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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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メシュティアリカ・アウラ・フェンデ②

喪服は女を美しく見せる。
凛とした表情でただ前だけを見ている少女の瞳に、悲しみはなかった。

むしろ何処か満足気な微笑みさえ浮かべている。
そう感じるのは気のせいだろうか。
「教官。兄は幸せだったと思います」
少女の兄は兄妹の故郷、白い花が咲き乱れる場所に埋葬された。
「幸せ、だと?」
あの方は志半ばで死んでしまった。それのどこが幸せだというのか。さぞや未練であったであろう。
かつて咳き込むあの方の背をさすっていたのと同じように、少女は白い墓石を撫ぜる。その手はどこまでも優しかった。
「これで兄は預言から解放されたのです」
少女は笑っていた。
あの方の理想をこの少女は知っていたのか。
「妹は何も知らない」とあの方は言っていなかっただろうか?
真実を告げるには、同志にするにはまだ幼すぎる、と。
あの方は預言とそれに縛られた人類の消滅を望まれていた。
預言のない世界の創造。それがあの方の悲願だった。
「ティア?」
これは誰だ?
本当にあの方の妹なのか?
己の教え子なのか?
「ずるいとは思いませんか?」
少女の手が己に向けてすうっと伸ばされる。
その手に握られているのは、何だ?
「ティア?」
己の声は少女に届いているだろうか?
突きつけられた白刃に、動くことができなかった。
「兄は一人で逝ってしまいました。あなたを置いて」
だから、追いかけてはいかがですか?
少女の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
赤い。
白い花が赤く染まる。
これが解放されるということなのだろうか。
死(解放)はすべてのモノに平等に訪れる幸福。
なるほど。あの方は幸せだったのかもしれないな。
掌に載せられたそれを握り締める。
己の血で赤く染まった白刃。
それはかつて自分が少女に贈った物だった。



その目を忘れることはできない。
人間ではない恐ろしい何かを見ているような瞳。
かつての自分もあの人のことをこんな目で見たのでしょうか?
もし仮に謝ることができたとしても、きっと何事もなかったように許してしまう人であったと知っているから、謝ることもできません。
あの人が好きだと言った白い花が、赤く染まる。
ここだったことを少しだけ後悔した。しかしここでなければいけなかったのだから仕方がない。
「教官。見ていてください」
血に染まった白刃はかつての持ち主に返すことにした。
自分には必要のないものだから。
新たな墓石が兄の墓石の横に建つころには、赤く染まった花も本来の色を取り戻していることだろう。
あの人が好きだと言った白い花は、あの人の心と同じように、どんなに血に濡れたとしてもその白さを失うことはなかった。



教団にリグレットの死が伝えられたのは、ヴァン・グランツが彼の故郷に埋葬された翌日のことだった。


兄の死を伝えると、朱は翡翠に水滴を溜めた。
それはあまり見たくはない顔だ。
それからこれからは兄の代わりに自分が来ることを伝えると、朱は嬉しそうに笑ってくれた。
あなたを悲しませたりはしないから。
一人にしたりはしないから。
最後まで共に行きましょう。



兄の死後、主席総長の椅子は空席のままだった。
相応しい人材がいなかったのだ。
兄の死は預言にはない出来事であったから、それは仕方のないことなのだろう。
この世界は預言にない出来事に対応できるようにはできていなかった。



