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道化師は微笑う。

TOA中心二次創作サイト。

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メシュティアリカ・アウラ・フェンデ①

≪注意≫必ずお読みください。

このネタの主人公は黒ティアです。黒いというよりは壊れています。逆行もしています。
ゲーム本編のネタバレがあるのはもちろん。ファンダムの「遺言~メシュティアリカ~」の内容はあまり反映されていませんが、キャラクターエピソード バイブルのネタバレはあります。
ユリアとかローレライとか秘預言(クローズドスコア)とか、色々捏造解釈しています。
そしてたぶんこれはバッドエンドというヤツだと思います。
誰がどのような扱いを受けているかは保障しかねます。
預言遵守ルートなので、死にネタです。生き残る人がいないと言った方が正しいでしょう。

上記のことをご了承いただけた方のみmoreよりご覧ください。

 




【それで世界が終わるとしても~メシュティアリカ・アウラ・フェンデ~】





風に吹かれて白い花が空を舞う。
あの日『彼』がこの地に降り立って以来、ここを訪れるモノはいなくなった。
あの人のことなんて最初から存在しなかったかのように、世界は『彼』を受け入れた。
それと同時に人々の口からあの人のことが語られることは少なくなり、そう遠くない未来には忘れられてしまうのだろう。
それがあの人の望んだことだと『彼』は言った。
別にそれでもいいと思った。
あの人を思い出にしたかったわけではなかったから、あの人を思い出(過去)にしてしまった世界から思い出(あの人)が消えてしまうとしても、それでいいと思った。
たとえ世界から、大多数の人々の記憶からあの人の存在が消えてしまったとしても、あの人を本当に知る人々にとっては忘れられることではないから。
かわいそうだと誰かが言った。
誰がかわいそうなのだろうか。
その人が本当にかわいそうだと思っているのは、あの人ではなくてそれを言った自分自身ではないだろうか?
気付いていないのならわざわざ教える必要なんてないから、それを指摘したりはしなかったけれど。



カサリと草を踏みしめる小さな音がやけに大きく響いた。
自分以外が奏でる音を聞くのは随分と久しぶりなような気がする。
「行くのか?」
「ええ」
「そうか」
「何かしら」
「いや、うらやましかっただけだ」
「珍しく素直ね」
「一緒に」そう言うことはできなかった。
それを一番望んでいるのは『彼』であり、それができないことを一番知っているのも『彼』だったから。
「あいつから受け取ったモノは重すぎて、俺の片羽の翼ではもう飛ぶことはできない。地上に縛り付けられた憐れなこの身であっても、あいつが残したモノだと思えば、捨てることも傷つけることもできないからな」
うらやましいのはこちらの方だ。
あの人が残したモノに確かなモノなど自分には何もなかった。ただ思い出のみ。それが薄れていくことに気付いたのはいつだったか。けっして消えないと思っていたのに。
あの人の笑顔が思い出せない。
思い出せるのは泣き笑いのようなそれ。
それさえ都合のよい夢ではないと誰が断じることができるというのか。



―――我を呼ぶのは其か?
―――ユリアの子孫よ。其は我に何を望む。
「ティアよ。もしくはメシュティアリカ。ユリアの子孫と言うのは私の名前ではないわ」
それでも、この身に流れる血が自分の望みを叶えるというのなら、今まで血など何の意味もないと思っていたけど、それに感謝してもいいわ。
光が収束し、霧散する。
後には何も残らなかった。
「行ったか」
それがこの世界からユリアの血が消えた瞬間だった。



帰ってきたのだ。
今はまだ自分が知るのと同じ過去。
しかしここから先は。
ティアは自然に口許が緩むのを感じていた。
赤子の身では何をできるはずもなく、今はただ同じ道を歩むのみ。
それでも。
兄さん、貴方の狂気はこのころから始まっていたのね。
気付けなかった過去の自分。
今は違う。
知っているのだから。
必ず止めてみせるわ。
いいえ。違うわね。
己の狂気は兄をも凌ぐ、と。
わかっているわ。
それでも―――たとえそれで世界が滅ぶとしても。
もう、それでも構わなかった。



