顰める。
ガイはルークが嫌悪する者の中に己も含まれているとは微塵も考えてはいなかった。



一癖も二癖もある部下の中でも、ひときわ異彩を放つ男。
格好が奇抜であれば、言動も奇抜。
その男が己の命令に従わないことは常であったが、今回も命令を無視して何やらしていたのだろう。
締まりのない顔で浮遊椅子を走らせている所に遭遇できたのは行幸だった。
少し鎌を掛ければあっさりとルークの居場所を白状した。
アッシュがコーラル城に連れてきたという。
「おかげでよいデータが取れました」
ホクホク顔で走り去る男の背を見送りながら、ヴァンは何のためにアッシュがルークをコーラル城に連れて行ったのか、それだけが気になっていた。
何かが狂い初めているような気がする。



光の都―――バチカル。
天を目指すかのように作られた街。
己を出迎えた金色の姫は「お帰りなさい」と言う前に、「約束を思い出してくださいましたか?」と、お決まりの台詞を口にする。
彼女にとってそれは、朝に「おはようございます」と言うのと同じぐらい習慣付いたもの。だからルークも「おはよう」と返すのと同じように、同じ台詞を返した。
「俺は約束を忘れたことなんてないよ」
「約束約束」と繰り返す彼女に、自分が殺すべき相手だと思った。自分を殺してくれる人だと思った。
身に纏う色は違ったけれど。
ルークにとって「約束」と言えばそれだけだったから。
足りない力で彼女を殺そうとした。そうすれば彼女が自分を殺してくれると思った。
けれど、彼女はそうはしなかった。
ただ、哀しそうな顔で首を振った。
「何もかも忘れてしまったのですね。かわいそうなルーク。でも、いつかきっと思い出せますわ」
貴女がかわいそうだと思っているのは誰?
ルークは己をかわいそうだと思ったことはなかった。
約束を忘れたことなどなかった。
ただそれが彼女の求める約束ではなかったというだけのことだった。



鉱山の街―――アクゼリュス。
その地を詠んだ預言(スコア)を朗々と詠み上げる女の声。
レールはそこに向かっているらしい。
終点で待っているモノを知らないとは、なんと幸せなことだろうか。
行き先を変えることも、降りることも叶わぬ列車。
死に向かう車両に騙されて乗せられた供人たち。そして自分から進んで乗り込んできた金色の姫と導師守護役(フォンマスターガーディアン)の少女。
彼ら、そして彼女らはこれが死出の旅路であるとは知らず、先を急げとルークの背中を押す。
「何で親善大使の俺がこんな犯罪者みたいな真似をしなきゃならねぇんだよ」
廃工場を抜けてバチカルを出ると聞かされたルークは、盛大に文句を言った。
それに対して呆れたような、あるいは嫌悪感を隠そうともしない目を向ける同行者たちは、ルークの言った言葉の本当の意味に気付いていないようである。
キムラスカとマルクトの和平が成立したことを世間に知らしめるための親善大使一行ではなかったのだろうか? こんな風にコソコソしていて証の役目は果たせないだろう。マルクトはそれでいいのだろうか。もっともキムラスカの真意はその先にあるようだったが。
気付いているモノは約束にしか興味のないルークのみ。
彼らを乗せた列車は着実に定められたレールの上を進んでいた。



饐(す)えた溝の臭いと、古くなった油の臭い。
もっとも悪臭などとは無縁の生活を過ごしていたルークにとって、それに「嫌な臭い」ということ以上の認識はない。
油と埃に塗(まみ)れた廃工場。
道中の魔物を無表情に切り捨てて、黙々と出口を目指す。
バチカルの外は雨が降っていた。
分厚い雲が陽光を遮っていたが、廃工場の暗さに慣れた目には眩しいぐらいである。
遠くに陸艦が見えた。
「イオン様」
導師守護役(フォンマスターガーディアン)の少女が、ルークの直ぐ後ろで何か叫んでいる。
緑の髪の少年―――行方不明の導師である―――だとか、彼を連れて行こうとする六神将の姿だとか、確かに見えているはずなのに、ルークの目には映っていなかった。
求める赤がある。
それだけがすべてだ。
それ以外に必要なものなど何もない。
気付いた時にはルークはその赤に向かって走り出していた。
走りながら、剣の柄に手を掛ける。
背後からの攻撃を、赤は最初からそこに来るとわかっていたかのように、振り向くと同時に受け止めた。
弾き返すのではなく、力比べのような押し合いになったのは、お互いがそれをのぞんでいるからか。
鍔が触れる程近くで剣を交え、視線は同じ色の翡翠から逸らされることはない。
この赤をこんなにじっくり見るのは初めてだった。一瞬だったり、涙で滲んだ視界だったりで、強烈過ぎる赤の印象だけで何も残っていなかったから、ここまで同じだとは思わなかった。
ギシギシと重なる剣が嫌な音を立てる。
永遠に続くかのような均衡を破ったのは、導師の肩に手を掛けた六神将と、ルークの背後に迫った親善大使一行の声だった。
「何やってんの。行くよ」
イラつきを隠そうともしない少年兵の声。
「ルークが、二人・・・」
金色の姫が驚愕に震える声で呟く。
「邪魔すんじゃねぇ!」
ルークは叫んでいた。
やっと約束を果たすことができるのだ。
それは赤も同じだったのだろう。
―――仕方がない。場所を変えるぞ。
突然頭に響いた声。そして頭痛。立っていることも困難な痛みに、ルークは剣を取り落とし蹲る。その背に添えられた暖かな手。それは雨に濡れた冷たい身体には熱いぐらいだった。
「ルーク!」
悲壮なガイの声を聞きながら、ルークの意識はゆっくりと闇に沈んでいった。