あと一人。
そう。
兄に同調する神将はあと一人だけだ。
科学者の目的は初めから兄とは異なっていた。彼は研究がしたかっただけだ。兄が死に、研究を続けることができなくなっては、ここに留まる道理がないだろう。
導師に成れなかった少年はまだ誕生していない。誕生させるつもりもなかった。
魔物に育てられた少女は彼女の導師と共にいた。導師が死んだ後彼女はどうするだろうか? きっとダアトに留まることはないだろう。彼女の恩人はもういないのだから、利用されることもないだろう。
だから、後はあの男だけだ。
あの男をどうするべきか。
彼が彼女の実の父であるということは、躊躇う理由にはならなかった。
ただ、あの男に何かができるとも思わなかったけれど。
金色の姫があの男の娘であると、光の都に教えてあげようかしら?
あの男もそうすればよかったのだ。
娘を奪われた男は、力及ばず取り戻すことが叶わなかった。死を覚悟した男は、義母の取り成しにより命を長らえた。バチカルを追放された男に残されたのは、復讐だけだった。
あの男が兄に語った預言を憎む理由。
その様があまり滑稽で、ティアは笑いを堪えるのが大変だったことを思い出す。
残されたのは復讐だけだなんて。
笑ってしまう。
本当にそれだけだったのかしら。
預言に逆らうと決めた男が、何故国の決定には従ったのだろうか?
追放されたからと言って、バチカルに入る方法は本当になかったのかしら。
そうは思えなかった。
あの頃のティアでさえファブレ公爵家に忍び込むことができたのだ。
王城よりは警備が手薄だったから可能だっただけのことだ。
そうね。そうかもしれないわね。
でもそんなことが言い訳になるのかしら。
貴方の娘はあの人とは違うわ。城の奥に閉じこもってなどいなかった。閉じ込められてなどいなかった。
城でなければいけない理由も、バチカルでなければいけない理由もないのでしょう。
貴方が城にこだわるのであればそれでもいいわ。城に入り込む手段はあったはずだわ。現にバダックには閉ざされていた城門も、ラルゴの前にはその門扉を開いたではないか。
預言を、それに従う人間を憎む前に、娘を取り戻す努力をするべきだったのだ。兄の理想に共感する前に己の手でできることをすべきだったのだ。
王と王妃は、キムラスカ国民は、預言に詠まれた存在だからと、王家の血を引かぬ王女の存在を受け入れるでしょうか?
実の娘として過ごした年月により王に受け入れられ、民のために為した業績により国民に受け入れられた王女。
それは十八年という歳月がもたらした結果だ。
ならば産まれた直後だったらどうだろう。同じ結果が待っているだろうか? ティアは己には試す術はなかったことが残念でならなかった。自分はどうして彼女より年下なのだろうか、と。
今ならそれも可能だ。
ラルゴ、いやバダックに父だと名乗らせてみようか。
彼女は既に血に負けぬ絆を得ることはできているかしら。血に負けぬ業績を残しているかしら。
ティアがそれをしなかったのは彼女のためではなかった。
かつて共に戦った仲間に対する思いは、年月と共に薄れ、今では懐かしさの欠片さえなかったから。
朱に、己と紅との約束を思い出せと強要する王女。
それがどれ程あの朱を傷付けているか彼女は気付かない。
あの人も朱と同じように傷付いていたのだろうかと思うと、彼女を許す気にはなれなかった。
己に彼女を糾弾する資格はない。
だからやらなかったのだろうか。
それとも。
朱が住む場所を混乱させたくはなかったから。
今はまだ、このままに。



それも預言に記されていたことなのでしょうか?
いつものように中庭で朱の相手をする。
かつて導師が行方不明という知らせを兄がファブレ邸にもたらした日。
それは自分とあの人の旅が始まった日だった。
ND2018。レムガーデン・レム・二十三の日。
その日を忘れたことなどなかった。
今、この世界に導師はいない。
あの優しい緑も、すべてを呪って消えた緑も、無垢な緑も、この世界では生まれなかったからだ。
だからその日もいつもと変わらない日であるはずだった。
そうだと思っていた。
いつもと同じはずの木刀が、何故か第七音素を帯びてティアに振り下ろされる。受け止めたロッドもまた然り。
これは純然たる事故です。
えぇ。今回は本当に。
かつてのような馬鹿な台詞を言ったりはしないわ。
「ごめんなさい」と言うと「ティアのせいじゃないだろ」と朱は言った。
渓谷に咲き乱れる白いセレニアの花。
その中心で佇む朱。
その姿に、あの日を思い出す。
戻ってきた赤は朱色をしていなかった。
あちらに残してきた『彼』には悪いと思うけれど、やはり自分はこの色を望んでいたのです。
思わずこぼした涙に、朱が心配そうにティアの顔を覗き込んだ。
あぁ違うの。何でもないの。
「行きましょう」
ロッドを構えて朱の前を行く。
これが始まりの合図だった。
あるいは終わりの合図であると言うべきだろうか。