始まりは、五歳の誕生日を迎えた時だった。
義祖父と兄、それぞれから祝いの言葉とぬいぐるみを貰った。
それはずっとこの部屋にあったモノだ。
今思えば笑ってしまうような半端な覚悟と、些細な甘言で覆されてしまうような決意を秘めて、この部屋を飛び出したあの日も、すべてを終わらせたった一つの約束を胸にこの部屋に帰ってきた日も、二度と戻らないつもりで再びこの部屋を出た日も、その黒曜石の瞳をした熊のぬいぐるみは、いつだってティアを静かに見つめていた。
薄汚れてくたびれてしまっていたが、それでもずっと大事な思い出だった。
今はまだ真新しいこの子。
兄は既に信託の盾(オラクル)の一員であったが、主席の地位はまだまだ遙か高みだった。
今ここで兄を殺せば、何もかもすべては始まる前に終わりを迎えることになるのだろうか。
正面から対峙して勝てる可能性はなかったとしても、手段がないわけではなかった。
五歳の妹に命を狙われているなんて、夢にも思わないでしょうから。
非力な人間にもそれなりのやり方があるということを今の自分は知っていた。あの時何故それを思いつけなかったのだろうか?
それを手に入れたのは偶然か、必然か。
カップに一滴。
それですべてが終わる。
ティアは久しぶりに帰省した兄のための紅茶を運びながら、ふと考える。
今ここでこれを入れてしまったら、あの人はどこに行ってしまうのですか?



機会(チャンス)はいくらでもあった。
そのすべてを見逃してきたのは、ひとえにもう一度あの人に会いたかったから。
それが自分の知るあの人ではないことを今はもう理解していたけれど、それでも姿形が同じであるなら、あの人の代わりになるでしょうか?
答えは否だとわかっている。それでも求めるのはあの朱色(あか)だけだった。
いつだって笑っていたあの人。
悲しみも痛みも不安も、そのすべてを覆い隠して笑っていたのだ。
それを偽りだとは思わないけれど。
絶対に見たことはあるはずなのに、ティアに残されたのはその泣き笑いのような顔だけだった。
満面の笑顔。
それが得られるのならもう、偽者でもよかった。
あの人の本当の笑顔を思い出す切欠ぐらいにはなるかもしれなかったから。



彼女にとってはこの世界のすべてが偽者だった。
そして世界にとっては彼女だけが紛い物だった。



兄が主席総長になったと聞いた。
もう今までのように会うことはできないだろう、と。
そのことは別にどうでもよかった。
会えないということはそれだけ兄を葬り去る機会が減るということだけれど、零でなければ可能性は無限にあった。
あぁ、でも。
グズグズしていたらあの人の偽者が創られてしまう。
ティアは自分がそれを望んでいるのかいないのかわからなくなっていた。
違うモノだけど、一番近いモノ。
姿形が同じであるならば、被験者(オリジナル)でもかまわないかしらと思って、少しだけ兄に我儘を言ったこともあった。
自分の知る道筋とは違ってしまうけれど、ユリアの預言(スコア)はきっとこの程度の差異なんてものともしないだろうから。
外の世界を見てみたい、と。
見たかったのは世界ではなくて、紅(あか)だ。
ふふふ。
確かによく似ているけれど。
それは似ているだけだった。



兄はいい意味でも悪い意味でも妹に甘かった。
預言に捕らわれたこの世界のすべてを壊すつもりでいたのにも拘らず、妹だけは残そうとしたように、その存在を特別視していた。
かつては気付けなかったことだ。
しかし今のティアは知っていた。
これは利用できるのではないかしら。
ティアは兄の隣に立つことを決めた。



ねぇ兄さん。兄さんは何をしようとしているの?
恐ろしいことは嫌よ。
兄さんがいなければ生きていけないわ。
ねぇ兄さん。預言って何かしら?
預言に従うなんて馬鹿らしいわ。
そうは思わない?
預言に詠まれていないから兄さんの傍にいてはいけないなんて、そんなのは嫌よ。
傍にいたいの。
いてもいいでしょ。
兄さんのやろうとしていること本当はよくわからない。だけど手伝わせて欲しいの。兄さんのやろうとしていることですもの。妹が手伝うのは当然だわ。
ねぇ、いいでしょ。兄さん。