濡れた髪を拭う手はどこまでも優しい。
しかしその口を吐いて出る悪態の数々は、聞く者を怯えさせかねない迫力があった。
「ディストの野郎・・・」
確かに多少レプリカの方に負担が掛かるかもしれないとは聞いていた。多少ならば、と了承したのはアッシュだ。その際レプリカの意見を確かめなかったことについては、目覚めないこいつが悪い、と眼を瞑ったのも事実だ。しかし気絶するほどの負担だとは聞いていなかった。
「次に会う時を覚えているんだな」
ディストにとって幸いなことに彼らの未来に交わる点は用意されていなかった。もっともそれはこの時点のアッシュが知ることではない。
髪が粗方乾くころにはレプリカの顔から苦痛の色は消えていたので、アッシュは「ほう」と安堵の息を吐いた。
朱色の睫毛が振るえ、翡翠の瞳が焦点を結ぶ。
そこに歓喜の色を見つけ、アッシュは確信した。
「俺がわかるか」
「知らねぇよ。初対面、だろ」
厳密に言えば三回目、いや四回目ということになるのだが、しかし過去のそれはどれも意識がはっきりしていなかったり、一瞬だったりしたのだから、レプリカが初対面と認識しても不思議ではない。
望む答えが返されなかったことにアッシュが眉を顰めると、レプリカはフッと不敵に笑った。
伸ばされた手がアッシュの頬に触れるか触れないかの位置で止まる。
「でも、一つだけわかることがあるんだ。おまえは俺が殺すべき相手だ。で、俺を殺すのはおまえだ。―――あってんだろ?」
「あぁ、正解だ。―――俺を担ぎやがったな」
してやったりと笑うレプリカに、しかし訪れる感情は悔しさよりも満足する気持ちの方が強い。だからといって負けっぱなしでいるようなアッシュではなかった。
「褒美をやらねぇとな」
覆いかぶさるように、まずは額に一つ。
あんぐりと口を開けて呆けるレプリカに、今度はアッシュがしてやったりとばかりに口角を上げた。
真っ赤になって、それでも気丈に睨みつけてくる翡翠。
アッシュは自然とこみ上げてくる笑いを抑え、抑揚のない声で問う。ここで感情を見せるのは何だか負けのような気がするのだ。
「なんだ、不満か?」
レプリカはニンマリと笑った。顔色はまだ真っ赤なままだったが、そこに先程までの焦った様子はない。
「あぁ、不満だね。どうせなら、こっちにくれよな。ご褒美、なんだろ」
人差し指で自分の唇を指差す。
今度はアッシュが絶句する番だった。だがそれも一瞬だ。
「上等じゃねぇか」
レプリカの顔の両脇に肘を付いて、アッシュはゆっくりとその身を倒していった。



持ち上げては、掌から零れ落ちる感触を楽しみ、また掬い上げる。
「飽きないのかよ」
枕に顔を押し付けたまま、ルークはさっきから同じ動作を繰り返す半身を見上げた。
素肌をすべる己の髪の感触がくすぐったかったのだが、彼の顔を見ていると「やめろ」と制止することもできず、したいようにさせていた。それでもいい加減、髪だけじゃなくて自分を構えと思わなくもない。もっともルークにはそれを言葉にできるような素直さはなかった。
彼はそれには答えず、今度はその一連の流れに更なる動作を加える。朱色から金色に変わる毛先を手から滑り落ちる前に掴んで、己の唇へと持っていったのだ。その間視線はルークの顔から逸らされることはない。
「なっ・・・・・・」
ルークは頬に熱が集まるのを感じた。
その光景を直視していられなくて寝返りを打つ。冷たい枕の感触が火照った頬に気持ちが良かった。
忍びきれない笑いが背後で響く。
彼は相変わらず同じ動作を繰り返しているのだろう。時折緩く髪を引っ張られる感触が何よりも雄弁にそれを物語っていた。
枕を通して伝わる陸艦の駆動音が眠気を誘う。
「寝ていていいぞ」
「俺が寝ている間、ずっとそうしているつもりかよ」
その質問に彼が答えを返したかどうか、ルークには記憶がなかった。
ただいつになく幸せな気持ちで眠りについたことだけを覚えている。
もう直ぐ約束を果たすことができる。
それが何よりもルークに安眠をもたらすのだった
行こう。約束の地(アクゼリュス)へ。
二つに分かれたレールを一つに戻す場所はそここそが相応しい。

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