辻馬車には乗らなかった。
徒歩でケセドニアに向かう。
ダアトにいる紅に、ケセドニアから鳩を飛ばした。
バチカルでどのような罰が待っていようとも、受け入れるつもりだった。
大丈夫。
たとえこの身が滅んでも、この思いは費えることはない。



愚かな、愚か過ぎる兄。
その行動は思慮深いようでいて浅はか、計算されつくされているようでいて行き当たりばったり。
あの頃の自分はそれ以上に愚かであったと、思い出すたびに死にたくなるような後悔が押し寄せてくる。
あぁ、今ここにあの頃の自分がいるのならば、秘奥義の一つもお見舞いするのだけれど。
ここにいるのはかつての愚かだった自分を知るティアだ。今度は間違えないようにと努力するティアだ。
ねぇ兄さん。どうかしら? 貴方よりうまくやっていると思うでしょ。



エンゲーブはどうなったかしら。
あの小さな聖獣のことは心配であったけれど。
かの地に住む優しい人々。
卵が孵るのが先か、焔がこの地を焼き尽くすのが先か。
どちらであってもたいして違いはないでしょうから。
だって世界はもう直ぐ終焉を迎えるのだから。
終焉を知らずに終わりを迎えるのは、幸せなことでしょうか? それとも不幸せなことでしょうか?



あの優しい緑はここにはいないから。
この世界では生まれなかった人に思いを馳せる。
今のダアトに導師の力を持つモノはいない。
導師の力を求める大詠士は「まさか預言の遵守を何よりも望む方が、預言にない存在を欲するような真似はなさいませんでしょう」と言って黙らせた。
研究者たちは兄の死と同時に処分した。
兄にとっては新たな世界の要となるモノであったとしても、新しいモノを求めないティアにとっては無用の長物である。
不利益をもたらすことはあっても益はない。
ティアは朱を欲しただけ。
それさえ済めばもう必要のないモノだった。
要らないモノは捨てる。
そうだったわよね。兄さん。
その人に対する思い入れは殆んどなかった。
かつての仲間の幼馴染、その程度の認識でしかない。
だから彼がその後どうなったかなどティアには興味がなかった。
行く道の妨げになるのであれば処分するだけ。そうじゃなければ放っておけばいい。
あらゆるモノが終わりを迎えようとしている今、一人を追いかける必要などないのだから。
ジェイド・カーティス、大佐。
この結果をもたらしたのは貴方だということを、貴方が知る日は来るでしょうか?
彼は研究がしたかったのではない。恩師を取り戻したかったのではない。貴方を取り戻したかっただけなのだと、知っていましたか?



マルクト帝国の軍人が和平の要に何を担ぎ出したのかは知らない。
守るモノのいない導師守護役(フォンマスターガーディアン)が今どうしているのかは知らない。
確かめようとも思わないが、彼らが焔と出会うことを預言が求めているのならば、何処かに出会いは用意されているでしょう。
求めることはしない。避けることもしない。
ただあるがままに受け入れること。
それがティアの選んだ道だった。



バチカルに戻ってきた翌日、アクゼリュス行きを命じられた。
もうすぐ、すべてが終わる。



アクゼリュスへは海路で。
なるほど六神将の妨害がなければこうなることは必然で、予定が早まることは問題ないのだけれど。
紅はうまくやっているかしら?
先に約束の場所に向かっているだろう紅を思う。