兄は妹に甘かった。
そして妹は兄の扱いに長けていた。



兄のために紅茶を淹れる。
それがティアに与えられた唯一の仕事。
それがティアの望んだ唯一の仕事。
徐々に弱っていく兄を見ているのはなんとも不思議な感じがした。



ダアトで紅を見かけた。
以前ちょっとだけ見た時よりもその違いは大きくなっていた。
その表情故だろうか、それともあの人との思い出が鮮明になったからだろうか。
後者だったらいいのだけど、とティアは思う。
眉間に皺を寄せて、浮かべる笑みは嘲笑のそれ。
嘲る相手は誰なのか。自身か、レプリカか、兄か。それともこの世界の全てか。
紅がそんな表情をするようになった本源はあの男にあるというのに。
それでも紅はここにいるというのか?
居場所を奪われた、と理不尽な怒りをぶつけるのだろうか?
あの何も知らない朱色に。
奪われたのは事実。
紅が怒るのも道理。
しかし怒る相手を間違えてはいけないと、言葉が紅に届きますように。
二つの焔が互いを消し合うなんてことになっては困るから、ティアはそっと一つ目の焔に手を伸ばした。
この焔が己を焼くことなどないと、根拠などないがそれは確信。
二つに分かれた聖なる焔は、約束の時、約束の地にて、一つになって世界を焼き尽くす劫火(ごうか)となるだろう。
その焔が消えぬよう守るのが自分の役目。
ユリアの血に托された使命。
兄は間違えたのだ。
己が神になれると、そんな愚かな夢を見てしまった。
ユリアの血はユリア(人間)の血でしかないというのに。
どこまで行ってもヒトはヒト。
焔の守人にしかなれないというのに。
そっと薪をくべましょう。
焔にくべられる薪が何であるかは、ティアだけが知っていればよいことだった。



ここに紅がいるということは、バチカルに朱色の焔が灯ったということだ。
「会ってみたい」と言ったら、疑われてしまうかしら?
クスリと笑みを浮かべ、紅茶に垂らした一滴の涙。
昔手に入れたそれとは違う。
だって一瞬で終わってしまうなんて、そんなの、つまらないから。
大丈夫、と背中をさすれば嬉しそうに笑う。
そんな顔を見せられたら決心が鈍ってしまうから、やめてほしいわ。
引き出しの奥にしまいこんだもう一つの小瓶。
何もかも一瞬で終わらせてしまうそれを、使いたくなってしまうから。
ねぇ兄さん。そんな顔で笑わないでちょうだい。
もう少しだけ一緒にいたいのよ。



今日、朱(あか)に会った。
紅に比べるとこちらの方があの人に似ている。
でも、それだけだった。
似ているだけだ。
「ふふ」と笑ったら、コテンと首を傾げた。
あの人とは違うけれど、これでもいいと思った。
それからこういう考え方は、あの人にもこの朱にも失礼だと思った。
あの人と同じように生まれた命が描く軌跡を見守りたいのか、共に歩きたいのか。
「また参ります」
朱色の子供は花がほころぶように笑った。
それが泣きたくなるほど嬉しかった。
ちょっとだけあの人の笑顔を思い出せたような気がした。
掴みかけたそれはやっぱりティアの手をすり抜けていってしまったけれど。
この朱と共にいればいつか手に入るかもしれないなんて、そんな期待を抱かせるには充分だった。



兄のために淹れる紅茶は何杯目になるだろう。
日に日に痩せ衰えていく兄は、未だ気付くことはない。
それとも気付いているのに美味しそうに飲み干すのだろうか。
それももう、どちらでもよかった。
いつもより一滴多くカップに落とす。
ねぇ、兄さん。
そろそろお終いにしましょう。
兄さんの役目は終わり。
紅色はここに、朱色は光の都に。
灯った焔は二つ。
世界を照らすには眩しすぎて、闇にしか生きられないモノたちは焔を消そうと躍起になるかもしれない。
消させるわけにはいかない。
世界を燃やし尽くすには充分すぎる二つの焔。
火種をばら撒く役目を担うのうは自分。
それがユリアの血に託された唯一の使命。
せっかくの首尾を見せられないのは残念だけど、最初に燃え尽きるモノは初めから決めていたのだから、仕方がないわ。
肉体が燃え尽きてしまったら、貴方の魂はどこに行くのでしょう?
音譜帯あたりを彷徨ってはいてくれないかしら。
叶うならば、貴方がこの世界の行く末を知ることができますように。
最後の一杯は飛び切り美味しい紅茶を淹れましょう。
思いを込めて、ゆっくりと。
ただ感想を聞くことができないことだけが、心残りだった。

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