「俺も行くからな」
もちろん連れて行くつもりだったけれど、紅の方から言い出すとは思ってもいなかった。
「どうして?」
「すべてが燃え尽きる瞬間を、共に見届けたいだけだ」
紅が誰と一緒に最期を迎えたいのか、それを尋ねることはしなかった。
自分か、朱か、思い出の中の少女か。
自分は。
そうね、兄さん。貴方と共にありたかったわ。
貴方がどんな顔で終焉を見届けるのか、それが見たかった。
貴方のための紅茶を淹れたことに後悔はないけれど。
あぁ、本当に残念でならないわ。



セフィロトに施された二つの封咒は、兄が死んで直ぐに解いた。
被験者(オリジナル)イオンと自分の中に流れるユリアの血がそれを可能にしたのだ。
オールドラント最後の導師は、自分の運命とそれを教えた預言を恨み死んでいった。
今なら次代の導師が預言に詠まれなかった理由も理解できるというものである。滅び行く世界はもう導師を必要としていなかったのだ。
自分が死んだ後の世界の存続を許さなかった少年は、ティアに協力的だった。
残念ながらすべてのセフィロトを回ることは叶わなかったけれど。
ティアはヴァンとは違った。
セントビナーだけだなんて、そんな生温いことはしないわ。
どうせならすべて同時に。
それをやるに充分な仕掛け施すことができたとティアは自負していた。
兄にできてティアにできぬ道理はない。
あとは約束の地から最後の命令を下すのみである。
これが証であるならば、この身を蝕む障気さえも今は、心地よくてならなかった。



「遅かったな」
坑道の奥にその青年はいた。
吹き上げるセルパーティクルになびく紅い髪が焔のようで、聖なる焔の光とはよく称したものだとティアは己の目的も忘れしばし見惚れていた。
それは共にこの場にたどり着いた朱にも言えることだったようで、初めて見るパッセージリングに圧倒され、セフィロトツリーを背に神代のごとく立つ紅に言葉を無くす。
「待たせてしまったかしら」
紅の目にティアは映っていなかった。翡翠はその後ろで所在なさげに佇む朱にのみ注がれている。
「おまえが・・・・・・」
「誰?」
「なるほど。よく似ているな」
「そうね。でも同じではないわ」
並べてみればその違いは明らかで、記憶の中に残るあの人とも『彼』とも違う。
募る思いは、愛しさと、ほんのちょっとの哀しさ。
愛しさは二人に、哀しさは絆に入り込むことのできない自身に。
一歩だけ、でもその一歩が遙か遠い。
紅と朱が同じ動作で振り返る。
「「ティア」」
伸ばされた手は二つ。
「ありがとう」とティアは心の中で呟いた。
その手を掴んでもいいのですか?
その資格がありますか?


紅は朱を憎まなかった。
朱は紅を恐れなかった。
かつてそうであったのは、そうなるように兄が仕組んでいたからなのだと確信する。
あの人を苦しめたすべての元凶だったモノ。
あんなに簡単に終わらせるべきではなかったのかしら?
でもそれはここではない人の咎。
犯していない罪の償いを強要することはティアにはできなかった。
その身に相応しい罰を。
人は、世界は滅びるべきだとは思いませんか?
ねぇユリア(ご先祖様)。貴方もそう思っていたのでしょ。
だから貴方は残される者たちに預言を与えたのではないのですか?



「さあ、始めましょう」
天に向かい燃え盛る二つの焔の色は、赤。
アルバート式封咒はアルバート流剣術最後の弟子によって解咒された。パッセージリングごと消滅させるという方法であったが、解いたことにかわりはない。
後はこの身に流れる血が叶えてくれる。
ティアは最後の封咒を解いた。



―――メシュティアリカ。焔の守護者たらむ者よ。
―――其は何を望む。



第七音素の意志(ローレライ)の声に答えるモノはなかった。
崩壊していく大地の隙間から光はあふれ、やがてそれは空へと還っていった。



焔は照らす光ではなくて、燃やし尽くす熱であったと知るモノは、もう・・・・・・いない。

Fin


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